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フロリダを襲ったハリケーン・イアンは2022年の「オクトーバーサプライズ」になるのか?

ハリケーン・イアンの被害が500年に一度だと主張するフロリダ州知事の発言に違和感を感じていた。カトリーナで1800人規模の死者が出たのを知っていたからだ。調べてみるとカトリーナの被害とイアンの被害は質が大きく違っているようだ。カトリーナで被害を受けたのは低所得者だったがイアンは富裕層に大きな被害を与えた可能性が高い。CNNなどアメリカの報道を見ているとマリーナや別荘地などの被害が目立つ。つまり「お金持ちがやられている」というような印象のハリケーンなのだ。アメリカの経済に大きなダメージを与えるのではないかと言われていたが「最悪の事態は免れた」とBloombergは書いている。

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ハリケーン・イアンはアメリカだけで80名以上の被害者を出した。現在も被害者の全容はわかっておらず被害者の数は増え流可能性がある。このことからハリケーン・イアンの被害が小さかったとは決して言えないだろう。

Bloombergは「住宅や橋、他のインフラの損害額は680億-1000億ドル(約9兆8400億-14兆4700億円)に達すると推定される。」と書いていたが、この被害額は更新された。経済的損害の見積もりは約700億-1200億ドル(約10兆1300億-17兆3800億円)と米史上で十指に入る大きさとなりそうだ。という表現に変わっている。台風一回で14兆円から17兆円が吹き飛んだと考えるとこれも小さな被害とは言えないだろう。

ポリティコが詳しい記事を書いている。ホームオーナーと保険会社に被害が出そうだという。フロリダのホームオーナーは洪水保険に入っていない人が多かった。アメリカの家には資産価値があるとされている。つまり「資産を流された」という人が多いのだ。さらに気候変動によってリスク評価が変わり保険会社の経営が悪化していた。保険が高騰すれば保険に入る人が減り保険会社の経営が圧迫される。今回のハリケーン被害で保険会社が倒産することも考えられるとポリティコは伝える。

ハリケーン・カトリーナの被害はニューオリンズの地形に依存していた。フランスはミシシッピ川を効率的に支配するために本来人が住むのに適していない河口の扇状地に人工的にニューオリンズを作った。中心部には貧困層が取り残され富裕層は郊外に流れるというスプロール現象が起きる。公共交通機関がつかえないためハリケーンから逃れられない人がおり被害が拡大した。つまり都市の貧困問題だった。

ところが今回の問題はこれとは全く違っている。比較的富裕な階層の人たちが資産を失いかねないという話である。資産を全て失ってしまえば中間層から脱落する人もでてくるだろう。保険会社も倒産の可能性がある。また住宅購入資金を提供いているローン会社にも経営の危機が訪れる。そもそも金利が高騰していたため2022年8月に「米住宅ローン業者の倒産相次ぐ、金利急上昇受け融資額が減少」という記事も書かれている。フロリダだけでなく全米で問題になっている。

アメリカではそもそも住宅の供給問題が起きており復興もなかなか進みそうにない。その上で経済にも影響が出かねない。アメリカの金融は複雑に入り組んでいるため局所的なショックが大きな問題に発展しかねないという側面がある。

ただ最悪の事態は防ぐことができたようだとBloombergは書いている。フロリダには国内外で使用する肥料を生産する施設があるそうだ。この肥料センターに被害が及べば問題は全米に波及していた可能性がある。

だが、政治的には難しい状況が続く。フロリダ州は知事選挙を抱えている。共和党の候補者は現職のデサンテス氏だが民主党の候補者は元共和党知事で下院議員を務めたチャーリー・クリスト氏になりそうだ。つまり民主党の生え抜きがこの地域で勝利する見込みはないという状態になっている。かつてのライバルに頼ってもフロリダ州を抑えたいという気持ちがあるのだろう。

デサンテス氏は民主党に対する攻撃姿勢を強めていた。そんなところにハリケーン被害が起きたのだから原因や復興をめぐって大きな問題になることは目に見えている。バイデン大統領は10月5日にフロリダ入りするそうだがどのような復興策を提示するのか、またフロリダ知事のこれまでの政治姿勢についてどのような言及をするのかに注目したい。

二期目のブッシュ大統領はカトリーナの被害救済で評判を落とし中間選挙に敗れたと考えられているそうだ。CNNも大失敗と書いている。こうした10月に起こる異変をオクトーバーサプライズと呼んでおりアメリカの選挙に度々影響を与えてきた。バイデン大統領も当然これを知っているだろう。ハリケーンイアンをオクトーバーサプライズにしないように慎重に対応しなければならない。

いずれにせよハリケーンイアンの被害は甚大だった。財産を全て処分してフロリダに移ったリッキー・アンダーソンさんは「貯金も家財道具も全て失った」と途方に暮れている。つまり生き残った人たちにも厳しい生活が待っている。またフィオナによるプエルトリコの被害もまだまだ復旧しておらず、この地域の気象変化がさまざまな階層の人たちの明日の暮らしにとって大きな脅威になっていることがわかる。

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