イタリアで極右政党イタリアの同胞(FDI)が躍進した。メローニ氏が新しい首相に任命されることになりそうだ。今回は既にさまざまな分析が出ているがこの記事で強調したい点は2つある。
- イタリア国民の国政への関心は薄れている
- 今回は左派が選挙対策に失敗した側面があり必ずしも右派が勝利したとは言えない
つまり、FDIの台頭の結果、国民全体の支持がない中道右派政権が誕生する可能性が高い。だがいずれにせよイタリアの政治状況はヨーロッパの足並みを乱すのみならず対ロシア政策を通じて西側諸国の結束に大きなダメージを与える可能性が出てきた。さらに「お騒がせ発言」で知られるベルルスコーニ氏が政界の中枢に戻ってくる。
これまでの経緯を簡単におさらいする。イタリアでは既存政党が退潮した。代わりに躍進したのが北部の自立を求める同盟とネットで出たポピュリズム運動の五つ星同盟だった。イタリアはEUからの援助に期待していたが、反EUのポピュリズム政党はEUから資金が引き出せなかった。
そこで担ぎ出されたのがヨーロッパ中央銀行の総裁だったマリオ・ドラギ首相だ。ドラギ首相のコロナ対策も好評だったがEUから2000億ユーロのコロナ復興基金を引き出すことにも成功した。結局議会がドラギ首相に期待したのは「ヨーロッパから金を引き出すことだった」ことになる。ドラギ氏の役割はここまでだった。再び議会はまとまらなくなりドラギ氏の政権は崩壊した。
BBCの事前報道によるとイタリアでは夜の11時まで投票ができるそうなのだが投票率は低かったようだ。特に南部のシチリアとカラブリアでは投票が低調で全体は70%に届かなかった。また中道・右派勢力も実は支持を伸ばせなかった。にもかかわらず中道・右派が台頭したのはイタリアの選挙制度に理由があるという。事前に連立を組んで選挙戦を戦った方が選挙で有利になるそうだ。ロイターが2本記事を書いている。
イタリア全体がいきなり右傾化したわけではなく左派の選挙戦略の失敗と南部を中心とした国民の落胆によりこのような結果になったものと考えられる。
メローニ氏は「euroscepticism(EU懐疑主義)」の主張をあまり出さず代わりにロシアに対する主張を急進化させていているようだ。だがムッソリーニに時代から連綿と続くファシズムの思想の一部を引き継いでもいる。もともとイタリアの同胞はムッソリーニの支持者が作った政党なのだそうである。
ただしドラギ政権に参加していなかったイタリアの同胞が躍進したのは確かだ。選挙が始まる前からBloombergはメローニ氏の優勢を伝えていた。
Bloombergが注目しているのは「メローニ氏に市場がどう反応するか」である。
「財政規律に関する欧州連合(EU)ルールに異論を唱えないと表明、2000億ユーロ(約27兆7700億円)近い回復支援金を脅かすようなことはないと繰り返し述べ、市場の懸念を鎮めようとしている。」と表記する通り、メローニ氏の政策がEUやヨーロッパ中央銀行の当局者たちの機嫌を損ねれば「復興資金」が提供されなくなる可能性がある。これはトラス首相がイギリスにもたらしたのと同じかそれ以上のショックをヨーロッパに与えることになるだろう。
少なくとも今の所「メローニ・ショック」は起きていない。ドラギ政権が揺らぎ出した頃からトレーダーたちは「ユーロ離脱」などの過激な政策を予想しイタリアの資産をヘッジし始めていた。7月ごろにはこんな記事が出ていた。
7月の記事でBloombergは新しくできるであろう政権を「ユーロ懐疑派や財政への責任感が薄い政権が誕生する可能性」と予想していた。結果だけを見るとこの予想は当たったように思える。
今後、連立を組む予定の二つの政党党首とメローニ氏が折り合って行けるのかに注目が集まる。
メローニ氏は「イタリアの伝統的な価値」に重きをおく。LBGTや移民に優しくない発言を過去に繰り返している。一方で他の二党の党首はプーチン氏を擁護する発言を繰り返し「イタリアは経済制裁ではなく自国の経済立て直しを優先すべきだ」と主張しているようだ。例えば今年85歳になるベルルスコーニ氏はプーチン氏は「あおられて」侵攻しただけと主張しその後釈明に追われたという。
国民が投票に参加しなくなり高齢のご意見番がお騒がせ発言を繰り返すというのは日本でもよく見られる光景だがイタリアもそのような状況になりつつある。