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アメリカで広がる静かな退職(Quiet Quitting)と静かな雇い止め(Quiet Layoff)の微妙な関係

アメリカを中心に新型コロナの流行をきっかけにワークライフバランスを見直す動きが出ている。これまで生活を支えるためにより良い生活を目指すために働いてきたアメリカ人たちが「もうこれ以上頑張らなくてもいいのではないか」と思い始めているようだ。

職場環境が急激に変化したことで「企業の無制限の貢献をしよう」と考える人が減っており企業も対応を迫られているとビジネスインサイダーは説く。これを静かな退職(Quiet Quitting)と読んでいる。オーストラリアのElleは若者向けに静かな退職が新しい生き方なのだと説明する。

一方でトップ企業は優秀な従業員だけを選別するために静かな雇い止め(Quiet Layoff)という手法を編み出したと指摘する人たちもいる。「イタチごっこ」のような状態になっていることがわかる。

確かにQuiet Quitting、Quiet Layoffという言葉は単なる「バズワード」でもあるがアメリカの空気をよく表している。背景にあるのはやはりコロナ禍による環境の変化のようだ。

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アメリカのエリート層たちは日本人などよりもハードワークだということが知られている。給料が高い仕事は競争も高くうかうかしていると首を切られてしまうという環境で働いている人も多い。

ところが新型コロナの流行がこの環境を変えつつある。第一にリタイヤを計画していたベビーブーマーたちの退職が早まった。さらに急なレイオフがあり「頑張って働いても首を切られても文句は言えない」という現実を突きつけられた人たちも多かった。さらにインフレで物価が上がり始めると「頑張っても報われない」と考える人が増え始めた。

2022年3月にはGreat Resignation(大量離職)が話題になった。NHKが特集記事を書いている。Great Resignation(大量離職)には構造的な背景があった。

  • 在宅勤務ができない人々はリスクのある通勤を余儀なくされた。
  • 従業員を引き止めようと店や会社が賃金を上げて従業員を確保しようとした。また政府も手厚い支援を行ったために新しい仕事を探す期間が増えた。
  • 労働市場が加熱するとより良い賃金を求めて就職先を変える人が出てきた。
  • インフレが加速し中央銀行が気を揉む事態になっている。

この記事が書かれたのはウクライナでの戦争が始まってしばらく経った頃だった。つまりまだウクライナの事情は織り込まれていない。FRBがタカ派政策に転じる前だったので「中央銀行は気を揉んでいる」と書かれている。のちにFRBは「経済を一部壊してでも景気加熱を止めなければならない」というところまで追い込まれている。

そもそもこのGreat Resignation(大量離職)は早期退職した300万人のベビーブーマーを計算に入れていない。つまり求職活動をしていた人たちの他に「コロナで引退を早めた」人たちがいる可能性を考慮がある。日経新聞は「インフレで資産価値が急騰したことで引退を早める決断をした人がいる可能性」にも触れている。景気対策のために市場に入れたマネーが間接的に働きGreat Resignation(大量離職)やベビーブーマーの早期引退という思わぬ事態をうんだ。

Quiet Quitting(静かな退職)は離職ではなく「言われた分しか働かない」とか「給料が払われる時間しか働かない」という形で広がりつつあるようだ。オーストラリアのElleはこれが「Z世代に受け入れられている」などと説明している。「新しいトレンド」と見る人もいるのだろう。Elleは若者の間に「キャリアよりも幸福」を優先する人が増えていると言っている。確かに一過性の風潮なのかもしれないのだが、その風潮が新しい世代を形成する。ただし「単にサボっているだけでは?」という声はある。

ただし、新型コロナ禍だけがこうした風潮を作っているのではないのかもしれない。実はこういう働き方をしていた人は今までも多かったのだとビジネスインサイダーは主張する。職場環境が厳しくなるに従って「何のために仕事をしているのか分からない」と感じる人が増えており半数が会社への無条件の貢献を控えるようになっているのだという。

Quiet Quitting(静かな退職)はネット媒体が閲覧数を増やそうとしている新しいバズワードの一つであるとも言えるのだが、新型コロナをきっかけに人生を見直す人が増えたという近年の傾向も示している。さらにこれまでも仕事に意味を見出せなかった人や余裕を持ちたいと考えていた人の行動を掘り起こす。

ビジネスインサイダーの記事は「建設的」にマネージメントが社員にモチベーションを与えないのが問題なのだからマネージメントを見直すべきだと結論付けている。だが実際にはそうならないかもしれない。実はこのワードを知ったきっかけはタイムラインに流れてきたあるTweetだった。MetaやGoogleがQuiet Layoffをやっているという記事だった。実に色々なバズワードがあるものだと感心させられる。簡単に言えば椅子取りゲーム型の解雇である。

MetaやGoogleではプロジェクトベースで成果を競わせているのだろう。ときどきチームを再編成して新しい仕事を選ばせるのだという。この時に従業員が仕事を見つけることができなければ実質的に雇い止めにできる。

ところが「全体像」は誰にも見えない。つまり椅子の数を減らせば事実上の解雇ができるのだ。椅子の数をだんだん減らしてゆき、ある日音楽を止めて新しい椅子を競わせるのである。今回Twitter経由で見つけた記事には「Googleのある事例では95%が新しい仕事を見つけられた」と説明している。つまり企業は5%の従業員を減らすことができる。そして優秀な人をまた雇うのだ。労働者保護が少ないアメリカではこれは合法のようだ。

従業員は自分のペイチェックを減らさない範囲で「どこまで仕事をサボタージュできるのか」を考え始めており、GoogleやMetaのような企業はどうやったクリームの上澄みの優秀な従業員だけを維持できるかの「技術」を磨いているということになる。

新型コロナはアメリカの職場環境に思わぬ変化を与えているようだ。従業員たちはこれまでの働きを見直しまた企業もそれに合わせる形で雇用形態を見直している。

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