政府・日銀の円買い介入は一旦は成功。今後は「二正面作戦」をどこまで持ち堪えることができるかが焦点に。

日銀が円買い介入をした。既に数時間前の出来事なので為替に詳しい人は大体のことはわかっているだろうと思うのだが「情報をおさらいしたい」という方に若干経緯だけを説明したい。形的には「防衛成功」ということになっているが、ロイターによるとエコノミストの見方は懐疑的なようだ。これも最後に触れてみたい。






背景と経緯

日本円の円安傾向が続いている。アメリカやヨーロッパでは景気が加熱し過度なインフレが起きているため経済を犠牲にしてでも景気を冷ます必要が出てきた。このため中央銀行ができることは少ない。経済が痛む可能性はあるがその覚悟をした上で金利を上げざるを得なかった。

FRBがパウエル議長は強い調子でインフレ予想を打ち消す必要があるがそのためには経済が犠牲になる。そこでFRBが何かを発表すればニューヨークの株価が下がるとう循環になっており日本にも波及してくる。アメリカでCPIが発表されたりFOMCの政策会合が終わった後に株価が分かりやすく動揺するのはそのためである。今回も識者は織り込み済みだったのだがそれでも「NY株、一時3万ドル割れ 景気懸念で3カ月ぶり」という事態になっている。

日本ではアベノミクスが効果を見せていないため「第一の矢」であった金融緩和がやめられない。最近では国債を無制限に買って国債価格を維持する「オペ」が行われており、バブルはいつかは弾けるのではないかと言う予想がで始めた。これが第一の戦線になっており今も継続中だ。一日前には「国債取引、2日連続不成立 現行制度で初―東京債券市場」という記事が出ており市場関係者の間で「市場機能が低くなっており崩壊するのではないか」との懸念が伝えられ始めた。

一方で円安も政治的テーマになり始めている。テレビでは盛んに「円安で一世体当たり60,000円から70,000円程度の負担が増える」などとやっている。NHKまでもどちらかと言えば悪い円安だというトーンだ。10月からはまた物価が上がる。岸田政権は支持率低下に直面しており、これを見過ごすことは政治的にはできないだろう。

円安は黒田総裁の金融政策が原因なのだからこれを修正するまでは円安が止まることはない。だが黒田総裁が金融政策を変えてアメリカに追随するとアメリカで今起きているような問題が起こる。つまり景気が失速してしまうのである。アメリカでは加熱した景気を冷ますと言う意味合いがあったが日本の景気はそうではない。つまり日本はさらにひどい状況に陥りかねない。岸田政権が意味ある景気浮揚策を打ち出さない限りこの状況から日銀が単独で脱却することは不可能だろう。こちらも政治的には取りにくい選択肢だ。

ではどうするかというのが背景である。

経緯

今回FRBは予想通りに利上げを行った。日銀は会合を行い「これまで通りにゆく」と宣言した。ロイターのタイトルは「緩和継続を強調、金融政策の先行き指針の変更は2―3年ない=日銀総裁」である。当然「今後も同じ基調が続く」のだから金融市場は円を売るポジションを取り「どこまで行けるか試してみよう」ということになった。

日銀が維持を決めた後にいったん為替が円安方向に動いたがその後修正された。この時点では神田財務官は「まだ何もやっていない」と宣言していた。この時に何が行われたのかはわかっていない。表向きは何もなかったことになっているのだが、この時に何らかの「予行演習」をやったのかもしれない。

そしてついに24年ぶりの為替介入が行われた。神田財務官の「まだ」はこれからと言う意味だったのだ。約24年ぶり円買い介入、「過度な変動見過ごせず」と鈴木財務相は成果を強調した。ところがこの時点でロイターは効果はまだ未知数であると言っている。

円買い介入は財務省の仕事だがTBSは「【速報】政府・日銀が約24年ぶりに円買い・ドル売りの為替介入 「断固たる措置に踏み切った」神田財務官が表明」と政府・日銀を主語においている。この記事もそれに合わせて「政府・日銀の」とした。

エコノミストたちの見方と今後

それではエコノミストたちはどう見ているのだろうか。彼らはエコノミストであり実際に資金を運用しているわけではない。危機の時には実際の運用者の意見の方が役に立ちそうだが、今後どうなるかについては第三者的な見方をしている人の声の方が重要かもしれない。

  • エコノミストたちは円買い介入には外貨準備高という規模の限界があると言っている。つまり戦争に使える「弾」は限られている。
  • アメリカの国債を売れば弾はもっと調達できるが米国債を売ればドル高になる。ニッセイ基礎研究所のシニアエコノミストである上野剛志氏は規模を20兆円程度と予想する。

単独介入という見方が一般的でこれは日本がアメリカの軍隊の支援なしに戦っているのと同じ状態になっていると読んでいるようだ。この戦いの例えをもっとも効果的に使っているのが、アシメトリックアドバイザーズのアナリストであるアミール・アンバーザデ氏だ。

これで日本は2正面で戦うことになった。日銀は長期金利の上昇を抑えるために戦い、財務省は日銀の政策ミスの影響を相殺するために為替介入する。

つまりお互いに相矛盾することをやっているとみているようだ。

まとめ

アミール・アンバーザデ氏の例えを採用するとアメリカの支援なき二正面作戦ということになる。実弾の数は限られているが「金融政策変更」や「政府による効果的な経済成長政策」と言ったような援軍も来そうにないという孤独な戦いだ。

実弾は限られているものの何もしないということになれば、金融当局(財務省、金融庁、日銀)が非難されかねない。そこで事前に共同声明なき会合をやり、岸田総理にも面会した上で、介入が決定されたのかもしれない。だが投資家たちには「限界がある」ことはわかっている。

それでも一歩踏み出してしまったことは確かなのだから状況が変わるまで戦線を維持しなければならない。防衛線は145円と設定された。あとはそれを守らなければならないのである。負ければヘッジファンドの言いなりになってしまうしかなくなるかもしれない。

実情はかなり難しいところにきている。あとは「いつ金融政策を変更するのか」が焦点になる。だが黒田総裁は「後二、三年はこのままでゆく」と主張しており、黒田さんが総裁である間はこの二正面作戦を続けなければならない可能性が高そうだ。

黒田総裁は金利差にばかり焦点が当てられる相場に苦言を呈しているのだが、金融関係者たちはクライアントの資産を守るために行動しているだけである。彼らが動くと考えれば実際に為替相場は変わる。中央銀行と財務省はゲームの基本的な環境は作れるが実際のプレイヤーたちを支配することはできない。

岸田総理はニューヨークの会見で「為替市場の過度な変動に対しては(今後も)断固として必要な対応を取る」と述べたと共同通信は書いている。だが岸田総理は金融界の出身だ。おそらく今の状況はわかっているだろう。

「防衛成功」という大本営発表が流れれば引くに引けなくなるのではないかと思ったのだが、マスコミの論調は意外と冷静だったようだ。

一方で、TBSは「政府・日銀が“伝家の宝刀”24年ぶり為替介入 「焼け石に水かもしれないがやらなくては」と財務省幹部」とヘッドラインの取っている。資金は限られているがとりあえずやることはやったという苦しい状況が伝わってくる。朝日新聞も「覚悟が何度も試される」と日銀出身のある自民党議員(検索すれば名前は出てくるのだが)のコメントを紹介している。やはり党にも実情は伝わっているようだ。

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