9月のFOMCの結果は市場の予想通りに75ベーシスポイントの利上げだった。直前にCPIショックと呼ばれる株価下落もあり今回のFOMC会合の結果でアメリカの株式市場やドル円相場が大きく動くことはなかった。その一方で10年ものの日本国債の売買が2日成立しないという事態になっている。
FOMCの決定を受け日経新聞は「NYダウ522ドル安、大幅利上げで2年金利は15年ぶり水準」と書いている。これだけを見ると「やはり下がったではないか」という人が出てくるかもしれない。だが記事をよく読むと「ダウ平均はパウエル議長の記者会見中に前日比で200ドル以上上げる場面もあったが、取引終了にかけて売りに押された。終値は522ドル(1.7%)安の3万0183ドルだった。」と書かれており乱高下していることがわかる。FOMCの決定を見て安心し、中身を聞いて不安になるという一喜一憂という状態になっている。
これまではFOMCにばかり注目が集まっていたのだが、今回は少し違った要素があった。日本国債の市場が「機能を失いつつある」と囁かれ始めている。これまでの震源地はアメリカだったのだが、今後は様相が変わる可能性がある。NHKは「日銀 きょうから金融政策決定会合 金融緩和の方針確認の見通し」と書いている。実際の発表は21日の午後三時だがサプライズはなく「これまでの方針が確認されるだろう」と言っているのである。
そんな中、国債の売買の取引が成立しなかったことについて、ロイター通信が短くまとめている。気になる点を抜粋したので文脈等はオリジナルの記事を参照していただきたい。全てが「事実」というわけではなく「可能性」についての言及が含まれるため、どの程度の確度の予想なのかは注意して読んだほうがいいと思う。いずれにせよ「可能性に言及している」ということはその備えも考え始めているということになる。彼らはエコノミストではなく実際の資産運用に使う戦略を扱う人たちだからだ。一部のエコノミストたちのように記事を売るために事態を大袈裟に伝える必要はないが見方を間違えれば顧客の資産が失われる。
- 東京円債市場で21日、長期金利の指標である新発10年国債の業者間取引(日本相互証券ベース)が、前日に続いて成立しなかった。
- 金利を人為的に抑え込む円債市場では「マーケットが壊れつつある」との声も出始めている。
- 「指し値オペ」を毎日実施しており、このため、市場参加者は指し値オペには応札しても、通常の市場では売買しないようになってきた。
- 状況は徐々に悪化しており、また黒田日銀に対する政治的圧力も高まる中、どこかで転換点が来る。
このところ日本の為替相場と株価はアメリカ連邦準備銀行の政策に連動して動いていた。ところが徐々に各種指標(消費者物価指数、住宅着工数・在庫数、失業率)のような先行指標に一喜一憂するようになっている。今回のFOMCで為替や株価が動かなかったのはそのためだろう。
FOMC後に急激な状況変化がなかったところ見ると「ああよかった」という気持ちになる。どうやら別のところで別問題が起きているようだ。アメリカ合衆国やEUが金利を上昇させる一方で日本はこの流れについてゆけていない。このため「日銀の防衛にも限界があるのではないか」と囁かれ始めたわけだ。
Bloombergによると今回の日銀の介入額は落札額は1兆2637億円で6月以来の規模だったそうだ。ロイターの別の記事は日銀が国債を買い支える状況を「国債バブル」と言っている。アジアのヘッジファンド、円安終焉に備え 国債バブル崩壊も警戒から気になるところを抜き出した。抜粋であるため元の文脈はオリジナルの文章で確認していただきたい。チュア氏とリウ氏には共通点もあるがそれぞれポジションが異なっている。
- チュア氏とリウ氏は日本の金融刺激策は持続的な経済成長をもたらすのではなく単にインフレをあおっただけで、日本国債で起きているバブルがやがて崩壊する可能性があると警告している。
「バブルはいつか崩壊するものだ」という認識を持つのは当然のことで特にこの視点に驚きはない。だが「現在は国債バブル状態にある」とはっきりと言われてしまうと「海外から資金を調達しているわけではないからバブルではない」と反論したくなる。ただチュア氏とリウ氏は自分たちの見方で資産を運用しており成果を出している。特に政治的に日銀や岸田政権を批判しているわけではないのだ。
日本のメディアが今回の動きを「バブル」として伝えることはないだろうが、おそらく日銀の関係者も政府の当局関係者も状態は理解できているだろう。つまり、これ以上国債の発行額を増やし続けることはできないということはわかっているはずだ。
10月から臨時国会が始まる。「#税は財源ではない」運動からもわかるように歳出圧力は強まるだろう。国民民主党の玉木代表も「インタビュー:経済力強化へ「しっかり財政出動」=玉木国民民主代表」と主張する。岸田政権としても国葬問題や統一教会問題からの挽回を図るには大規模な財政出動をして地方や関連団体に「心配り」をしたいと考えるだろうが、おそらくそれはもう難しいということは十分にわかっているものと思われる。つまり今後は豊富な予備費を使った自由な運営はできなくなる。これは安倍政権・菅政権と比較されるはずだ。つまり党内からも一定の不満の声が効かれることになるのではないかと思う。
さらに金融当局の「レートチェック」が口先介入だけだったということもわかってしまった。日銀はいざとなれば国債を買い支え利率を低く抑えておくことしかできない。今回のFOMCで為替が動かなかったことから、直ちに円安が進むということにはならないだろうが一旦円安傾向が始まれば「口先」だけで抑えを効かせるのはなかなか難しそうである。
ただ、アジアのヘッジファンドは「日本当局はさすがにいざとなったら為替介入するだろう」と読んでいるようだ。つまり円の暴落(ロイターの記事では「超円安」と表現されている)といった事態はいざとなれば阻止できると考えているのだ。世界有数の経済大国なのだからそれくらいはできて当然だという期待もまた一方にあるようだ。
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