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いわゆる「特別軍事作戦」の長期化の予想でロシアの株価が大きく下がる

23日から27日に東部・南部でロシアの編入を問う住民投票が行われる。主権国家に対する侵略行為で認められるものではないが東部ハルキウ州を奪還されたロシアとしては現状を固定したいという狙いがあるのだろう。だが一度コミットメントを強めればロシアはその後も大規模な「軍事作戦」を固定化する必要が出てくる。いずれにせよロシア側の焦りがよくわかる動きだ。

ただこの動きの裏でロシアの株価がかなり下げたようだ。ロイターが「ロシア株価急落、戒厳令発令を懸念 ルーブル相場は安定」という記事を書いている。メディアからは伝わってこないもののロシア国内の厭戦気分が透けて見える。

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今回の住民投票の情報は西側からのリークではなくタス通信の発信だ。親露派の独立ではなく「ロシア編入」ということでクリミア半島と同じ形になる。これまでは住民投票すらも実施されていなかったところから一気に踏み込んだ形だ。軍事作戦による「力による現状変更の固定化」で決して許容されるべきものではないが、同時にロシアもかなり焦っているのだろうなということがわかる。あまり戦略的に練られた動きだとは思えない。

反対運動が抑えられているロシアでは目立った抗議運動は起きていない。地方選も政権側の圧勝と伝えられた。ただし、冒頭で紹介したロイターの報道を見る限り投資家を抑えることはできなかったようだ。ロシア議会はこのところ兵力維持に向けた施策を打ち出しており「戒厳令の恐怖」が呼び起こされたうえ住民投票でロシアへの編入があれば事態が長期化するということを予測しているようだ。ドル建てのRTS指数は約9%、ルーブル建てのMOEXロシア指数は約8.5%下落した。政治はコントロールできるがさすがに投資行動までは変えられなかったようである。

専制主義の国なのだから政治はコントロールできるのだろうと思いたくなるがここでも造反の動きがないわけではない。地方議会からも一部「造反」が起きている。サンクトペテルブルクの地方議員のグループが大統領の解任を要求した。裁判所はこの時に行われた会合を無効と判断し自治体首長によって議会を解散させるかもしれないとの見方を伝えたという。国民の中には長引く「特別軍事作戦」への抵抗の動きが出ているものの、司法(裁判所)・立法(議会)などがかろうじて圧力をかけているということになる。

このようにロシア国内はプーチン支持一辺倒ではないようだ。議会からは現状打開のために総動員体制に移行すべきだという声が出ているものの政権は慎重な立場である。世論の反発は怖いが議会の圧も無視できないのだから戦況は維持したい。さらに議会には成果を示さなければならない。そこで受刑者を戦線に投入するなどして補充を図っているという。

議会の強硬派が成果を求めそれに押し出される形で住民投票による領土編入が提案されるという図式になっているようだ。

もちろんこうした強引なやり方は現地の大きな犠牲の上に成り立っている。ロシアが撤退した地域では虐殺の証拠が出ておりプーチン大統領を国際刑事裁判所(ICC)で裁くべきだとフォンデアライエン欧州委員長などが主張している。つまりプーチン大統領の国際的な立場も悪化の一途だ。だがもう後戻りはできない。そんな状況にプーチン大統領は自らを追い込んでいるのかもしれない。

少なくとも力で押さえつけられた住民たちがロシアに従うとは考えにくい。現状の固定化は難しいだろう。さらにロシア国内では足元から造反の動きが出ているが議会多数派はいぜん強硬姿勢のようだ。つまりこのまま出口が見えない状態がしばらく続きそうである。国境を挟んで両国民の苦難は続く。

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