プエルトリコは320万人弱の人が暮らす面積9104平方キロメートル程度の島国である。西隣には海を挟んでハイチとドミニカ共和国がありその向こうにはキューバがあるという並びだ。島の大きさは鹿児島県とほぼ同じ程度だという。島国といっても独立はしておらずアメリカ合衆国の自治領という扱いになっている。住民はアメリカ国籍を持っているが連邦に対する納税義務がなく従って大統領選挙の投票権がない。また連邦下院に議会を送ることはできるが議決には加わらない。そんなプエルトリコをハリケーン・フィオナが襲った。壊滅的な洪水が発生し全島が停電し150万戸が影響を受けているという。
CNNのYouTubeビデオは5年前のハリケーン・マリアとの比較している。マリアは突風だったが今度は激しい雨が襲ったようだ。さらに全島停電の影響で水の供給が止まっているようである。アメリカの各州やFEMAからも人員が入り災害球場活動が行われているが被害の全容は見通せていない。
台風の洪水被害や全島停電だけでも心配なニュースだがプエルトリコの人たちにはもっと大きな心配がある。それはプエルトリコの財政状況である。
プエルトリコの財政破綻はオバマ政権時代に懸念され始めたが問題が解決されることはなく実際に破綻してしまった。債権整理は2022年初頭まで続いておりやっと裁判所で決着がついたばかりだったそうだ。つまりこれから財政再建しようとしたところでまた大型のハリケーンに襲われたことになる。
遡って見てみよう。
5年前のハリケーンでプエルトリコ政府は当初の死者数を64名と発表していた。ところが後になってハーバード大学のチームなどが実は4600人の死者が出ていたという調査をだしていると朝日新聞(YouTube)が伝えている。統計がずれたのは「二次災害」が広がったからである。インフラが破壊され満足に医療にアクセスできなくなった人たちが大勢なくなっているのだ。政府はこうした二次災害を扱っていなかったため大きな開きが後になって「発見」された。
しかしながら当局を責めるばかりにはいかないという事情もある。この時すでにプエルトリコは730億円の財政赤字を抱えていたとBBCが書いている。プエルトリコ自治政府は2017年5月に財政破綻手続きに入っていた。ハリケーンが襲ったのは財政破綻手続きの直後だったのだ。
裁判所が再建再編の最終許可を出したのは5年後の2022年1月だったという。つまり、プエルトリコは5年弱もの間、債権整理をしていたことになる。この時にプエルトリコの知事は「年金受給者、大学、自治体を守ることができる」と宣言していることから、これまでは自治体が十分に守られていなかったことがわかる。
今回のハリケーンのニュースだけを見ると「5年前に災害に遭っておきながらなぜ何もしなかったのだろうか?」などと思ってしまうわけだが実は5年前にデフォルトしておりそれどころではなかったのである。
プエルトリコが財政破綻したのはトランプ政権下だった。トランプ政権のせいなのかと思ったのだが、実は財政が悪化したのはオバマ政権下だったようだ。2014年にデフォルト懸念が出た時連邦政府はプエルトリコを支援しないと表明していた。
2015年にはすわデフォルトというところまで行ったがかろうじて回避されていたと報道されている。つまり2014年以降抜本的な対策はなされていなかった。同じ年の2015年にはプエルトリコ電力公社(PREPA)の融資が返済期限を迎えていたが返済の見通しが経っていなかった。
議会も何もしていなかったわけではないようだ。2014年に債務整理のためにプエルトリコ債務再編法が成立していたが「連邦破産法と相容れない」という理由で2016年に裁判所によって法律の無効が宣言されていた。
オバマ政権がなぜ何もしなかったのかについて調べるとアメリカの地方政治がかなり追い込まれてたことがわかる。そもそも地方自治体は破産ができないことになっておりプエルトリコを特別扱いすれば同じような扱いを求める地方自治体が多く出ることが予想されていた。とはいえ地域再生もうまくゆかず遂にプエルトリコは破産してしまったのである。
プエルトリコでは、景気が後退すると雇用を求めて人が本土に流れるという悪循環が起きていた。5年前のニュースではプエルトリコの人口は350万人だと書かれているが今回調べると320万人だった。財政破綻をきっかけに人口が流出していることがわかる。今回もインフラ復旧が進まず医療や水(停電になると安全な水の供給ができない)に中期的な懸念が生じればプエルトリコに見切りをつけて本土に移住する人はますます増えるだろう。本土は労働力不足が起きているため仕事を見つけること自体は容易なはずだ。現在アメリカ本土では移民問題が社会問題化しているのだがプエルトリコ人にはアメリカ国籍があるためこうした問題が生じない。
自然災害のニュースでは流された橋や洪水といったショッキングな映像ばかりが消費される一方でその後の復旧過程についてはあまり報道されない。だが実際には経済破綻を起こした自治体がその後どのような経緯をたどって衰退してゆくかがよくわかる事例となっている。新しい債権が発行できなければ自前でインフラ整備の資金を出すのは難しいのではないかと思う。
プエルトリコの場合は5年後の教訓があるため「今後何が起こり得るか」が予想しやすい。バイデン政権がどれだけプエルトリコを支援するかによってかなり大きく命運が左右されそうだが、大規模な援助はあまり期待できないのではないかと思う。
自治領であるプエルトリコには大統領選挙の投票権がなく州議会の代表にも議決権がないのだ。