あるハッシュタグを見て驚いた「#税は財源ではない」というのだ。日本の財源は税金と国債発行が主なので著しい事実誤認であるがわかりやすいために大きく広がったのだろう。
おそらくこの運動自体は一過性のものなのだろうが、これを見ていて心配になったことがある。それが2023年から実施されるとされているインボイス制度だ導入だ。制度が導入されることは決まっているのだがこの調子だとかなり混乱することになるだろうなと思う。
「この二つを結びつけるのは乱暴なのではないか」と思う人もいるかもしれない。順を追って説明してゆきたい。
「#税は財源ではない」の運動主体は定かではない。れいわ新選組の支援者が目立つのだが、MMT運動に乗っていたかつての自民党保守派と呼ばれる人たちも合流しているようである。日本政府には通貨発行権があるから税金を取らなくても大丈夫という主張になっているようだ。
もともと自民党の中に上潮派と呼ばれる潮流があった。積極財政で税収を増やすべきだという主張だった。これが金融政策で経済成長を目指せるというリフレ派という考え方に変質していった。これが発展して「政府には通貨発行権があるから税金など取らなくても構わない」となったのが現在地ということになる。
この運動体の核にいる人たちは「現在の国家は誤解の上に成り立っている」と考えているらしい。Quoraでこの問題について紹介したところ「誤解している人たちを啓蒙するために自分達は立ち上がった」と主張する人がいた。一種の宗教運動のようになっているようだ。あなたたちは騙されているから我々が解放してあげますよということになっており「近づくのは危険だな」と思った。
だが、この運動が盛り上がっているところを見ると、世間一般に財政に対する理解があまり広がっていないことがわかる。仮に「間違った情報」を得たとしてもそれを補正する手段はない。
この運動自体が一般に広がることはないのだろうがSNSの混乱を見ていて心配になったことがある。それが2023年10月から始まるインボイス制度だ。実はこちらもSNS上では議論がかなり錯綜している。一般企業はそれなりに対応できるだろうが個人事業主はかなり大変になるかもしれない。
インボイス制度にはいろいろな反対意見が出ているが、議論が複雑であるためあまりよく理解されていない。国税庁に「納税義務の免除」という項目があるが、この納税義務を免除されている人が消費税分と言ってとったお金をそのまま懐に入れてしまう「益税」という問題が解消されるとして賛成する人たちがいる。また事務手続きの煩雑さを解消するために「この際システムを導入しましょう」とのセールストークにも利用される。電子インボイスという「便利なもの」があるようだ。
今回さまざまな反対意見について調べたのが最も興味深かったのが自民党の山田太郎議員のブログ記事だ。「このままのインボイス制度には反対します」となっている。6月に書かれた記事のため現在では状況が変わっているかもしれない。自民党は本来インボイス制度には賛成の立場なのだが山田議員はフリーランス表現者擁護の立場から懸念を表明している。事務手続が煩雑だというのである。
全ての取引についてインボイスを保存しなければならない。国税庁にとっては理想的な仕組みだが現実の商習慣を勘案した上で決めたものかどうかはよくわからない。「電子インボイス」も検討されているがこれも実証実験などは行われておらず「とにかくやってみよう」ということになっている。
つまり壮大な「βテスト」といえる。βテストとはプログラムの設計ミスやバグを洗い出すためにユーザーに使わせてみようというテストのことである。これまで運用実績がないものがいきなり本番運用になるのだ。
この壮大なβテストで失敗した例を我々はすでに見ている。それがコロナ行政だ。すでにコロナを普通の病気にするというプロセスが始まっているが、結局ワクチン管理も感染者管理も的に動くシステムを作ることができなかった。厚生労働省の都合で作られたシステムにはユーザー目線が欠落していた。
立憲民主党などの野党が反対しているならば「反対のための反対なのか」という気もするが「本来は賛成すべき立場」の議員が懸念を表明しているところに一抹の不安を感じる。
東洋経済も「来年10月、「消費税免除」切れ160万社混乱の必然」という記事を出している。
財務省は、インボイス制度の導入により課税事業者へと変更すると見込まれる免税事業者は約160万社、それによる税収の増加を2480億円と試算しています。単純計算で1事業者あたり年間15万5000円の増税となる計算です。
来年10月、「消費税免除」切れ160万社混乱の必然
あらかじめ混乱がわかっているのだから「今から準備をしておこう」となってもよさそうなのだが政府主導で問題が整理されることはなさそうだ。
だが情報を取ろうにも「#税は財源でない」運動からわかるようにTwitterベースではかなり乱暴な意見集約が行われる。Quoraでも関連質問を調べてみたが特例措置が多く誤解も広がっているようである。つまり一般の意見はあまり参考にならないようだ。
山田議員は「適格請求書発行業者にも免税を認めるように」交渉をしたようだが認められることはなかったそうだ。もともとできるだけ課税業社を増やして税収を増やそうとしているのだからこれは当然だと思える。政府が税収確保のために前のめりになっていることがわかるが、おそらくこの状態では問題点や懸念点があまり考慮されることはないだろう。いわゆる集団思考が起き「きっと大丈夫だろう」という状態になってしまうからである。
いずれにせよ、インボイス問題については正確な情報があまり多くないようだ。SNSで情報を拾っても混乱するだけなので早めに信頼できる税理士などを探して相談したほうがいいのかもしれない。そう考えて検索したところイミダスが「税理士が「インボイス制度」に反対する理由 ~導入されれば、日本経済は大混乱に陥る!」という記事を出していたのを見つけてしまった。
専門性の高い税理士の中にも「大混乱」を予想する人がいるようだ。おそらく財務省は実務家とのすり合わせもおこなっていないということなのかもしれないと不安になる。個人事業主やフリーランスがある程度混乱することになるだろうが税収確保のためにこれを強行突破しようというのが今の政府の方針のようだ。このような強引な方針が「#税は財源ではない」という過激な主張を生むのだろう。