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上海協力機構首脳が脱米ドルを目指して具体的な工程表づくりを合意

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ウズベキスタンで上海協力機構の首脳会談が行われた。外交・安全保障問題について話し合われ脱米ドルを目指し「経済決済を自国通貨で行うための具体的な工程表づくり」でも合意があったようだ。これまでこうした世界情勢について話し合う会合はG7・G20だけだったのだが、欧米がいないところで新しい塊が作られつつあるということがわかる。共同声明では一極化への懸念が表明されたそうだが実際には既に多極化が既成事実化しつあることがわかる。そしてこの影響はアジアを中心にある程度の広がりを見せている。

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日本にとっての関心事は、この枠組みが、G7に挑戦する仕組みに成長するかという点にあるだろう。

確かに安全保障に経済制裁を絡めるようなことはやりにくくなりそうだ。西側の経済制裁は米ドルを中心とした一極化した金融市場があって初めて成り立つ。ロシアが「デフォルト」したのは西側がロシアをこの体制から締め出したからである。利子を払う用意はあるとされたが西側はこれを認めなかった。

しかしながらこの体制がG7を凌ぐような新しい国家体制に育つのは難しそうだ。

新華社通信が今回の中国とロシアの首脳同士の会談をまとめている。中国政府が作るステートメントは中国の都合に合わせたストーリーになっている。何事にも「理」を重要視する中国はストーリーの破綻を嫌うのだ。ところがBBCが同じことを書くと全く違った景色になってしまう。この協定はお互いの利害関係に基づいておりロシアも中国も距離を保ちつつ物語が破綻しないように努めているというのだ。お互いのストーリーは必ずしも一致していない。今は「西側」という共通の敵がいるため協力関係を演出しているに過ぎないということになる。

そもそもこの体制が「一枚岩」の新しい国際秩序を目指しているようには思えない、その証拠に安全保障上では「ある程度言いたいことは言える」状況にあるようだ。エルドアン大統領は外交による解決を訴え、インドもロシアを批判した。国際的に孤立したくないプーチン大統領はこれを非難せず「それなりに」対応したようである。

西側が民主主義を持ち込む以前の「帝国」に戻りたい各国はそれなりの内部事情を抱えつつ是々非々で対応しているということになる。言いたいことは言うが相手には干渉しないという姿勢である。彼らが最も嫌うのは帝国秩序に手を突っ込まれることである。その象徴が「カラー革命」だ。

今回は「上海協力機構、「カラー革命」防ぐために協力を=中国国家主席」という主張があった。「各帝国」が西側に対して強い被害者意識を持っていることがわかる。西側から見れば経済制裁とは現在の主権国家体制を守るための手段なのだがこれを受け入れるつもりはないという宣言になっている。米ドル中心の経済秩序に反対しているというよりは現在の国連による集団安全保障体制の前提になる主権国家体制に意義を申し立てているように聞こえる。

日経新聞によると上海協力機構には合意履行の拘束力がない。このことからも、外から干渉されたくない帝国とその周辺領域から成り立っていることがわかる。さらにそれらの国に支援を期待する国も参加しはじめている。西側の主権国家体制とは全く違った構成の会議になっており「古い国際秩序」の押し返しのように思える。

  • 参加国:中国、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、インド、パキスタン
  • オブザーバー:アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴル
  • 対話パートナー:アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、トルコ、スリランカ

今回、オブサーバーだったベラルーシとイランが枠組みに参加することが決まったようだが、対話パートナー国としてエジプトとサウジアラビア、カタールの参加が決まり、アラブ首長国連邦(UAE)とクウェート、ミャンマー、バーレーン、モルディブにも対話パートナー国の資格を与える手続きが始まることになったと日経新聞には書かれている。このようにこの体制は中央アジアを中心にアラブを巻き込んで徐々に影響範囲が拡大しつつある。

この帝国と周辺国の関係性をよく表しているのがキルギス・タジク紛争だ。ライバル国であり国境の1/3が確定していないため小規模な紛争が繰り返されている。つい最近も民間人が巻き込まれる騒ぎがあり死者もでたのだが、会議に合わせてウズベキスタンで両国の首脳が会談し一応の停戦合意が結ばれた。

主権国家体制ではロシアもキルギスもタジクも平等な国ということになるのだが、おそらくキルギスやタジクはロシアの介入を念頭に小競り合いを繰り広げているのだろう。周囲に影響力を行使したい大国とそれに期待する周辺国というような構図になっている。

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