日本のリベラルは北欧を理想形として引き合いに出すことが多い。だがそのスウェーデンでこのたび左派が政権を手放すことになった。民意を反映した上での熟議と話し合いの結果なのだが「民主主義は手間がかかる」という印象である。
比例代表制のため選挙結果が必ずしも首班指名に反映されないという分かりにくさがある。今回は第三党が政権樹立を目指すことになり、第一党は構想からいったん除外される。
記事をまとめると次のようになる。
- 政党別ではアンデション首相が率いる左派社会民主労働党が勝利。2位が極右のスウェーデン民主党、3位が右派の穏健党。
- ところが、右・左で見ると僅差(1議席か2議席)で右が勝っているため、中道・左派の政権をまとめていたアンデション氏は辞意を表明。
- 社会民主労働党は健闘したが、予算などで協力しなかった左派の政党が支持率を落とし足を引っ張った。
- スウェーデン民主党を政権に入れるかどうかについては意見の相違がある。3位の穏健党の党首クリステルソン氏の首相就任が見込まれている。
- スウェーデン民主党は今回得票率が20パーセント程度に。犯罪対策や移民制限などを掲げていた。1980年代のネオナチムーブメントで生まれた政党のため懸念する声が高い。
- 過去に左派政権も組閣に時間がかかっていたことから今回の右派政権も難航が予想される。
ここまでは次の記事を参考にした
左派は理想を追い求める傾向が強くちょっとした点にも妥協ができない。もともと組閣に時間がかかっていたが「家賃の上限見直し」をきっかけに協力政党が離反していた。ただし総選挙となると負けが予想されていたため予算には反対するが首相選びでは協力するという場当たり的な対応を続けていた。このため左派は支持をますます落とした。
また開票そのものにも時間がかかっている。記事の中では理由は明らかになっていないが、旅行先でも簡単に投票ができる制度になっている。また透明性を増すために一度開けた票を全て数え直すのだそうだ。
左派は政治の透明性が増し「議会で話し合いによる政治」が行われれば全てが解決すると主張する傾向が強いが必ずしもそうはならないということがよくわかる。おそらく立憲民主党が行っている「立憲主義」は真面目にやるとかなり面倒な仕組みである。
では今回は右派が勝利したと言いたくなるのだが必ずしもそうではない。今回台頭したのは「80年代の移民排斥運動の生き残り」のスウェーデン民主党だ。近年イメージのソフト化を進めていると言われているのだが実際には過激な主張も並んでいる。これが穏健な左派的な政策に疲れた一部の国民にうけている。
右派はこの過激な彼らを政権に取り込むのかという問題に対処しなければならない。
先行事例として挙げられるのはアメリカ共和党だ。トランプ氏の勢いを利用するつもりだったのだろうがMAGA共和党員と呼ばれる過激な人たちが入り込み収拾不能な状態になっている。トランプ氏は極秘文書を私邸に持ち帰りコレクションしていたとされる。スパイにとっては理想的な状況だがMAGA共和党員は気にしない。アメリカを守るという大義のためにはほんの些細なことに過ぎないとみなされてしまうからである。大衆政治の恐ろしいところだ。
日本でも同じような問題は起きている。熱心に選挙に取り組むボランティアが実は「日本は韓国に対して罪を犯したからいつまでも貢ぎ続けるエヴァ国家である」などという教祖を信じているような人たちだった。だが一度入り込まれてしまうとそれを切り離すことは難しい。関係に濃淡はあるが議員にも秘書にも信仰の自由が保証されているからである。しかしながらこの問題は岸田政権に深刻なダメージを与えている。自民党を変えることなく過激思想だけを取り除いてほしいという実現不能な要求が支持者たちから突きつけられており、岸田政権は支持率を落としている。時事通信によると支持率は32%にまで落ち込んだ。
右派が支持の拡大を求めて過激で熱心な思想を取り込んでしまうとその思想に飲み込まれる可能性が高い。場合によっては分離不能になり穏健な支持者たちが離反することになる。
スウェーデンの状況が今後どうなるかはわからない。議会は首班を指名しその首班が連立交渉を行う。その過程で政策協定を結び成功すれば政権成立となる。ただこのプロセスは一筋縄ではいかないだろう。
2018年には不信任案を突きつけられたローベン首相が退任したもののその後の首相が4ヶ月決まらなかった事例がある。この時もライバルはクリステンセン氏だったがクリステンセン氏は首相就任に十分な支持が得られず結局ローベン氏が首相に返り咲いている。ローベン氏は極端なウィズコロナ政策を実施したが失敗しカール16世グスタフが「この政策は失敗だった」と表明する事態を招き、アンデション氏に党首と首相の座を明け渡すことになった。
今回もクリステンセン氏が右派連立をまとめることができなければ、またアンデション氏が首班指名されるということがあるのかもしれない。結局は同じことが繰り返されている。
日本の政権交代は一部の例外を除き保守自民党の中の派閥交渉で水面下で行われることが多い。プロセスが分かりにくく国民の声が届きにくいというデメリットがある。だがスウェーデンの事情を見ていると開かれた場で交渉を行ったからといって必ずしも国民の希望通りに行くかどうかはわからないということになる。スウェーデンでは第一党でも第二党でもない「第三党」が連立政権をまとめることが予想されているうえに、結局やっていることはここ数年変わっていないからである。
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