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フリーランス保護新法からこぼれおちる「ギグワーカー」対策

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フリーランス保護のための新しい法律が作られるというニュースがあった。こうしたニュースの場合「何か欠点がないのか」ということを探してしまう。フリーランス保護としてはよくできている議論なのだがやはり議論からこぼれ落ちているものがある。それがギグワーカーである。新しい副業者と言っても良いかもしれない。フリーランス保護はやらないよりはやったほうがいいに決まっているのだがこのまま政府が副業を推進すると現在の体制ではカバーしきれない問題が色々と出てくるだろう。

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まずは政府広報的色彩が強い読売新聞の記事を読んでみた。

  • フリーランスとして働く人は462万人で就業者の7%。
  • IT、デザイン、配送、建設など業種が多岐にわたる。
  • 契約の書面交付を義務付け一方的な仕事内容の変更を防ぐ。
  • 30日前までの契約解除通告義務を作る。
  • 減額や納品物の一方的な受取拒否を禁じる。
  • 公正取引委員会の調査や勧告などができるようにする。

発注側の企業の資本金が1000万円を超える場合には下請け法の対象になるため今までも書面交付の義務があるが1000万円以下の場合にはこうした規定がないため「保護の網を広げる」狙いがあると説明されている。

特に「ツッコミどころ」はない。むしろ今までこうした義務がなかったことに驚きを感じる。例えば今までの場合「Webデザインを発注した」が「気に入らないから受け取らない」ということが可能だったことになる。

日経新聞はフリーランス的働き方ができるようになれば労働市場に参加することができる人が増えるかもしれないと書いている。これまで我が国経済の基礎になっていた終身雇用+補助労働という考え方が崩壊しているということになる。終身雇用で働いていた人も「フリーランス的副業」に進出し、女性も子育てから戻ってきた場合に「フリーランス労働」に組み込まれるかもしれないというような構図が予想される。

さて、ここまでくるともう一息だ。懸念は全く別の記事から見えてきた。それがギグワーカーである。Newsweekがヨーロッパの事例を書いている。

ギグワーカーの最も分かりやすい例がUber配達員である。アプリを介して単発の仕事を得るというような「隙間労働」の人たちである。Uber配達員は労働者として保護されない。ヨーロッパの場合には「こうした人たちを労働者として保護すべきだ」という議論があるそうだ。

だが、今回提出される法案は結局ギグワーカー全体を労働者として保護することを諦めて代わりに「契約」として扱おうとしている。つまり、公正取引委員会が現在の体制で462万人いるフリーランスを保護できるのかという点が問題になるのだろう。さらに政府が終身雇用制の維持を諦めて副業に人を流し込むようになれば労働契約で保護されない人たちがどんどん増えて行く。今の体制で公正取引委員会が「事実上の労働契約を捌けるだろうか」とか「本当にそれで保護できるのか」いう点が本当に議論すべきことなのかもしれない。

この議論で重要なのは「政府がどのような将来を前提にして議論を進めているか」ということだ。だが、ビジョンを提示したり議論をまとめるのが苦手な岸田政権下で明確な将来ビジョンが提示されることはないだろう。

ここでむしろ問題なのは労働者の側がどういう形態で働きたいかということになる。

Newsweekの記事に戻るとヨーロッパの労働者たちも「企業に縛られたくはない」が「フリーランスとして使い捨てられるのも嫌」というアンビバレンツな状態に置かれているという。

時事通信がギグワーカーについて2022年6月に書いている。彼らはUber Eatsやアマゾンなどの大手企業と契約しているが立場が弱いため不利な契約を結ばざるを得ない。また労働者とはみなされないため労働組合を組織して大手企業と交渉することもできない。時事通信は462万人のフリーランスの満足度は7割と概ね高いがセーフティネットに関する不安を抱えてもいると説明している。つまりギグワーカーや個人事業主の間にもまとまった理想像はない。

この時事通信の記事は「新しい資本主義」でもフリーランスを労働者として扱うのか契約者として扱うのかという議論を行うと書いている。仮にそれが正しかったとすれば、岸田政権の結論は「労働者としては保護しない」というものだったということになるだろう。

おそらく公正取引委員会に対して団体交渉を求めるというような枠組みはないはずだ。資本金が1,000万円以下の小さな会社を相手にするならばあくまでも個別交渉として一つひとつを調停しなければならなくなる。企業側の対応は簡単だ。1,000万円以下の子会社を作りそこと契約させればいいのである。

フリーランスをまとめる政治的な塊もない。連合は労働者の代表ということになっているのだが、あくまでも正社員中心の組合であり「非労働者」への関心はあまり高くない。仮にフリーランスが固まりを作り「立憲民主党なり国民民主党なり」を支持しますと表明すれば関心を寄せてくれるのだろうがおそらくフリーランスワーカーの側人もそのような意識はないだろう。。そもそも「企業に縛られずフリーでやってゆきたい」という人たちが組織化に前向きとは思えないからだ。自民・公明政権からギグワーカーに対する議論が出ることはないが、おそらく立憲民主・国民民主の側からもそうした議論が出てくることはないだろう。

  • 多くの日本人は今でも終身雇用+補助労働を「正しい労働のあり方」と考えている。
  • しかしこうした「正しい労働」では賃金上昇が望めない。そのため政府は副業を推進することにした。
  • 副業を志向する人たちがフリーランス市場に流れることが予想されるが、その労働環境は今の所は極めて劣悪だ。
  • 労働市場がなし崩し的に崩れてしまうと「低賃金」「人手不足」「劣悪な労働環境」が温存されかねない。労働讃歌率も生産性も上がらないまま労働者が使い潰されることになるだろう。
  • だが、国はこうした問題をすっきりと解決する手段を持っていない。労働契約からこぼれ落ちている人たちをせめて「公正な取引」ですくい取ろうとしている。

おそらく今回の1番の問題点はこうした議論の過程やフレームワークが全く報道されていないという点にあるのだろうと思う。全体のフレームワークを提示する人が誰もいないため、散発的な記事の集まりにしかならない。このため問題点を抽出することができない。

彼らをフリーランスと呼ぶのか副業者と呼ぶのかギグワーカーと呼ぶのかはわからないが、おそらく今回の議論からすっぽりと抜け落ちている人の数は少なくないのではないかと思う。

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