ざっくり解説 時々深掘り

「政権交代か」とささやかれつつ、スウェーデンの選挙結果がなかなか判明しないのはなぜか

スウェーデンで日曜日に選挙が行われた。開票は進んでいるのだが、なかなか結果が出ていない。日経新聞によると在外投票分が開票されるのが水曜日になるそうだ。社会民主労働党は引き続き第1党になりそうだが単独では政権が取れない。右派が躍進すれば右派政権ができる可能性がある。右派政権ができるとEUの結束に影響が出かねないため結果が注目されている。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






今回の争点は長い間政権を担っている左派政権が政権を維持できるか、あるいは右派が躍進するかである。鍵を握っているのは「極右」と呼ばれるスウェーデン民主党の躍進だ。

ただし選挙結果が決まらない事情はまた別にある。スウェーデンはできるだけ多くの人が選挙に参加できるように旅行先からも郵便投票ができる制度を導入しているそうだが、この結果「開票が遅くなる」という副作用がある。リベラルの理想とされることが多いスウェーデンなのだがその分コストがかかる。

今回は選挙結果が僅差のため在外投票を見てからでないと大勢がわからないという状態になっているようだ。

さらに今回スウェーデンで政権交代が起こるかもしれないという理由もリベラル政策の揺り戻しによる。スウェーデンでは家賃の価格が人為的に抑えられてきた。このため新しい家を立てようという人が現れない。そこで「家賃上限を無くして住宅建設を促進しよう」ということになった。これが左派の連立政権内で軋轢をうみ政局を混乱させている。

もう少し細かく見てみよう。

スウェーデンの政権政党は社会民主労働党である。ただし比例代表制のため単独政党が政権を取ることは難しい。このため左派が連合して政権を形成している。

2021年11月にはスウェーデン初の女性首相としてアンデション氏が就任していたが、このニュースだけを見るとなぜよくわからないことが多い。せっかく首相として指名されたのにわずか1日で退陣しそのあとで再び首相に選びなおされている。

予算成立を目前にして緑の党が政権を離脱した。そのためアンデション氏は一旦首相を辞任し選び直しになった。左派の分裂は極右の台頭を招きかねないため緑の党は新しい承認投票でもアンデション支持を表明した。

きっかけは前の首相の政治的妥協だった。それが賃貸住宅市場の修正提案だ。スウェーデンでは住宅が足りておらず住宅建築を促進するためには家賃の上限を撤廃すべきだと考えられていた。首相としては右派に歩み寄ったつもりだったのだが「絶対に容認できない」とする左翼党が反発する。この左翼党の反発に保守系政党やナショナリスト系の政党が乗る形で結束した。

この時は不信任投票では「総辞職したのは憲政史上初めてだった」と報道された。ただし次の政権が決まるまでの暫定政権として職務には留まることになった。国会議長が4回新首相人事にチャレンジし、それでもダメだったら2022年9月に行われるべき選挙を前倒しするとJETROの記事には書かれている。

結局2022年9月に選挙をやったことから何回めかの首相人事提案で新しい首相が選ばれたことがわかる。実はこの時に「再任」されたのはローベン氏だった。新しいリーダーは選ばれなかったのだ。これが2021年7月のことだった。

予算の細かい点には賛成できないが仲間割れをするとスウェーデン民主党が台頭しかねない。そこでリーダー選びでは妥協をせざるを得ないというのがスウェーデン左派の状況のようである。

しかし、ローベン政権は長続きせず11月の予算編成時期の土壇場に左派が再び分裂し事態を収拾できなかったローベン氏が退場しアデンション氏が選ばれたのだ。

左派ではまとまれないが敵の存在があるためかろうじて結束が保たれている。それが「極右」と表現されるスウェーデン民主党だった。2018年の記事が見つかった。スウェーデン民主党はオーケソン党首の個人的な人気に支えられているような書きぶりになっている。躍進の理由はやはり難民のようだ。難民を受け入れたにも関わらず社会的包摂ができていない。だったら外国人など受け入れるべきではないというのである。この時からすでに左派は政権を形成することに苦労し続けていた。スウェーデンが長年標榜してきた北欧型の福祉社会というモデルの維持が難しくなってきていることがわかる。

2018年には一部の不満を持った人の受け皿のような書き方をされていた民主党だが、徐々に存在感を増してきていたようだ。以前オーケソン氏は党首のままであり民主党の支持率は20%まできているそうだ。これは社会民主労働党に次ぐ第2位ということだが、つまりどの右派政党よりも支持が高いことを意味している。

当初このニュースを聞いて心配したのが「極右政党が躍進すればNATO協調主義が崩れるのではないか」という点だった。少なくとも冒頭の日経新聞を読む限りはNATO加盟は争点にならなかったようだ。この点に関して言えば右派左派ともロシアの脅威が増しているという認識で一致しており主要な争点にはならなかったそうである。

しかしながら反移民を掲げる政権ができればやはりEU内部の結束は乱れかねないと別の記事で日経新聞は警戒している。オーケソン氏は人種差別的な発言を抑制し「穏健路線」に転じたことで右派政党と協力の兆しが見えているという。

既存の右派に満足できない人が過激な党首に期待を寄せる。最初は利用するつもりで右派政党が近づくがやがてその運動体に乗っ取られてしまう。この図式はどこかトランプ氏を利用しようとしてMAGA共和党という人たちを大量に生み出したアメリカに似ている。ところがスウェーデンには左派(アメリカで言えば民主党)に期待をする人たちも大勢残っている。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで



Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です