沖縄県知事選挙が行われ玉城デニー氏が再選された。野党系が支援する「オール沖縄系」の勝利だとみなされているのだが「オール沖縄」の持続可能性には疑問の声も上がっていた。
県知事選の最初の報道では「基地移転反対派」が勝ったような印象を持ったのだが、実は統一教会問題の影響も大きかったようだ。いくつか記事を拾って読んでみた。
この選挙に先立って夏に参議院選挙が行われた。NHKの報道を参考にすると274,235票を集めた野党系の伊波洋一氏(元宜野湾市長)が再選された。この時点の古謝源太氏との差はわずか3000票という僅差だった。つまりこの時点では「オール沖縄運動は少し弱くなっているのではないか」と言う危機感があった。
この延長戦でゆくと県知事選挙も僅差になりそうだ。だがそうはならなかった。同じくNHKからまとめると投票率は57.92%で参議院選挙よりも少し高い。玉城デニー氏は339,767票集めた。一方で佐喜真氏は274.844票の得票だった。つまり、参議院選挙から県知事選挙にかけて「何か」が変わったのである。
沖縄の政治状況は本土の政治状況とかなり異なっている。
鍵を握っているのは「オール沖縄」という組織だ。沖縄タイムズの記事によるとこれは政党ではなく翁長雄志前知事の誕生で政治勢力化した集団なのだそうだ。もともと基地反対運動のような市民運動が前進になっているようである。知事選挙では「主軸」の座を守ったと書かれているところから政党にまでは育っていない。また経済界から組織を支えていた企業が抜けたとか統率に問題があると書かれている。少なくとも明確な強いリーダーがいる組織ではないようだ。
沖縄タイムスは「オール沖縄」は基地を争点の一つに格下げし県民の経済や暮らしの立て直しを重点におく対策を行ったと書いている。つまり基地問題一辺倒の政治運動に沖縄の人たちがついてこなくなっていたのだろうということがわかる。
具体的にどんな企業が抜けたのかがわからないためなんとも言えないのだが、このままの流れが続けば自民党勢力が組織の切り崩しを図ることもできていたのかもしれない。産経新聞は「令和12年までの普天間返還実現と国から3500億円以上の振興予算獲得」という佐喜真氏の公約が注目されていれば県政奪還はできたはずだと悔しさをにじませる。
NHKの分析によると佐喜真さんは「産業政策」や「子供・未来」などと行った政策を強調している。現在コロナ禍で厳しい状況にある観光産業や一次産業への支援を訴えつつ、未来に投資するための資金を中央から引っ張ってくるという主張なのだろう。
ところがここで問題が起きた。佐喜真氏に統一教会との接点が浮上したからだ。
40際未満の人だけを抜き出すと佐喜真さんへの期待は高かったようだ。出口調査によると統一教会問題を知らないと思われる30代までの若年層は佐喜真支持の方が多かったとされている。一方で統一教会問題を知っている層の人の中には玉城デニー氏に流れた票もある。普段自民党を支援している人の中でも玉城デニー氏に投票した人が多かったと分析されている。統一教会問題がなければ佐喜真さんが勝っていた可能性もあるということになる。
ただしこれらの記事だけを読んでも選挙に行かなかった人たちの声を拾うことはできない。実は参議院選挙は50%程度、県知事選挙でも40%程度は選挙に参加していないようだ。
選挙に行かなかった人たちの声を拾っている記事もある。それが「沖縄の若者「県知事選にはもうウンザリ」現地在住作家が抱いた“メディアの不快感”」という現代ビジネスの記事である。
玉城デニー候補を推す「オール沖縄」が昔ながらの革新系の影響を受けている様子がうかがえる。若者は世の中を変えたいと思っておりそのアイディアも持っているがなかなか運動体に活かされない。かと行って佐喜真さんにも乗れないという人たちが実は多かったのかもしれない。
とはいえ、今回の選挙で玉城デニー氏が勝利したのは間違いのない事実である。ロイターは「中央政界への影響力低下は避けられない」と分析している。「別に自民党でもいい」と考えている非積極支持者たちが離反するということが続けば確かに岸田政権の求心力低下は免れないだろう。同じことは明確な争点のない各地の地方選挙でも起こり得る。
確かにリベラル系は「自公政権に一矢報いた」と言えるのだろうがこれを持って「リベラルが勝った」と考えるのはかなり危険なようだ。沖縄でも立憲民主党など野党系の支持はが高いとはいえない上に「オール沖縄」から離れつつある人たちもいる。特に若年層や企業を取り込めていない点はリベラルの明確な弱点だといえる。確かに重要な問題なのだが、平和主義と言うワンイシューだけでは将来に不安を抱える若年層を運動につなぎとめておくことはできなくなっているのかもしれない。
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