特にニュースというわけではないのだがロシアのイジューム退却について懸念する声があった。普段なら「ネットによくある不確定な情報だ」と思うのだが、情報を発信している人が高橋杉雄さんだったので一応注目しておくことにした。なお「短信」と書いたのはこれがまだニュースになっていないからである。つまり何かが確定したわけではなく何らかの見方を支持するわけでもない。
高橋さんは様々なメディアでウクライナ問題について的確なコメントと分析をしていた。ただその高橋さんであっても「一体何を懸念しているのか」については言及を避けており「きっと杞憂に終わるだろう」と言っている。またTwitterのプロフィールには的中率は3割くらいだと(おそらく謙遜の意味も含めて)書かれている。
ロシア退却でTwitterを検索するとウクライナがこの地域のいくつかを奪還しつつあるとして歓迎するコメントを出している人が多いようだ。ロシア軍の退却に統制が取れていないことからウクライナ側が押し戻していると考える人が多いのだろう。実際に多くのメディアはそのように伝えている。
実際に読売新聞はこう書いている。再配置とは日本の戦前の言い方をすれば「転戦」というような意味合いだ。
ロシア国防省は10日、ウクライナ東部ハルキウ州の主要拠点イジュームから部隊を「再配置」したと発表した。ウクライナ軍の反転攻勢を受け、部隊撤退を事実上認めたものだ。イジュームは、隣接するドネツク州の全域制圧を目指す露軍の出撃拠点だった。撤退により、侵略作戦の大幅な練り直しを余儀なくされる。
ロシア、東部ハルキウの主要拠点から部隊「再配置」…ゼレンスキー氏は奪還集落「30超えた」
ゼレンスキー大統領も30以上の村を奪還したと主張しておりこのニュースは盛んに報道されている。
日経新聞も主にアメリカのメディアを引用し「イジュームが解放された」というトーンで伝えている。表題も「ウクライナ、東部要衝奪還か ロシアが事実上の撤退表明」となっておりウクライナの勝利と解釈されているようだ。日経新聞はこのことの戦略的意味というよりアメリカを中心とする西側がウクライナに対して向けている期待を伝えていると考えればわかりやすいかもしれない、西側は一貫してウクライナを支援してきたことから西側の支援に意味があったとする内容と言えるだろう。確かにロシアの一方的な侵攻には大義がなく言いがかりに近い。西側先進国は経済的な犠牲を覚悟しつつ自由と民主主義という価値を守るためにウクライナを支援してきた。これは民主主義陣営にとっては大きな前進といえる。
このため「ウクライナ側の抵抗が成功したい」と思いたいのだが、軍事専門家の意見は必ずしもそんなに楽観的ではないということがわかる。おそらくは過去に色々なパターンを研究しており現在のパターンから経験的な類推ができるのであろう。高橋さんのようにメディアに出ている人が全体のトーンと違った情報発信をするということの意味もまた無視できない。Twitterのつぶやきを見ると楽観論の中に時折「一定の不安」を口にする人がいる。
おそらく懸念を抱える人々の念頭にあるものは誰もが想像するものだとは思うのだがあえてそれを口にするものはいない。そのことが「一旦起こってしまった時の惨状」について予感させる。一旦事態が起きてしまえば問題は更に大きくエスカレートしてしまうだろう。
繰り返しになるがこのエントリーは何かについて断定的に主張するものではない。むしろ高橋さんが指摘する通り杞憂に終わることを期待している。それは絶対に二度と起きてはならないことだからだ。戦火に巻き込まれた多くのウクライナ市民のためにも事態が解決に向けていい方向に進んでいるのだと思いたい。