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トランプ氏がマール・ア・ラーゴに持っていた「外国の核防衛情報」の憶測が広がる

トランプ氏が保有していたとされる核武装情報を手に入れるためなら諸外国はなんでもするだろうと元FBIの職員がMSNBCで発言した。このニュースは一部のメディアが閲覧数を稼ぐために盛んに報道しており別のサイドのメディアはそれよりももっと重要な問題があると目を背けている。

日本のメディアと日本語で情報を取っている人たちは蚊帳の外に置かれている状態だ。例えば「アメリカがどこまで中国の核武装の情報を把握しているか」という問題は日本の安全保障にも影響が大きい。だが不確定な情報が多いため日本のメディアに取り上げられることはほぼないだろう。

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元FBI職員だったフィグルージ(Figliuzzi)氏がトランプ邸にあった核関連文書についての見解を語った。中間選挙を控えてトランプ氏は政治家として不適格であると語りたい人は多い。

このフィグルージ氏の発言がいくつかのメディアで引用されている。ビジネスインサイダーの記事を読んだうえで、元になったと思われるMSNBCでフィグルージ氏がどのような発言をしているのかについても調べてみた。「右腕を差し出す」というのは英語の言い回しで「なんでもやる」という意味なのだそうだ。ビジネスインサイダーの記事は忙しい人のために情報を要約している。

  • この情報には高い値段がつくだろう。
  • アメリカ合衆国が自国防衛についてどこまで知っているのかを知るためには「右腕を差し出す」国は多いだろう。これをしれば「アメリカ合衆国が何を知らないか」もわかるからだ。
  • またこの情報がわかれば「彼らの敵対者」がどんな対策を取っているのかということがわかる。これを知るためには「右腕も左腕も差し出す」だろう。
  • このような重要な情報にも関わらず出入りは比較的容易である。

英語メディアでWaPoと略されるワシントンポストの情報は国名を特定していない。つまり敵国が情報を欲しがっているとは言っていない。おそらく国名が表に出ることはないだろう。しかしながらフィグルージ氏は「敵が情報を狙っている」と強調することで「トランプ氏がアメリカの安全を売り渡そうとしている」とほのめかしている。

ただしこうした指摘をするFBIの関係者はフィグルージ氏だけではない。かつて諜報部門の副局長だったピーター・ストラック氏は反トランプのメッセージを送信したという理由でFBIを解雇されている。MSNBCは「ロシアがマール・ア・ラーゴに侵入しようとしたことがあると思うか?」と尋ねたようだが、ストラック氏はロシアでなく中国、イラン、キューバなどこうした情報を欲しがる国はたくさんあるだろうと主張しているようだ。

MSNBCによると現在核兵器を保有している国は東から、朝鮮民主主義人民共和国、中国、インド、パキスタン、ロシア、イスラエル、フランス、イギリス、アメリカである。これらの国は全てマール・ア・ラーゴにあった情報を欲しがるだろう。FOXニュースはマーク・ルビオ氏に「FBIがどのような理由でこれらの情報をメディアに漏らしているのか不明だ」と言わせている。あまりこのニュースを認めたくないのだろう。MSNBCはこのFOXニュースのフッテージを引用し「共和党こそ理由を調べるべきでは?」と応酬している。

フィグルージ氏は「ドキュメントにアクセスする前と後にポリグラフ(嘘発見器)にかけられるような情報もある」と言っている。つまり普段はそれだけ厳重に管理されているというわけだ。「敵に見つかったら大変なことになる」アメリカの超極秘情報が危機にさらされているというわけだ。

MSNBCのショーでは最終的に「トランプ氏が再び大統領になったらどんな恐ろしいことが起こるかわかりませんね」と結ばれている。つまり選挙が意識されている。

だが、明らかにそれ以外の問題もある。

  • 第一にトランプ氏が全てのドキュメントを返還したとしてもトランプ氏の頭の中にある情報をかき消すことはできない。
  • 第二にトランプ氏が大統領になれなくなった場合に彼がどのような手段でアメリカに復讐するかわからない。
  • 第三に大統領選挙でお金が欲しいトランプ陣営にこっそり近づく外国の勢力がないとは言えない。これは統一教会が日本の選挙に接近したのと同じような状態である。

例えばロシアや中国がトランプ氏と結びつくということになればそれは日本にとっても悪夢の展開となるだろう。北朝鮮もつい最近核兵器保有を正式に宣言し法律を制定したばかりである。中国、ロシア、北朝鮮が日本にとってどのような攻撃方法を持っているかということに関して「アメリカがどの程度知っているのか」ということがわかってしまう。

統一教会問題から特定の外国勢力がいつの間にか選挙を通じて政治家と結びつきを深め最終的には排除できなくなるということをしった日本人は多いだろう。同じようなことがアメリカでも起こり得る。つまり日本の交換より先に「敵対勢力」がその情報を知ってしまう可能性がある。核の傘に守られていると思っている同盟国にとってもこうした情報がどのように管理されているのかというのは死活問題だ。

だがアメリカ人がこの問題に向き合うとは思えない。この問題が引き起こすアンビバレントな感情は統一教会問題に似ている。MAGA共和党と呼ばれる人たちはアメリカの価値観を取り戻したいと考えている。そのために議論をしても民主党に勝てない。そこで最終兵器として議論を無効化してくれるトランプ氏に大きな期待を寄せている。だが、トランプ氏が実はアメリカの安全を売り渡そうとしていたという可能性がある。誰もが薄々は考えるだろうがそれを認めるわけにはいかない。

さて、どうするか?ということだ。

FOXニュースは「中間選挙を60日後に控えている」ため、このような捜査は「一時休戦にすべきである」と主張している。FOXニュースに言わせると問題を複雑にしているのはバイデン大統領と情報をリークするFBIの側にあるというのだ。明らかにこの問題から目を背けたがっている。

FOXニュースが心配しているのは中間選挙への影響である。バイデン政権はインフレ、経済、国境の安全保障、犯罪という問題を放置しトランプ氏が文書を隠していた問題に人々の注意を向けようとしていると指摘する。つまりトランプ氏に問題がなかったと言っているわけではなく「そんな些細なことのために重大な問題が隠蔽されようとしているのはおかしい」と言っているのだ。

彼らは彼らでそれなりの切実さを抱えており「不都合な問題」についてはあまり考えたくないのである。彼らにとって重要なことは他にある。

日本でも統一教会の問題はまだ「疑惑」として一部のワイドショーで語られ続けている。しかし日本のメディアはまた抑制的で「自民党のリストの中には含まれていない名前がありますよね」とほのめかすような報道が多い。

だがMSNBCはFOXニュースのフッテージをそのまま使って「FOXはこんなことを言っている」と指摘している。日本で言えば日本テレビがテレビ朝日を直接引用し「それは違うのではないか」と言っているのと同じような状態だ。報道が過熱しないわけがない。だが加熱すれば「本来解決されるべき問題」が解決するというわけではない。むしろ遠ざかってしまう場合もある。

冷静さを保つためには「見なければいい」ようにも思えるのだが一度検索すると関連動画が次から次へと出てくる。この辺りが地上波と違って厄介なところだ。

現在はDOJ(法務省)とトランプ氏サイドの間で誰をスペシャルマスター(特別管理者)にするかの駆け引きが行われている。防衛に関する問題は脇に追いやられ一部のメディアによって盛んにその駆け引きがレポートされ続けている。

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