ざっくり解説 時々深掘り

政府と日銀は「円安対応にあらゆる措置を排除せず」と表明するが円相場はさほど動かず

国葬の閉会中審査のニュースに隠れてしまっているが、政府・日銀が緊急の会合を開いた。日経新聞によると議題は国際金融資本市場に関する情報交換だった。その後、神田真人財務官は投機的な動きを牽制し「このような動きが継続すれば、あらゆる措置を排除せず必要な対応を取る準備がある」と発言をしたが円相場はさほど動かなかった。市場では「政府・日銀は何もしない」というコンセンサスができているようだ。ロイターは「悪いスパイラルに入った」と政府・日銀の対応に批判的なコラムを出しているが一般紙・地上波にはこの懸念は共有されていないようである。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






日経新聞によれば緊急会合の参加者は、財務省の神田真人財務官、金融庁の中島淳一長官、日銀の内田真一理事だった。急速な円安の進行を憂慮しあらゆる選択肢を排除しないとしている。だが共同声明は出なかった。基本的な方針はこれまでとは変わらないからなのだそうだ。

この日の国会では安倍元総理の国葬問題が悠長に話し合われていた。自民党は統一教会問題に波及することを恐れ野党の質問を細かく牽制する。野党の側はどうにかして「統一教会に思想的に汚染されている自民党」という構図が作りたかった。このことから国会議員たちは現在の為替の動きや金融政策との関連についてはさほど危機感を持っていないようだ。

神田財務官はこの後に記者会見で「あらゆる選択肢を排除しない」と表明した。しかし、すでにこの記事で「どうせ口先介入だろう」とのコメントが紹介されている。実際に「大きな考えが変わったわけではないから声明は出さない」との立場である。つまり今まで何もやらなかったのだからこれからもやらない可能性は高いということになる。黒田総裁は早くから金融市場とのコミュニケーションを放棄しており何が何でも低金利を守り抜く構えである。ただ自然界の声明も憂慮を表明しただけだったのだから今回も「また憂慮して終わり」になる可能性はあった。

先に当ブログで紹介した日経新聞の記事は24年前の突然の介入を引き合いにして危機感を表明している。ロイターもまた明らかにこの動きに苛立っており「コラム:円安進行、政府・日銀に不都合なスパイラル起動」と物価高が高止まりするであろうと予想している。つまり国民経済に影響が出始めているという態度である。

ロイターにおけるこの田巻氏のコラムの位置付けは不明だが「社説のようなもの」だとすると、ロイターは岸田総理の物価高に対する危機意識のなさを憂慮しているようだ。文章は「岸田文雄首相が日本経済の現状に対し、どの程度の危機感を有しているのか、物価高対策の中身を見れば判明するだろう。」と結ばれている。対策の規模から見るとさほど危機感を持っていないのではないかという含みがありそうだ。対策は9月9日に発表される予定だ。

岸田総理の危機感はおそらく世論と連動している。具体的には一般紙・地上波の対応だ。だが、おそらくこの危機感は今の所一般紙・地上波には共有されていない。一般紙・地上波は円安はどこまで続くのだろうとし「この水準が続くと一世帯あたり70,000円程度の負担になる」とか「iPhoneが値上がりして大変だ」というような記事を量産している。今回も145円目前というニュースは大きく注目されたがその後は取り上げられなくなってしまうので「解決したのでは?」と誤認する人も出てくるのではないだろうか。

岸田総理は「聞きすぎる」総理だ。直前まで周囲の人たちの「大丈夫だなんとかなる」という声を聞くが、一般紙・地上波が慌て出すと今度は性急に「リーダーシップ」を発揮したがる。そして、突然会見を開き意見を表明し周りを慌てさせる。意見は数日で撤回されその後協議が始まるというようなことが続いている。国葬を突然決めたり、新型コロナの全数把握で状況を二転三転させたりと今後もそうしたことが続きそうである。統一教会問題もマスコミで取り上げられるようになってから性急に動き始めた。

こうした経緯から類推すると、市場関係者が憂慮を示している間は動かず、一般紙・地上波が「なんとかしろ」という領域まで進んだ段階でなんらかの対応が表明されるのではないか。

幸いなことに円安の動きは一旦止まっている。めぼしいニュースとしてはECBの利上げのニュースがある。対ユーロでのドル高の流れは一旦止まったようだ。利上げ幅は0.75%だった。ラガルド総裁は期間について明言せず「長い道のりになるだろう」とだけ示唆した。アメリカのインフレは景気過熱の影響を受けている(ラガルド氏によれば需要が要因)だがヨーロッパの場合は供給が要因なのだと分析されている。

ヨーロッパでは出遅れたインフレへのコミットメントという評価のようだが、一旦始まると今度は何かが崩壊するまでこの流れが止まらないかもしれないという逆の不安を口にする人もいるようである。ロイターの分析記事は「何かが崩壊するまで中銀がまた方針を変更しないことが懸念される。」という不吉な予測で終わっている。

アメリカも当初はインフレを「一時的なものであろう」と過小評価していた。ヨーロッパも同じような状態だったようだ。ただし一旦始まってしまったものを制御するのはなかなか難しい。日本も同じような道を辿るのかもしれない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です