このところ円相場が急速に動いている。特に目立った動きがあったわけではないが「日本の金融当局は何もしないのだろう」という前提のもとに一方的な動きになっている。143円を超えた、144円になった、145円に迫ったなどとレートに注目したニュースが多い。TBS News Digは一時145円に迫ったと伝えているが理由は「開く金利差」というこれまで通りの分析だ。一方ロイター通信や日経新聞は財務大臣や官房長官の微妙な発言の変化に注目した。
ロイター通信がまず注目したのは松野博一官房長官の「最近の為替市場は急速で一方的な動きがみられ憂慮している」との発言だ。この一方的な動きが「実弾介入に向けた新たな文言」とみなされた。実際に実弾介入が行われるのか、あるいは金融市場がそれを期待しているだけなのかはわからない。
さらにロイター通信は鈴木財務大臣の「具体的な対応には言及しない」との発言にも注目した。つまり単に「注視するだけではなく何かやるかもしれないがやるとしてもそれは発表しない」と受け止められたことになる。日経新聞によると「必要な対応は取る」とも発言したそうだ。
ただしその後の市場の動きを見ると「何かやるかもしれないがとりあえず今ではない」とみなされたようだ。それが各紙が伝えるニューヨークの動きだ。時事通信も「NY円急落、一時145円台目前」と伝えている。
以前「運用部ショック」のエントリーでお伝えしたように日経新聞などは24年前を参考に「変化は急激に訪れるかもしれない」というような観測と分析を流している。
一方で、NHK・共同通信・時事通信などは単に進みゆく円安にただただ戸惑っているようだ。NHKの記事「“悪い円安” 家計への影響は?1ドル=140円台の水準いつまで」を参考にすると次のような構成になっている。
- 現在の円安は24年前の水準だ。
- 背景は日米の金利差だ。
- 円安にはメリットとデメリットがある。
- 家計にはデメリットの方が大きく負担はと年収が低い世帯ほど負担が重くなるが、だいたい年間で7万円程度になりそうだ。
- 識者は1ドル=140円も1つの通過点にすぎず、次は150円を目指す展開になるだろうとの見解だ。
負担増はわかっているがどうしたら負担を避けられるのかという提案はない。台風や地震などのような自然災害と同じような扱いである。せいぜい「節約に励む」くらいの対策になるのだろう。
さらに最近のニュースには専門性が高いものが多く一般紙や地上波などだけをみていても変化に気がつけないものが多い。24年前を参考にするならば変化は突然やってくるが、その前には当局の微妙な発言の修正もある。こうした兆候を察知するためには普段から専門性の高い媒体も併せてチェックしておいた方がよさそうだ。金利の変化や為替は投資家だけでなく多くの人々の生活に影響を与えるからである。
日経新聞が指摘するように政府与党や日銀は今回の円安に具体的な対応策を持っていない可能性も高い。こんな時頼りにしたいのが立憲民主党などの野党なのだが立憲民主党などからは具体的な提案が聞こえてこない。選挙目前の6月の時点で「岸田インフレ・黒田円安」というレッテル貼りに終始していた。維新の提案も探してはみたのだが目新しい記事は見つけることができなかった。
現在の状況を劇的に変化させつつソフトランディングを目指すというのは難しいことなのかもしれない。しばらくは対症療法で発熱の工夫を和らげるような状態が続くことが予想される。
岸田政権は9月9日金曜日に物価高に対する対応をまとめる予定だ。どのような財源でどのような対応策を発表するのかに注目が集まる。予備費対応なので大きなものは期待できそうにない。読売新聞によると9000億円程度の予算が投入される予定になっているそうだ。この規模の対策でも総理大臣が自ら本部長を務めて8月中旬から議論をしている。その間に円の価値が急落しているところからも急激な変化に政治が必ずしもついてゆけていないことがわかる。
遅いとはいえ岸田総理が自ら陣頭指揮を取り政策を取りまとめていることは確かである。野党の具体的な提案もないのだからここは財務大臣の微妙な発言の変化に注意を払いつつ政権の取りまとめる政策に期待するしかなさそうだ。