このエントリーの最初の表題は「自民党のアンケートは夏休みの宿題状態」というややふざけたものだった。自民党が議員たちに統一教会との関わりについてアンケートをとったのだが曖昧な回答が多かった。これを夏休みの宿題期限が延長された学校というようなアナロジーで捉えようとしたのである。
だが調べてゆくうちにもっと別のことが気になってきた。一旦入り込んだ思想を政党が排除できないという問題だ。日本国憲法は思想信条の自由を保障している。このため特定の信仰を持っていることを理由にして議員資格・党員資格・秘書としての雇用を変更してはならない。このことは一旦ある思想が入り込んでしまえば政党(これは自民党だけではない)はそれを排除できないということを意味する。
もちろん有権者も「後から危険思想の持ち主であった」ことがわかっても議員辞職を強要することはできない。だからこそ事前の審査が重要なのだ。目先の票とボランティアを優先した一部の自民党議員にはそれができていなかったし、もしかすると他の政党も同じような問題を抱えているかもしれない。
統一教会問題での支持率急落を受けて岸田総理が国民に謝罪した。
会社に例えると社長が直々に謝罪したことになる。だが、自民党の議員たちはこれをあまり重要な問題だとは受け止めなかったようだ。アンケートには曖昧なものが多く「やり直し」を迫られている。このため発表は延期される見通しだ。企業に例えるよりも学校に例えたほうがいいのかもしれない。宿題をやらせてみたが締め切りまでに真面目に書いてこなかった生徒もいるということになるだろう。読売新聞が「自民の旧統一教会との接点調査、6日の公表間に合わず…あいまいな回答多く確認のため」という記事を出している。
総理大臣の記者会見を振り返ってみよう。岸田総理の国民への約束は次のようなものだった。首相ではなく「自民党総裁」としてお詫びしている。
- 国民の皆様の疑念、懸念を重く受け止め、自民党総裁として茂木幹事長に対し、先週来、3点指示をいたしました。
- 第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。
- 第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を絶つこと。これを党の基本方針として、関係を絶つよう所属国会議員に徹底すること。
- 第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること。
この時の記者たちの関心事は「安倍元総理の関与」と「二世信者問題と統一教会の社会的に問題のある行動」の精査だった。岸田総理はこの問題について正面から答えておらず「これでは及第点は出せない」という印象が残る。だが実は重要な点が見過ごされている。そもそもある特定の思想と政党の関係を「調査できるのか」という問題である。
問題の所在を考える上でビデオニュースの神保さんの質問を見てみよう。統一教会固有の問題なのかガバナンスの問題なのかという点について総理大臣の見解を問うている。
この点について岸田総理は「これからの問題」については答えているがこれまでの認識については全く答えていない。だがこれ以上の援護射撃が他社から出ることはなかったため意図的に避けようとしているのか無意識に考えないようにしているのかはよくわからない。岸田総理が説明をすればするほど回答は曖昧になってゆき「正面から答えていない」という不安は残るがなぜ曖昧になるのかがよくわからないのだ。
ところが別のことを気にする人たちが現れ始めた。そもそも「内心」を理由にアンケートを取れるのかという問題だ。特に雇用関係にある秘書を特定の信仰を理由に解雇することはできない。これが問題になったのは山際大臣のスタッフ問題だった。
山際大臣はスタッフが統一教会の信者であると疑われている。「スタッフに直接問いただしたが確認できなかった」ということなのだがそもそも日本国憲法ではスタッフに回答を強要してはいけないことになっている。信仰の自由を侵害することになるからである。仮にスタッフが「告白」したとしてもそれを理由に解雇することはできない。おそらく明確な憲法違反であり当事者が訴えれば敗訴する可能性が高い。
このことは旧統一教会にとっては強みになる。統一教会が秘書を送り込んでいると仮定して「この秘密をバラされたくなければわかっていますね」というようなことが言えてしまう。
さて、ここまでは統一教会という特殊な宗教団体の話だった。この「思想信条の自由を侵してはならない」という問題を一般化すると問題の本質が見えてくるが、おそらくマスコミの人たちはまだ気がついていない。
例えば共産政権を持つ特定の外国が日本の政界に影響力を行使したいとする。その国は資金を投じて秘書を養成し大量に政権政党に人材を送り込む。もちろん秘書は直接は反日活動はしない。するとその政党は一旦迎え入れた彼らの思想信条を調査できなくなるのだ。トロイの木馬のようなものである。
例えばどこかから「秘書たちが夜な夜な私的に集まっており日本政府を転覆するような計画について話し合っていた」という文章なりビデオが出てきたとする。マスコミは大騒ぎするだろうし支援者たちも黙ってはいないだろう。だがそれでも「実際に秘書たちが直接行動を起こさない限り」は組織との関わりを調査したり調査結果をもとに処分したりすることはできない。憲法で思想信条の自由が保障されているからだ。
統一教会問題からわかるのは「間接的な働きかけ」ができるだけでなく「相手の弱み」として利用もできるという点である。排除できないのだから隠し通すしかない。相手は要求を強めてくるかもしれないが支持率の急落を恐れる時の政権はこれを断りきれなくなるだろう。
なぜ岸田総理や茂木幹事長が「過去清算」の問題に触れたがらないのかという合理的な理由はよくわからない。当初は「憲法についてあまり理解していないのだろう」と思っていたのだが逆である可能性もある。田崎史郎氏はおそらくこの問題をどこかで耳にしているのではないかと思う。憲法という言葉を避けて「宗教の問題」と限定しつついくつかの番組でささやくようなコメントを残している。
つまり政権の側も政権に近い人たちも「憲法を熟知しているからこそ一旦入り込んだ思想を排除できない」ことがわかっているのかもしれない。とはいえ世論の反発は大きい。ここは「思い切った対処」を掲げつつアンケートでやり過ごすほかに道はないだろう。
本質的な思想汚染の問題は残るの。あとは、一般有権者が気がつかないことを願うばかりである。幸いなことにワイドショーは統一教会を叩いており憲法と思想の問題には気がついていない。仮に気がついたとしてもワイドショー向けには料理しにくい課題だ。
となると、自民党は統一教会という特殊な集団の問題であると事態を矮小化した上でしばらくはワイドショーに叩かれる演技を続けるしかない。敵対的な思想が排除できないということは気がつかれてはいけないことなのだ。
マスコミは統一教会被害者救済の窓口が作られたということも伝えている。期間が9月30日までに限られている上に単に「相談窓口を紹介する」と言っているだけなのだがこれまで何もやってきていないことを考えれば一歩前進といえるだろう。ただ、これも統一教会からの反撃をうむかもしれない。24時間テレビのボランティアが日本テレビの系列局に送り込まれていたというメッセージは実は単なるほのめかしかもしれないということになる。
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