弁護士ドットコムが消費者庁霊感商法対策会議の最初の会合内容をまとめている。おそらく様々な問題が提示されたのだろうが、弁護士ドットコムが注目したのは省庁の縦割り行政問題だったようだ。
メンバーたちは多くの省庁がこの問題に取り組むべきだと考えており縦割り意識がなくならないのであれば専従の大臣を置くべきだと提言している。官僚が運営する連絡会議ではまず出てこない発想だろう。調整型の岸田総理は最初から大変な問題意識と宿題を突きつけられることになった。
弁護士ドットコムの記事のタイトルは「紀藤弁護士「省庁横断できないなら特命大臣置くべき」消費者庁の霊感商法対策会議がスタート」となっている。
紀藤弁護士は「厚労省、外務省、文科省、地方自治体(総務省)も入ってメンバーを増やし、省庁横断でやってほしい」と注文をつけている。厚生労働省は二世信者問題のケアで出てくるのだろうということはわかるのだが外務省まで入っている。本部が韓国にあるため外交問題でもあるということなのかもしれない。
それができないのなら担当大臣を置いて問題に対処すべきだと提案している。
そもそも河野太郎大臣の書簡は消費者問題だ。普通に議論を行えば「消費者問題だけを話し合うべきだ」と他省庁から横槍が入ることになるだろう。日本の組織は横から口出しされることを極端に嫌う。いわば縦割り意識・縄張り意識が強い。
だがこの会議はインターネットで広く共有されており情報は発信されてしまっている。あとはネットで人々の口の端経由で伝わることになる。さらに日本テレビもワイドショーでこの問題を盛んに取り上げている。紀藤弁護士の発言は地上波経由でこの問題に関心を寄せる高齢者に伝わることになるだろう。
岸田総理大臣も岸田派の葉梨法務大臣もさらに葉梨法務大臣に集められた官僚たちも「調整型」であり他省庁への口出しはあまりやりたくないはずである。だがマスコミ経由で「なぜ政府は一丸となってこの問題に取り組まなないのだ」という空気感が広がればおそらく対策を余儀なくされるはずである。岸田政権が何も答えなければ「無策な政権だ」ということになりさらに支持率を下げることになりかねない。
同じような縦割り行政をめぐる不満を新型コロナ対策にも感じる。新型コロナのシステムを誰が担当するかということが問題になったことがあった。河野太郎規制改革相(当時)はワクチン接種の一元管理システムを構築しようとした。これが2021年1月のことだった。ただしこの目論見は失敗したと言って良い。結局、システムが乱立して現場が混乱している。2021年4月には「ワクチン接種などコロナ関連のシステム乱立。どれを誰が何に利用するの?図解してみた。」という記事が出た。つまり図解しないとわからないシステムが乱立するだけに終わってしまったのである。
統一教会問題と霊感商法の第一の問題は「自民党の一部の実力者たちが統一教会にお墨付きを与えた」という問題がある。しかしこの問題のほかに「官僚たちが縄張り意識にこだわるあまり問題解決をおろそかにしている」という問題がある。省庁の関心事は権益の確保と組織の独立性の維持であって、問題そのものには向かっていない。
コロナ対策では河野太郎大臣の強引なやり方は当時「システムハラスメントだ」と非難された。AERAの記事は次のように解説する。
- 国のコロナ、ワクチンに関するシステムは主に3つある。
- 厚生労働省が所管し、自治体や病院が利用するワクチン円滑化「V-SYS」
- 河野太郎ワクチン担当相率いる内閣官房が所管し自治体や病院が利用している接種記録システム「VRS」
- 厚労省所管し、保健所、自治体などが利用する陽性者数把握システム「HER-SYS」
今回の「河野対策会議」もすでに作られている連絡協議会の外に新しいシステムを作り出すという意味では新型コロナ対策と同じ「間違い」を繰り返しているように思える。だが、世論が「それでも問題解決を優先すべきだ」と傾けばおそらく問題の所在はトップダウンのシステム開発を嫌い独自システムの維持にこだわり続ける官僚組織だということになるだろう。
統一教会問題にせよ新型コロナ対策にせよ、問題は強引なリーダーシップと縦割り官僚の抵抗という二つの要素が合成されて作られている。このうちどちらをより大きな問題だと考えるかはその時々の「伝わり方」と「空気感」によって変わることになる。
どちらに問題があるにせよ新型コロナにおける縦割り行政とスピードの問題はまだ解決していない。
新型コロナ対策ではHER-SYSの入力が医療機関の負担になっている。このため「システム入力が負担だから全数把握そのものをやめてしまえ」という乱暴な議論が起こった。だがシステムを全数把握型から定点観測型に改築するのにも時間がかかる。現在9月の半ばまでかかるだろうと言われているようだ。システム設計があまり得意ではない厚生労働省の感覚ではおそらくこれでも「大急ぎ」ということになる。
縦割り行政の問題は情報共有にも表れている。岸田総理の突然の方針転換も政府組織内で全く共有されておらず「全数把握見直し、政府の説明不足で混乱 自治体と方針共有されず」という記事が出るほど問題視された。結局この情報共有不足(いわば根回しが足りなかった)のために岸田総理は発言の撤回を余儀なくされた。
新型コロナ対策は厚生労働省の所管だが自治体対応は総務省の管轄だ。岸田政権という単独の組織体はなく厚生労働省や地方自治体・総務省という体に切り離された頭としての官房が乗っかっているに過ぎないとも言えるわけだ。
河野対策会議の成否は「ワイドショーにどれだけ継続的にネタを提供できるのか」という点にあるとばかり思っていたのだが、最初に出てきた課題は実はかなり大きくて重いものだった。
立憲民主党などの野党が同じ提案をしても「政権が欲しいから反対しているだけだろう」などと受け取られる可能性がある。だが紀藤弁護士らはただただ目の前にある問題を解決したいだけだ。世論の高い関心を岸田政権は彼らの問題意識にゼロ回答で済ますわけにはいかないのではないだろうか。岸田政権はかなり重い宿題を背負わされたことになるが、仮にこれらの問題に答えられないのであれば「岸田総理に代わってスピード感を持って問題解決ができる人をトップにしては」という声も出かねない。