CNNが「リビア首都で武力衝突 死者23人、負傷者140人」という記事を出している。ところがこの記事には細かな背景が書かれていない。リビアでは2014年から内戦が起きており衝突が既定事実化しているからである。とはいえこの記事だけを見てもよくわからないので背景を調べてみることにした。背景にはフランスとイタリアの権益争いもあるようだ。NATO加盟国が競合しているため「西側」対「専制主義国」という構図が作りにくいのかもしれない。
リビアの独裁者カダフィ氏が殺されたのは2011年10月21日だった。アメリカとフランスの関与があったようだが最終的に誰が殺したのかはよくわからなかったようだ。その直前の9月にはフランスのサルコジ大統領と英国のキャメロン首相がトリポリを訪問し反カダフィ派「国民評議会(NTC)」への支援を約束していた。
リビアにはもともと統一的な国家などなくカダフィ氏が恐怖政治で各勢力を抑えているような状態だった。このためリビアに統一的な国家が作られることはなく内戦に発展した。Wikipediaによるとトリポリ政府とトブルク政府のほか地方勢力が入り乱れるというかなり混乱した状況にあったようだ。トブルクはリビア東部にある天然の良港だそうである。
この時フランスとイタリアはそれぞれの政府を支援していた。イタリアはリビアに権益を持っているがフランスは出遅れていた。このためリビアでの権益増大を狙うフランスが国連に認められていない「政府」を応援したのだと国際政治学者の六辻彰二さんはまとめている。六辻さんの記事ではトリポリ政府とベンガジ政府という表現になっている。ベンガジも東部の港湾都市だがトブルクとは離れている。リビアを巡ってNATO加盟国が争うというのが2019年の状態だ。
2011年に「リビア国民の味方だ」と宣言したフランスだが実は興味があったのはリビア国民ではなく自分たちの石油権益の拡大だったということになる。
内戦は2021年春頃に暫定統一政府ができたことで一旦集結するかに見えた。朝日新聞と毎日新聞にそれぞれ記事が残っている。
ところがこの暫定政府は長続きしなかった。2022年2月になると東部の議会が独自に首相を指名した。西部の軍事勢力の一つからも承認を受けており、かつての東西対立がかなり複雑化していることがわかる。カダフィ氏の次男のセイフイスラム氏が大統領選挙への出馬を検討しておりかつて敵対していた東西勢力が手を組んで「セイフイスラム大統領」の誕生を阻止しようとしているのではないかと日経新聞は分析している。
少なくとも東西に二つの勢力がある限り統一的な選挙は行えない。このため「本格的な和平の実現には遠いだろう」というのが春先の見込みだった。
ここまで読んでくるとようやく冒頭のCNNの記事の意味がわかる。東部のリビア国民軍(LNA)と連携する代表議会が実力行使で政権を奪おうとしているのである。このようにリビアではまともな選挙が行えない状態が続いておりついに武力衝突まで発生した。市民が巻き添えになることが予想されるため国連リビア支援ミッション(UNSMIL)が深い懸念を表明し敵対行為の即時中止と国際人道法の順守を求めているそうだ。
こうしたニュースが出てくると「ロシアなどの専制主義的な国」と「西側の民主主義国の対立」という構図が作られるのが一般的なのだが、CNNの記事にはそのような記述はない。そもそもNATO加盟国のイタリアとフランスが権益争いをしているためどちらかに肩入れするということができないのだろう。このような状態では「民主主義を守れ」と拳を振り上げることができない。すると事態は黙認され「深い懸念を表明するだけ」になってしまうということがよくわかる。
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