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今年のパウエル議長はジャクソンホールから金融市場の楽観論を強く戒めた

パウエル議長のジャクソンホール講演が終わった。大方の予想通りエコノミストの要求に沿った形となった。インフレ抑制策は「痛みを伴ってでも続ける」と宣言したのだ。金融市場にあった楽観論を強く否定した形だ。ただ、すでにこのトーンは予測されており市場には大きな動揺はなかった。とはいえ株式市場は一喜一憂しておりニューヨークの株価は「急反落」したそうだ。

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パウエル議長が強調した痛みはロイターの記事によると次の通りだ。

  • トレンドを下回る成長が一定期間持続する必要がある公算が大きい。
  • 労働市況も軟化する可能性が非常に高い。
  • 金利上昇や成長鈍化、労働市場の軟化はインフレを低下させるが、家計や企業に痛みをもたらすだろう」と述べた。

このところ「嵐」と呼べるような状態に陥っている金融市場としては「一体いつまで我慢すればいいのだ?」という気分になるだろう。パウエル議長はこの問いには答えなかった。9月のFOMCについても言及しなかった。当然といえば当然なのだが「いつまで」と言ってしまうと金融市場がそれを織り込んでしまう。アメリカ合衆国は安全保障上でも曖昧戦略を取っている。情報が飛び交うSNS時代だからこそ「曖昧にしておく」ことに意味があるのだろうとさえ感じる。

今年のジャクソンホール講演が注目されたのはパウエル議長が去年大幅に予想を外しているからである。この講演の後議長はインフレを過小評価しているとして一年近く批判され続けた。ロイターは別の記事で様変わりした経済指標を一つひとつ点検し総括している。

ただ、パウエル議長の間違いを積極的に評価する人もいる。間違っていたのは不幸中の幸いだったと分析する記事が出ている。仮に去年パウエル議長がインフレ対策に前のめりだったならばアメリカ経済はまだ準備ができていなかっただろうというのだ。新型コロナの感染拡大は収まっていなかったし失業率も高いままだった。

さらに、現在のインフレにはウクライナの戦争も大きく関わっている。つまり去年の段階でインフレ対策を行っていたとしても新しい要因が積み上がってしまえば「さらに痛みを伴う対策」が必要になっていた可能性がある。

今後の注目点は「この状態がいつまで続くのか」という点に移った。さらん「ソフトランディングが可能なのかあるいはハードランディングさせるべきか」という議論もある。

例えば、すでに別のエントリーで読んだようにサマーズ元財務長官は「経済に強いダメージを与えてでもインフレを止めるべきだ」と主張している。つまりFRBの対策は弱すぎると言っている。このまま「甘すぎるインフレ抑制対策」を続ければボルカーショック級の強い抑制策が必要になるだろうという立場である。一方、FRBは「その必要はない」と考えている。特に中間選挙目前に失業率が悪化するようなことがあればおそらく民主党の負けはかなり強いものになるだろう。

もちろん「市場の予想通り」とはいえ株式市場は反応した。

議長講演前は「NY株続伸、322ドル高」だったのだが、講演後は「NY株反落、一時500ドル超安」である。このブログをリリースした後でQuora経由で「いやいや1000ドルも落ちている」と書かれており時事通信の最新ニュースを見たところ数時間で「NY株急反落、1008ドル安 景気懸念で売り加速」になっていた。

金融市場はこの先もしばらくはFRBの発言・議事録要旨・経済指標などをにらみつつ一喜一憂をするという展開を続けるだろう。わが国にとっても他人事ではない。ドル円のレートが乱高下している。

「ハードランディング」を予想するエコノミストたちも増えている。アメリカのインフレは高すぎるとはいえハイパーインフレと呼べるような状態にはない。それでも一旦高いインフレ基調が定着すると経済炒めることなしにこれを抑制するのは難しくなる。

アメリカの場合、バイデン大統領の社会主義的な財政支出と低い金利がその原因の一つになっている可能性がある。議会共和党という「足枷」のせいで思うようにばらまけていないのだがそれでも高いインフレが起きている。

積極的な財政出動と低い金利の組みあわせという国もある。トルコはすでに高いインフレに悩まされているがエルドアン大統領は金利の引き下げを正当化している。

日本でも与野党ともに「さらなる財政出動を」という声が大きく日銀の金利は低いままだ。今何も起きていないからといって将来にも何も起こらないという保証はどこにもない。アメリカのインフレはおそらく対岸の火事ではなく他山の石とすべき問題なのだろう。日本の場合、島内外の各方面に配慮して意思決定が遅れるような状態が続いているため状況はアメリカよりもひどいものになるのかもしれない。

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