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SNSが左右する戦争:エチオピアで内戦が再び激化するも情報が全く入ってこない

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エチオピアで再び内戦が激化している。東アフリカでは最も大きな経済大国でアフリカで2番目に人口が多い国で混乱が続いているのだ。今回の最も大きな特徴は「なぜ内戦が再開されたのか」がよくわかっていないという点にある。エチオピアはイギリスとの関係が薄いためBBCも情報をカバーしていない。唯一情報を流しているのはAFPである。フランス24がAFPの情報を流しているが事情はよくわかっていないようだ。ウクライナのようにSNSを通じた発信がないため情報が途絶すると状況が一切わからなくなる。

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エチオピアはもともと社会主義国家だった。この社会主義政権に対抗してきたティグレ人が軍事力をつけ支配勢力の一つになる。ところが民主化が進むと今度はティグレ人に弾圧されてきたオロモ人が政権を担うようになる。この積年の恨みが長引く内戦の根本的な背景にあるようだ。当然簡単には解決しない。

ティグレ州にはティグレ人民解放戦線(TPLF)が残っており政府軍から攻撃を受けていると主張している。もちろん政府はTPLFが仕掛けてきたと言っている。いずれにせよ地域は完全に封鎖された状態になっていて外からアクセスができない。このことが現状把握を難しくする。どちらの側も戦争を準備しているようだとされるが詳しいことはとにかくよくわからない。

結果的に「どうやら3月に宣言された休戦宣言が破棄され戦闘状態に入ったようだ」という情報だけが伝わった。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長はエチオピア出身で自身もティグレ人だ。しかしWHOの事務総長といえども現地の状況はよくわからないようだ。親族に対して連絡も支援もできないと嘆いている。その封鎖ぶりはかなり徹底しており、通信ができないばかりではなく送金もできないそうである。テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長によると閉鎖状態は今に始まった事ではないようだ。2年近くにわたり「基本的なサービス」から切り離されているそうである。閉ざされているのは情報だけではない。

ウクライナで行われている戦争は「対ロシア」という観点から欧米からの関心が高い。各国から頻繁に首脳が訪れゼレンスキー大統領を励ましている。ところがエチオピアの内戦は「主権国家内部の内輪揉め」と扱われる上に欧米にほとんど情報が伝わってこない。西側先進国が関心を持つか持たないかでこれほど状況が変わってきてしまうのだ。

ウクライナの情報が盛んに西側に伝わってくるのは当初ウクライナ側がSNSを使って情報発信をしてきたからだった。その情報発信も「ロシア対ウクライナ」ではなく「民主主義を守る戦い」という一貫したトーンがあった。今や戦争を制するのは武力だけではない。情報を出し方が戦況に大きな影響を与える。

アフリカの東側ではかなり多くの問題が起きている。

エチオピアの北隣にあるスーダンでは軍政が続いている。国連、アフリカ連合、政府間開発機構が入って民政復帰の協議をしているが国軍司令官が離脱したそうだ。議会を構成すべき諸派がまとまらず総選挙実施の見通しが立たないというのが表向きの理由だが、軍が実権を握り続けたいのではないかという疑念も生まれているようだ。このように状況が安定しないためロシアがスーダンに入り込み「闇」で金を売りさばいているとされる。これがウクライナ侵攻にどのように使われているのかは定かではないもののCNNはウクライナ侵攻を後押ししているとみている。

ソマリアではアルカイダ系のアルシャバーブの掃討が終わっておらず8月19日に首都のモガデシオでホテル立てこもりが起きたばかりである。20名以上が亡くなったとされている。BBCによるとアルシャバブは中部と南部の大部分を支配しているそうだがソマリア政府の支配地域にも攻撃を行っていると書かれている。つまりソマリア政府はソマリア全域を支配していないのである。

この二つの地域に共通するのは旧宗主国が決めた「国境」という概念が事実上崩壊しているという点にある。

ケニアの状況はそこまでひどくない。ケニアでは先日大統領選が行われたばかりだが結果が決着せず法廷闘争持ち込まれる公算が高い。つまりここでも選挙によって平和裡に政権交代が起こるという状態にはなっていない。

このように東アフリカ情勢はかなり緊迫しているのだが、まとまった情報発信がないためAFPやBBCといった西側のメディアが関心を持たない問題はほぼ無視される傾向にある。結果的にエチオピア情勢はWHOの事務総長ですら何がどうなっているのかわからないという状態になっている。当事者がどう発信するかによって状況が大きく変わってきてしまうのだ。

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