政治アナリストの大濱崎卓真さんが岸田政権の支持率についてまとめている。年代によって反応が違っているのだそうだ。今回は50才以上と50才以下なので必ずしも高齢者とは言えず中高年と若年層と表現したほうがいいのかもしれない。若年層では不支持が広がっていたが中高年は統一教会問題が出てから不支持が増えているのだそうだ。
今回の調査はスマホで誰でも参加できるという世論調査会社の日次世論調査である。新聞社が固定電話を中心に行っている月次調査とは調査方法に違いがあるはずだ。
まずは49才以下を見る。
- 参議院選挙期間中に不支持が上昇した。
- 安倍元首相の襲撃事件で支持率が急上昇した
- その後、また不支持率が再び伸び、結局急上昇の結果は打ち消しになった
参議院選挙の期間に支持率が落ちたことから選挙のメッセージが落胆された可能性があるのだがそれについては触れられていない。いずれにせよ一時支持率が急上昇したにも関わらずそれが定着しなかった点が注目ポイントだ。
次に50才以上だ。
- 参議院選挙までは支持率の方が不支持率よりも高かった
- 若年層と同じように安倍元総理の銃撃事件の後には支持率が伸びた
- ところがその後かなりの勢いで支持が落ちていった
大濱崎さんは「コロナの影響もあるかもしれない」といっている。だが、コロナの第七波が始まったのは7月の中旬だったのだから安倍元総理の銃撃事件以降一時的に急激に上がりその後急激に下がってゆく状態を説明することはできない。
統一教会の問題が影響していることは明らかである。
銃撃事件が起きた時には「安倍元総理の悲劇性」がクローズアップされた。おそらく選挙にも多少の影響を与えた可能性がある。ところがその後で統一教会問題が語られると安倍元総理が遺産として統一教会を支持基盤として受け継いできた可能性があることがわかってきた。さらに、岸田政権も安倍派・清和会の人たちもこの関係性を国民に説明することができなかった。このことから注目は徐々に安倍元首相から自民党全体に向かってゆく。
ただ旧統一教会を知っている人たちとそうでない人たちでは対応が分かれた。若年層は焦点が安倍元総理個人から自民党という集団に移ることで問題に関心をなくしていったのだろう。「よく知らないがなんとなくヤバそう」という感覚を持った人もいたかもしれない。ところが中高年は1990年のワイドショーを通じて統一教会について一定の悪いイメージを持っている。「あの犯罪的な集団との関係がまだ切れていなかったのか」と感じ一斉に離反したものと思われる。
ではこのワイドショーによる支持率落下効果は大濱崎さんが指摘するように50才以上のものなのだろうか。読売新聞は7月と8月の内閣支持率の違いをもう少し細かく分析している。60才以上の人たちの支持率が急落している。ざっくりいうと「バブル前」世代が大きく反応していることがわかる。このため読売新聞ははっきりと「高齢者」が離反していると書いている。
田崎史郎さんの説明によると統一教会と関係を持った最初の政治家は岸信介元総理だったようだ。その後、娘婿の安倍晋太郎元外務大臣が清和会を拡大するためにこの関係を積極的に利用し、それを安倍晋三元総理が受け継いだ。
清和会を作ったのは福田赳夫氏だった。だが息子の福田康夫氏は統一教会との関係は受け継がなかったようだと田崎史郎氏は述べている。このため孫の福田康夫元総務会長は「私には関係がない」と否定した。
このように票田としての統一教会は安倍派の利権である。しかも安倍派全てがこの関係を維持しているわけではなく主に安倍家の利権になっていたというのが田崎史郎氏の見立てである。だが、現在の安倍派にはこれが総括できる人がいない。容易にわかることだが、清和会・安倍系と清和会・非安倍系の抗争に発展しかねないからである。
このため「外にいる」岸田総理や茂木幹事長がこの問題に手を突っ込むことができない。岸田総理は岸田派の領袖であり茂木幹事長は竹下派を受け継いだばかりだ。よそのムラの利権に手を突っ込めば抗争になる。イデオロギーではなく少数のムラ(利権集団)に支えられている日本の政党ならではの事情だ。
これが「清和会・安倍派の問題である」という説明は、ある程度政治や自民党の内部事情に詳しい人には理解されるだろうが普通の有権者には理解ができない。このため「なぜ岸田総理や茂木幹事長は及び腰なのだろう」と感じてしまうのである。
さらに「宗教」との関係がクローズアップされると創価学会を支持母体に持つ公明党との関係に問題がでかねない。公明党の山口那津男代表は「宗教との関係でなく「特殊な」統一教会の問題として論じるべきだ」と主張している。
この問題については河野太郎消費者担当大臣がいち早く対応を宣言した。しかし河野太郎大臣のスタンドプレーにつながりかねないうえに微妙な宗教の問題に消費者庁が首をつっこむ前例になりかねない。
そこで岸田総理は岸田派の葉梨法務大臣に対応を指示したようだ。自分の信頼が置ける人間に問題をコントロールさせようとしているのだろう。問題を消費者問題に限定し事態の収束を図りたいはずだ。
ロイターによるとこの会議の構成メンバーは葉梨大臣の他は全て次官・担当室長・局長・次長などである。かなり恣意的な構成だ。例えば消費者庁の代表がなぜ「長官でなく次長なのか」という疑問もある。かなり慎重に人選したのだろう。同会議は、葉梨康弘法相(議長)のほか、法務事務次官、内閣官房孤独・孤立対策担当室長、警察庁生活安全局長、消費者庁次長、法務省人権擁護局長らで構成する。
岸田総理は票田という利権問題には触れたくない。またこの問題を宗教問題にしたくない。消費者保護の問題として小さくまとめた上で9月中に決着をつけたいと考えているようだ。
ではこれを有権者はどう捉えるだろうか。
少なくとも、中高年の有権者が自民党に忠誠心を持って支持しているわけではないようだ。彼らが自民党を支持しているのは「他に与党を任せたい政党がない」からに過ぎない。何か嫌なことがあると急激にイメージが悪化し簡単に支持率が落下してしまうのである。いわば非積極型の支持ということがわかる。
時事通信の7月21日の支持率を改めて見直すとこのことがよくわかる。「他に適当な人がいない」が最も多い支持の理由であり、次の理由は「総理を信頼している」「印象がいい」が続く。なんとなくよくわからないがまあこれでもいいのではないかということである。
岸田政権はこの高齢者たちの政治姿勢をうまく利用して高い支持率を維持してきた。だが一旦悪いイメージがつくとそれを払拭するのは容易ではない。もともと政策に期待しているわけではないのでいくら素晴らしい政策を準備してもそれが支持されることはない。単に印象で判断されてしまうのである。
政策には感度が低い有権者だが「組織の自己保身」の姿勢はなぜか鋭く見抜いてしまう。各方面に配慮して穏便に収めたいという総理大臣の姿勢が「自民党全体の保身」と捉えられれば、おそらく支持率はさらに悪化するだろう。だが党内基盤が脆弱な岸田総理には他の選択肢はない。