二週間前の8月10日にNHKが外国人観光客の受け入れを再開したが6月と7月の2ヶ月間に訪れた観光客は8000人だけだったと伝えている。上限は1日に2万人だが1日平均でおよそ310人にしかならないそうだ。
- 中国の海外渡航が厳しく制限されている
- ビザの取得や陰性証明の手続きが面倒で時間がかかるうえ、個人旅行を好む欧米の観光客の入国が低調
このうち日本のメディアが重点的に伝えているのは「自由旅行が制限されておりニーズにあっていない」という点だ。一方、中国からの旅行客の現象についてはあまり注目されていない。そのうち戻ってくると考えているのだろう。
現在日本に入ってくる観光客は添乗員が定めた範囲しか自由行動できない。さらに近隣の施設で食事ができる以外は自由に観光ができない。一部で「北朝鮮並み」と揶揄されるのはこのためだ。
CNNは日本に人が戻らない理由を書いている。自由と独立を求める欧米系の観光客は監視付きの旅行を嫌う。これを「ベビーシッター」という表現をする人がいる。FNN(フジテレビ系列)は韓国では日本旅行熱があり予約が急増したものの本番前に40%がキャンセルしたと言っている。内情をみて「これは面倒そうだ」と考えた人が多かったようだ。
取材対象から不満が漏れるためこうした声は注目を集めやすい。なぜこのような厳しい条件になったのかはわからない。一部には「利権があるのでは?」という人がいるがそれを指摘するような記事は見つけられなかった。むしろ「絶対に問題を起こすな」と注文された旅行業界がかなり厳し目のガイドラインを出したと考えたほうがよさそうだ。これを「利権」と揶揄されるは少しかわいそうである。
いずれにせよツアー旅行に組み込まれたお土産やさんやレストランなどは一般的に考えてかなり割高になるのが一般的である。パッケージ旅行に組み込まれたお土産物屋さんを素通りして近所で割安なお土産を探すのが海外旅行の醍醐味である。だが政府の規制で監視されているとなればそれもかなわない。「日本はしばらくやめておこう」という人が増えても不思議ではない。
判断に慎重さが求められるのは政権が海外旅行解禁を決めた時に「何かあったらどうする」という世間の反発を恐れたからだろう。おそらくこの時点では中国の観光客ならば「管理旅行」でも戻ってくるのではないかという計算があったのかもしれない。政府も旅行業界もこの時に暗黙のうちに先進国ではなく中国を選択しているのだ。
だがこの政府の目論見は外れてしまうかもしれない。ダイヤモンド・オンラインが中国の旅行事情について書いている。中国ではかなり厳しいロックダウン政策が実施されている。海外旅行だけでなく国内旅行すらままならない状態だ。
ただしこれは海外旅行に限った話ではないようだ。
記事によると中国航空当局は外国便だけでなく国内の航空機の便数を縮小させてしまった。航空料金が値上がりしており飛行機を使った移動そのものが難しくなっているのだという。中国政府や地方政府は人の移動によりコロナウィルスが拡散することを恐れているのだろう。「不要不急の移動は控えよ」というわけだ。
ただダイヤモンド・オンラインの記事は別の理由も書いている。以前ご紹介したように中国経済は加熱傾向にあった。これを抑えるため習近平政権は「共同富裕」という社会主義への回帰政策を行っている。このため「航空旅行は贅沢だ」とか「海外で浪費するくらいなら国内消費に目を向けよ」と政府が考えているのではないかというのだ。政府の考えが直接伝わることはないため中国人も類推するしかない。いずれにせよ当局が「良い」といえばやってもいいが、だめだといえば突然できなくなるというのが中国だ。
さらに別の記事で書いたように中国の富裕層には富を失うものも出てきている。不動産市場がかなり危ない状態に陥っており、中国金融当局は全容解明に向けて精査をはじめたばかりである。中国の富裕層に余力がなくなればコロナからの回復があったとしても爆買いツアーは戻ってこないかもしれない。
仮にこの話が本当ならば中国からのインバウンドが地域経済を支えるという日本政府の目論見は外れてしまうことになる。
こうなると、今後海外旅行を解禁するのならば「自由を重んじる」欧米系の人たちにどれくらい戻ってきてもらえるのかということが鍵になりそうだ。日本でも厳しい行動制限が敷かれているのならば「海外からの人流を制限するのはやむを得ない」といえるのかもしれない。ところが実際にはそうなっていない。行政のトップである岸田総理までもが夏休みでコロナを拾ってくるくらいだ。
学校の活動も制限されていないため家庭内でクラスターが起こる可能性があるのだが、文部科学省は「複数の家庭でクラスターが起きた程度では学級閉鎖は必要ない」という姿勢だ。こうなると海外旅行客だけに厳しい制限をかける理由は全く見当たらない。
おそらく今の日本政府のいちばんの問題は様々な意見を聞いた上で何も決められなくなってしまうという点だろう。厳しい制限をかけるのならば時期を限った上で業者に補償するなどの対策をとったほうがいい。仮に補償ができないのならば厳しい制限は緩和するべきだ。もちろんコロナウィルスを拡散することになるだろうからそれについての対応を真剣に考えるべきである。
結局「何も決めないので何も補償しないし対応もしない」という状態が問題を大きくしている。「何かを選ばなければならない」という状態で今の岸田総理に求められるのは聴く力ではない。自分で決断してその決断に最後まで責任を取るという姿勢である。
最後の望みとして「それでも中国人爆買い観光客が戻ってくるかもしれない」と考える人もいるのだろうが「もしかするとそれはもうないのかもしれない」という前提で動いたほうがよさそうだ。
ある程度思いきらなければ「次の対応」が考えられないのではないだろうか。
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