岸田政権のニュースを見ていると「主流派」「非主流派」という言葉が聞かれる。安倍政権では安倍派だけが主流派だったののだが岸田政権は宏池会系と清和会系の連合政権になっている。このため「主流派」を明示する必要が出てきたのだ。この連合政権に入っていない人たちが非主流派ということになる。
非主流派の中には河野一郎・中曽根康弘氏の系譜を引く二階派・森山派と独自路線を貫く石破グループが含まれるとされている。だが、この中に含まれない「派閥」がある。それが菅義偉さんの一派である。いまだに派閥を形成しておらず形としては無派閥という扱いになっている。
この非主流派が力を入れていることを見ると日本の政治がわかる。中央が中央の問題にかかりきりになっている間に「非主流派」は地方を固めているのだ。
岸田総理は総裁候補時代にいち早く「二階外し」を画策した。このため二階派は明らかに非主流派ということになっている。だが菅元総理とその周辺の扱いには苦慮してきた。菅元総理を副総理にして閣内に取り込むという計画もあったようだが、デイリー新潮によれば結局この構想は実現しなかった。
菅元総理は政権とのパイプを保っているという。政権では河野太郎消費者担当・デジタル担当大臣が目立っているが、萩生田政調会長と森山裕選挙対策委員長とは関係が親しい。このため、その気になれば政府に党を通じて影響力を行使することができる。
もちろん岸田政権も手を拱いて見ているわけではない。統一教会問題ではいち早く河野太郎消費者担当大臣が「対策検討会議」を立ち上げると表明した。そのあとの主流派の対応は早かった。葉梨康弘法務大臣(岸田派)を座長に対策強化月間構想をぶち上げた。参加しているのは法務省・警察庁・消費者庁だ。河野太郎大臣のスタンドプレイを許さず岸田派の大臣が対策をコントロールすることを目指しているのではないかと思われる。
対策は9月の一ヶ月限定だ。仮にこの間に世間がこの問題に飽きれば終わりになるだろう。逆に政府の対策が不十分だということになれば今度は菅義偉氏にも近い河野さんの活躍の舞台ができる。これまで何十年も放置してきた問題を岸田政権はかなり軽く考えており「一時のワイドショーの気晴らし」のように思っている。今後の成り行きは葉梨康弘法務大臣の手腕次第だ。
本来、安倍元総理の正と負の遺産を受け継ぐのは菅元総理のはずだった。だが政権を受け継がなかったことでこの「負の遺産」からは解放されている。もう一つ岸田総理が片付けなければならないのが新型コロナ対応である。第7派で行動制限をしないことを決めてしまったために「全数把握体制」が崩壊している。ついに専門家から「死者の数が増えてゆくのではないか」という予測も出るようになった。このまま感染が落ち着くかそれとも高止まりするかによって、行動制限をしなかったことの是非が岸田政権の評価が変わるだろう。
岸田政権はこの間「中央の問題」にかかりきりになる。これに加えて来年の広島サミットに向けた下準備が続けられる。ウクライナの問題も片付いていない。さらにスリランカから「債務再編を助けてください」と大統領代行もやってくるかもしれない。中央と外交は政権が握っているが、どうも大忙しだ。
岸田政権に「派手な看板をぶち上げるのは得意だがどうも中身に乏しい」という評価が定着すれば「仕事人」の菅義偉氏の評価が上がることになるだろう。菅元総理は政権とのしがらみにとらわれなかったことで自由に活動ができる時間を手に入れている。そんな中、菅元総理が力を入れているのが地方行脚なのだという。もともと総務大臣なので地方行政は得意分野なのだろう。勉強会を作って中央でプレゼンスを獲得するよりも「地方の声を聞く仕事人」というイメージの方が売れると考えているのかもしれない。マスコミもこれを注目して居て産経新聞と日経新聞が菅氏の山梨訪問について書いている。写真だけ見るとシャインマスカットのぶどう棚の下で別のぶどうを食べているだけというどこかのどかな風景だが、この写真をかなり刺激的に見ている人もいるかもしれない。
地方票の行方は総裁選挙でも一種の世論調査の役割を果たしている。僅差になった場合にはあまり影響がないが、どちらか大きく一人の候補に傾けば議員票に影響を与えることになるだろう。
総務大臣のもう一つの管轄分野は通信行政だがハイテクにはあまり詳しくないようだ。携帯電話料金を下げるという政策はわかりやすかったが菅政権が終わるとすぐに形骸化している。この点について菅元総理よりも若い世代がサポートすればあるいはかなりバランスの良い政権ができるのかもしれない。デジタル大臣になった河野太郎大臣が実績を上げることができるのか、あるいは口だけで終わるのかにも注目が集まる。
自民党に派閥があるおかげで中央・外交・地方・次世代戦略がバランスよくカバーされている。主流派が中央の問題に忙殺されている間に「勉強会」や「視察」を通じて次に備えるというのが日本型の擬似政権交代だ。
今までとの違いは今回の非主流派が明示的な派閥を形成していない点にある。これまでは清和会と宏池会というのが主流派と非主流派だったのだが、一方の核が「無派閥」になり見えにくくなった。
実は無派閥を「一つの勢力」とみなした場合は清和会に続く第二派閥になり麻生派を超えている。このうちのどれくらいが「菅派」なのかがわからないため実態よりも大きく見せる効果もあるだろう。
政治部の記者たちはこの「菅派」の大きさをできるだけ正確に掴まなければならない。