スリランカのウィクラマシンハ大統領代行はなぜ債務再編を日本に頼ろうとしているのか?

スリランカのウィクラマシンハ大統領代行が「日本が中心となって債務再編を助けてほしい」と依頼してきた。一部報道によると日本に来たいとも言っているそうだ。ではなぜ、ウィクラマシンハ大統領代行は日本に頼ろうとしているのか。






日経新聞の記事にはスリランカの債務状況についての円グラフがある。それによると日本と中国の債権はそれぞれ10%程度である。一方で「民間」の債務が47%もある。国としては中国と日本が主要貸付国なのだが全体の割合を見ると日本の債権はそれほど多くない。

日経新聞はこれを日中対立の枠組みで捉えようとしている。

  • 債務整理は通常パリクラブ 主導で行われるが、中国とインドがパリクラブに入っていない。
  • スリランカとインドとの関係も必ずしもよくない。
  • G20にも債権整理の枠組みがあるがスリランカは対象外だ。

日経新聞は意外と「反中色」の強い新聞社なので「日本が主導権を逃げれば中国を牽制できるのではないか?」などと書いている。つまり「主導すべきだ」という立場だ。だが、政府関係者(財務省の幹部)は中国の反発を恐れているとも書いている。

日本はこれまで国際的ないざこざを避けて無難に行動して来た。このためさまざまな問題に対して「部外者」の立場にある。そのためスリランカは日本に最後の希望を抱くわけである。

さらに別の問題もある。この47%の中身である。少なくとも日経新聞には内容についての記述がない。NHKも内容については書いていない。どちらもロイターの伝聞記事なのである。ロイターの記事にも書かれていない。

実はこれが問題になっている。日経新聞の記事によると日本と中国の債務は各10%だ。ところがロイターには別の書き方をしている記事がある。「一部の見積もりでは」となっているところがポイントだ。実は債権の中身がよくわかっていないようなのだ。

スリランカは中国から少なくとも50億ドルを借り入れており、一部の見積もりでは債務額はその2倍前後に達する。また国際通貨基金(IMF)によると、インドが38億ドル、日本が少なくとも35億ドル、その他先進各国が計10億ドルをスリランカに貸し付けている。

スリランカ債務再編への関与、中国にも利益=米財務長官

おそらく誰から借りているのかがよくわからなくなっているのだろうが、IMFやアメリカが盛んに中国の協力を呼びかけているところから「民間投資の一部あるいは大部分は実は中国のもの」と見ている可能性がある。

これまでパリクラブが債権整理を行うことができたのは政府がきっちりと債権を管理していたからだ。資本主義社会では当然「良い時もあれば悪い時もある」ので悪いときには債権を猶予したり相手の国の国家経営に適切なアドバイスを与えなければならない。資産家がだまっていれば全てが返済してもらえるというものでもないわけである。

政府はこのために国内金融機関がどのような投資活動を行なっているのかを管理しなければならない。無秩序な貸し出しは政府を巻き込んだ貸し倒れを招く可能性があり、地域の不安定化にもつながりかねない。

ところが中国の「いわゆる資本主義」はこれを理解していなかった。とにかくパリクラブを無視して自分たちへの返済を優先させお金が返せなくなれば港などの資産を差し押さえれば良いという昔ながらの金貸しの感覚である。

このためIMFもアメリカも盛んに「中国が債務整理の枠組みに参加すべきだ」とか「中国が債権整理をすべきだ」などと主張して来た。だが、資本主義が理解できない中国がこの枠組みに参加することはないだろう。さらにこうした国はスリランカだけではなさそうだ。南太平洋地域でも「一帯一路」の次の犠牲者は誰かなどと囁かれ続けている。2018年にロイターが「コラム:中国一帯一路の「債務ドミノ」、次に倒れるのはどこか」という記事を書いている。

中国が資本主義を理解していないことは国内問題への対処を見ても明らかである。河南省では銀行が違法な窓口を作り預金保険の対象にならない投資を募っていた。これが破綻したのだが地方政府はまともな対策が行えず健康管理アプリを使い河南省の外からやってくる抗議者を排除しようとした。中央からは新しい担当者が入って来たが、やはりお金は取り戻せなかった。結局騒ぎは収まらず地方政府が失った資金を肩代わりすることになった。

自国内でもこの有様なのだからとても外国の債権整理などは主導できないだろう。

日本は主な債権国なので整理してあげたいのは山々だが、問題を解決できるかどうかは「誰が一体いくら貸しているか」を整理できるかにかかっている。おそらく最終的には中国の「民間貸付」の整理が問題になるのではないかと思う。

このようにかなり複雑化しているスリランカの債権問題なのだが、実はもう一つ厄介ごとが増えそうだ。CNNによると国外逃亡していたラジャパクサ前大統領が戻ってくる意向を示しているという。行き先が決まらなかったようだ。ウィクラマシンハ大統領代行は「政治的緊張を高める可能性がある」としてラジャパクサ前大統領に帰ってこないように呼びかけている。

現在スリランカには緊急事態宣言が出されている。7月末に決まったため8月末までの予定ということになる。緊急事態宣言の延長には議会の承認が必要だがウィクラマシンハ大統領代行は今の所延長は考えていないそうだ。

ここにラジャパクサ氏が戻ってくればスリランカは再び緊張することになるだろう。ウィクラマシンハ大統領代行は債権整理どころではなくなるのかもしれない。

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“スリランカのウィクラマシンハ大統領代行はなぜ債務再編を日本に頼ろうとしているのか?” への3件の返信

  1. IMFの中身のスタッフが日本の財務相およびアメリカのカウンターパートからのスタッフで構成されているのは広く知られていることです。
    つまり国際機関であるIMFに出来て日本にできないことは多くあれど、日本にできてIMF似できないことは非情に少ない。日本の一存でお金を出すことくらいですが、それだってIMF経由でできること。
    記事にあるように「中国/西側」という枠組みで見るのならば、IMFと日本を区別する意味はとくにありませんが、実際にはイコールではありませんよね。
    今回の話で気になるのは、債務整理の幹事について、スリランカはIMFと交渉中でありながら、なぜ関係者のひとりである日本を名指しで指名するなど、ある意味混乱を招くようなことをしたのか?です。
    IMFは債務整理の幹事請負をするにあたって、スリランカ側の努力も求めています。その内容は、まあ銀行が債務者に要求するのと同じような返済計画なわけですが、その一部として定期的な財務監査や、スリランカ政府の汚職追放、政治の正常化などが含まれるといわれています。
    ウィクラマシンハ新大統領は、系譜としてはラジャパクサ一党に属し、デモ隊からは公職追放を要求されているわけで、現に彼は緊急事態の中大統領になったわけですが、過去の政府の汚職や罪状を詳らかにして国民の信頼を得る、という方針は取っていません。
    スリランカのこの現状は控えめに言っても火中の栗なわけですから、対中国という目論見ガルにせよ日本がその中に飛び込む意味は少なく、IMFという国際的な枠組みを盾にして処理すべきだと考えます。

    1. 日本はリスク回避傾向が強い国なので、普通の状態であれば「面倒な問題に首をつっこむのはやめておこう」となるんでしょうね。唯一説得できるカードは「でも中国に取られたらどうしよう」という恐れです。
      本来ならば政権が議論を整理した上で結論を出すべきなんでしょうが、色々と忙しそうですし、岸田政権はあまり大胆な意思決定はやらない政権のようですから「日本がリーダーシップをとって」というような大胆なことは宣言しないように思えますよね。

      さらに、スリランカも選挙を控えていてウイクラマシンハ氏も「暫定」なわけですから「今すぐどうこう」ということは起こらない気がします。

      コメントありがとうございました。

  2. スリランカは卓袱台返しを行って、中国にスリランカ港湾施設の返済と使用を認めない宣言を行ない、中国の負債を一切帳消しにするくらいの強い意志をもって、中国と手を切る必要がある。
    日本が債務調整を引き受けるとすれば。
    日本も債権の帳消しを行って仲裁に乗り出す覚悟が必要になると言わざる得ない。

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