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ケニアの大統領選挙は案の定「小規模暴動」に発展

このブログでは継続的にケニアの大統領選挙について扱っていた。「たかが大統領選挙だろう?」と思われるかもしれないのだが、事前に心配されていた通りに小規模な暴動が起きており今後法廷闘争に発展する可能性が濃厚だ。だが、AFPは暴動とは呼ばず「暴力的な抗議運動」と表現する。「抗議運動」はナイロビの貧民街と西部キスム州で起きているそうだ。ではなぜこうなったのか?ということになる。

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ケニアは様々な民族がモザイクのように集まった国家だが、伝統的に中央集権的な要素が強い。ケニヤッタという国家の英雄が諸民族を解放したうえで国の基礎を作り繁栄に導いたという歴史的経緯があるからだ。現在の大統領ケニヤッタ氏は初代大統領の息子である。またオディンガ首相も初代副大統領の息子である。

中央集権的な色彩が強いため国民は「大統領が全てを決める」と認識している。ところが現在のケニヤッタ大統領のもとで対外債務は膨らみインフレは進行し、中学校の進学率も落ちている。このため「政治は自分たちには関係がない」と感じる人が多い。今回の投票率も暫定集計の結果では65%程度だった。1/3程度の人が「大統領が誰になっても特に自分たちの生活は変わらないだろう」と感じていることになる。

政府はある程度の地方分権を目指し国を47の郡に分割した。だが人々の認識はあまり変わっていないようだ。

また選挙制度にも問題がある。これまでの選挙を踏まえて選挙管理委員会は電子投票制度の導入による透明化の確保や集計の途中経過のWeb公開など様々な対策を講じてきた。ところがどんなにシステムをきっちり作っても運用する人たちが信頼できなければ正しく機能することはない。

ケニア選管の独立選挙・境界委員会(IEBC)には7名の委員がいる。8月16日までに選挙結果を確定させなければならないため一応結果は出した。だが、BBCによれば7名中4人が「選挙結果に責任が持てない」と宣言し責任を放棄してしまった。オディンガ候補は「選挙不正」を訴えているが、この人は前の選挙の時にも選挙不正を裁判に持ち込み選挙を無効化しているという「前科」がある。現在77歳で5度目の選挙なので「今度こそは勝ちたい」という気持ちがあるのだろう。

あらかじめ予想されていた通り、おそらくオディンガ候補は裁判所に異議を申し立てることになるだろう。だがプロセスは粛々とは進行しない。おそらくこの機会に乗じて暴れてやろうという人も多いはずだ。これが「暴力的な抗議デモ」につながっている。

このニュースを見ていると「民主主義が浸透していない国は大変だなあ」と思うのだが、同じような問題は民主主義の先進国でも起きている。

アメリカ合衆国では大統領選挙の「余波」が続いており、トランプ大統領対司法省という問題が起きている。一部ではFBI襲撃計画などもでているそうだ。彼らはおそらく政治プロセスには興味がなく単なる破壊行為に興味があるのだろうが、表向きは「自由と民主主義を守る」という建前を持った人が多い。

日本ではこのような派手な動きはないが「誰に投票しても代わり映えはしないから、誰か政界の暴露話でもしてくれないか」という期待は高まっている。比例での得票数を見ると社民党とほぼ並んでいる。ネットでの直接民主主義を訴える政党も台頭しており、こちらは社民党を抜き連合などの組織に支援される国民民主党に迫る勢いだ。日本でもじわじわと「旧来型の政治不信」から、破壊的な改革に憧れる人たちが増えていることがわかる。

つまり一度民主主義を獲得したかに見える国でも議会制民主主義が内部から破壊されるということが起きないという保証はないのかもしれない。この破壊行為が新しい創造を生み出す可能性もないことはないのだろうが、確率は極めて低い。

このような先進国の政治状況を見るとケニアの状況は極端ではあるが完全に他人事ではないということがわかる。議会制民主主義が人々から遠すぎると人々はそれに代わる解決策を希求するようになるのだ。

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