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ケニアで大統領選挙 暴動に備えて商店は買いだめを推奨

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ケニアで大統領選挙が行われる。例によってコロナ禍やウクライナの戦争などで経済が傷んでいるが経済的には比較的問題が少ない国だ。

ところが、それでも大統領選挙はいつも一筋縄ではいかないようだ。2007年の大統領選挙では1100名以上が死んでいるが今回は「大方平和裡に進んでいる」そうである。ただし有事に備え学校は閉校になり商店は買いだめを推奨している。政府は15万人の警官を動員して有事に備えている。

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2007年の選挙では1000人以上の死者

ケニアの人口は5000万人程度で面積は日本の1.5倍程度。アフリカの中では比較的恵まれた多民族国家である。経済規模はエチオピアとほぼ同等であり東アフリカの大国の一つである。

だが大統領選挙のたびに問題が起こる。キバキ大統領はキクユ族中心の政治を行ったため他の民族から不満が出ていた。2007年にキバキ大統領が再選された選挙では、キクユ族の権力独占に起こった他民族の暴動が起こりキクユ族が大勢殺されたそうだ。Wikipediaには項目まで作られており「ケニア独立以来最大の危機」と表現されている。

2017年の選挙では大統領選挙が一度やり直しになる

2017年の選挙でも一悶着があった。キバキ大統領の後継になったケニヤッタ大統領の再選選挙だったが不正疑惑が出た。この時に16名がなくなったと朝日新聞が書いている。この時は最高裁判所が無効判断をして選挙はやりなおしになった。

IDEがこの時の混乱を詳しく書いている。最高裁判所が「選挙無効」の判断を出したが野党勢力側は納得せずに選挙そのものをボイコットする。このため結果的に98%の得票率でケニヤッタ大統領が再選されている。

この時に問題になったのは電子選挙システムだった。2007年の選挙を反省して作られたそうだ。電子投票で紙を補完する仕組みになっている。ここまでやらないと選挙の正当性が証明できない。しかしながらこの電子投票システムでも「選挙無効」の判断が出てしまったところからケニアの選挙制度があまりうまく機能していないことがわかる。

CNNによるとケニヤッタ大統領は最高裁の選挙やり直し判断を「クーデターだ」と非難したという。ITシステムに不正進入があったか選管当局者がデータ介入をしたのかはわからなかったというところからも事態の深刻さがわかる。選挙当局と政治との癒着が否定しきれない状態にあるということだ。

野党のオディンガ首相側は前回と同じ騒動を期待して選挙をボイコットしたが選挙は粛々と行われケニヤッタ大統領の再選が決まった。

実は「与野党対決」は単なる既得権益層の歌舞伎かもしれない

ここまで読むと、今回の選挙もケニヤッタ大統領が代表するキクユ族とオディンガ首相率いるルオ族などの対立なのではないかと考えてしまう。

だが今回ケニヤッタ大統領は3回目の選挙には出られないためオディンガ元首相を応援しているという。つまりなぜかキクユ族がルオ族を応援する構図になっている。

これに対抗するルト副大統領は「ハスラー」を自認する。もともとはチキン売りで今でも庶民派をアピールしている。またルト副大統領はカレンジン族でありキクユ族ではないそうだ。つまり、今回はキクユ族と他民族という対立ではなく、世襲政治家と庶民代表の戦いになっている。

選挙戦は接戦らしくどうなるかが見通せない。最新の英語版BBCは「Kenya Elections 2022: Raila Odinga and William Ruto in tight race for president」となっておりまだ接戦が続いているようだ。選挙システムに一部混乱があったようだが今のところ暴動などは起きていないようだ。

BBCは興味深いレポートを出している。一見民族間の争いのように見えるのだが、実は政治的エリートたちの争いに過ぎないのではないかというのだ。一貫して「野党」だったオディンガ氏は初代副大統領の息子でありケニヤッタ大統領は初代大統領の息子である。今回ライバルのはずのこの二人が結びついたことからもわかる通り「民族対立」を演出しつつ実は既得権として裏で結びついている可能性がある。

ルト副大統領はこうした既得権とは無縁の存在であり、ケニヤッタ・オディンガ両氏を既得権者に位置付けた上で自分を一般庶民の代表だと位置付けている。つまりケニアでも政治状況が変わりつつある。

ケニア政府はゆきすぎた中央集権制が問題を生んでいると考え47の郡に権限を分割したそうだ。だが、BBCによると人々は依然「一番強い権力を持っているのは大統領だ」と感じている。このため大統領選で権力構造が大きく変わるという期待があり5年毎の大統領選挙が過熱することになる。

BBCの別の記事によると高いインフレに苦しんでいるため政府は債務を増やしており政府の持続性に不安があるそうだ。また例によって中国の資本が入った鉄道計画などがある。この鉄道にも将来維持コストが必要になる上に中国の銀行(政府とは書かれていない)に対しての債務も増えている。

新興国に中国が入り込み財政が危険な状態に陥るというのはよくあることだが、ケニアも例外ではない。東アフリカではエチオピアと同等の経済力を持っておりケニアが不安定化すればそれはそのまま東アフリカの不安定化につながることになる。選挙結果がいつ明らかになるかは今ところ見通せない。

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