このところアメリカのインフレ予想は落ち着いていた。このため75bpという急激な利上げはないものと予想され、ドル円も一時130円まで円が戻していた。ところが雇用統計が好調だという観測が出ると一気に状況が変わった。10日の消費者物価指数(CPI)まで待たなければいけないがという但し書きはあるが「75bpの利上げも」という空気が生まれている。
例によってBloombergは張り切った見出しをつけている。「やけどしそうな」雇用統計、9月FOMCの75bp利上げに追い風である。この記事は短く雇用統計が良かったのだからインフレ抑制策を撮り続けなければならないと断定している。
ロイターはもう少し詳しく解説する。「雇用統計を受け、金利先物に織り込まれた9月の0.75%ポイント利上げの確率は約70%と、統計発表前の約40%から急上昇した」そうである。こちらも雇用統計が良かったのだから景気は良いのだろうという判断をしているようだ。
ロイターは雇用統計が落ちていないということは「アメリカはリセッションには陥らないのだろう」と書いている。別の記事では「アメリカがリセッションに入るという観測を嘲笑うような数字である」という関係者の声を伝えている。
一転して「金融政策が効果を上げるまでまだしばらく時間がかかるだろう」という予測に転じているのが面白いところである。目先の数字に一喜一憂して動かざるを得ないのだ。
個人的には労働市場の加熱はコロナによって加速した早期退職の影響が忘れられているのではないかと思う。日経新聞によると300万人がコロナの影響で前倒しで大量退職している。つまり景気が好調だから人材が払底しているわけではない可能性がある。仮にこの大量退職の余波で人材が足りなくなっていると仮定すると、足りなくなった人材に合わせてブレーキを踏み続けていてはアメリカの経済はボロボロになってしまうだろう。
これを最終的に判断するのはバイデン政権だがどうも様子が怪しい。リセッション懸念は選挙の悪材料になるため雇用統計のデータを「経済が好調な証である」と宣伝したがる傾向にあるからだ。バイデン政権はテクニカルリセッションに対して「反論する」というポジションを取っているため、今回の材料も景気が悪化していないという材料として使うのだろうが、人材不足に対する対策は遅れるものと思われる。するといつまでもインフレ対策が必要になり出口に向かえなくなる。
ただし、投資をやる人にとって重要なのは事実がどうであるかよりも、事実を人々がどう解釈するかである。またFRBはおそらくそれなりに「正しい」判断をするだろう。
ドル円相場は8月2日に130円まできていたがわずか数日で135円まで戻した。金融引き締めがまだまだ続くという予想に人々が短期間でシフトしたことがわかる。この流れに遅れないようにあらゆる情報を取りながら柔軟に対応することが求められるのだろう。
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