ペルーで4人目の首相が辞任したとニュースになっている。大統領は5人目の首相を選ばなければならない。
事情がなかなかに複雑そうだ。まず辞任したトレス氏はカスティジョ大統領に近く「意見の相違」で辞任したわけではない。またトレス氏がどこかの政党を率いており大統領派と対立しているということでもなさそうである。つまり、一見他の国で起きている議会と大統領の対立という構造ではない。
ただし、やはり基本構造は大統領と議会の対立である。全国政党がないペルーでは地元利権を握った議会とそれを制裁したい国民が選んだ大統領が対立するという構図が生まれやすい。前回の選挙でカスティジョ大統領は僅差で選ばれており政権基盤が脆弱である。このため大統領を追い落としたい野党が大統領の汚職疑惑を追及している。様々な疑惑が持ち出されカスティジョ大統領は5件の疑惑で捜査対象になっているそうだ。そのうち4件は汚職である。またそのうちの2件では大統領自身が「犯罪組織」の一員であるかどうかが調べられているという。
カスティジョ大統領は2021年7月の選挙でわずか4万4000票差で大統領に選ばれていた。小学校の先生出身で労働組合のリーダーだというしがらみのない経歴のはずだったのだが蓋を開けてみると数々の汚職疑惑に見舞われている。とはいえ憲法上は大統領に止まっている限りはこれらの容疑で逮捕されることはない。
ペルーの大統領はかなり強力に守られている。記事の内容を拾うと次のようになる。つまり、犯罪捜査の対象になり「これは決定的に黒だ」ということになっても逮捕もできなければ大統領の座から引き摺り下ろすこともできない。
- ペルーの憲法によると、現職の大統領が弾劾(だんがい)されるのは、反逆罪、大統領選挙または地方選挙の妨害、議会解散、全国選挙陪審団やその他の選挙機関の活動妨害の4つの容疑のみだ。
- ペルーの大統領は在任中に捜査されることはあっても、起訴されることはない。
これだけを見ると統治機構状の失敗のように思える。全国政党がなく議会が一枚岩ではないので大統領に改革の期待が高まるが支持基盤が強力ではないために議会を巻き込んだ改革ができないという構図だからである。
だがやはり背景にあるのは経済問題だ。ペルーとアルゼンチンは現在高いインフレに悩まされている。ペルーは食料品価格の高騰を抑えるため利上げ(インフレ抑制策)を行い消費税に当たる税金を免除する措置を取っていた。ペルーの消費税率は18%なのだそうだ。この免除措置の期限は7月末までだったのだがその後延長されたというニュースは確認できなかった。スペン語を検索するとホテル・外食の税率引き下げについては話し合われているようだ。
ペルーの緊張は4月ごろに高まっていた。各地でデモが起こり警察隊と衝突し死者も出ている。一応、混乱が各地に広がることはなかった。また、債務交渉をしないと立ち行かなくなるが経済担当大臣が辞めてしまったというアルゼンチンよりも緊急度は低い。「汚職捜査」と「首相の度重なる交代」程度で済んでいるとも考えられる。