ブルガリアのラデフ大統領が声明を出し「10月2日に選挙をやると発表した。時事通信によると1年半で4回目の選挙になる。こうしたケースが中・先進国で多発しているためブルガリアまではカバーしていなかったのだが、改めて調べて見た。
ソ連依存の経済だったブルガリアはソ連崩壊後に経済の低迷が続いた。転機になったのはEU入りとシェンゲン協定への加盟だった。ヨーロッパからの投資が呼び込みやすくなるはずだったのだが、人の移動が自由になり人口が減少し始める。少子化の影響もあり900万人いた人口は現在650万人程度と言われる。つまり子供を産んで永住できるような環境ではないと国民からみなされている。
2009年から首相を務めていたのはボイコ・ボリソフ氏だった。ヨーロッパ発展のためのブルガリア市民(GERB)という政党を率いており今でもこの政党が議会の第1党だ。だが、ブルガリアの国民議会は比例代表制のため1つの政党が支配しにくい構造になっている。さらに汚職疑惑がありボリソフ首相はデモによる反発を招きGERBも支持を失った。
面白いのはこのデモの内容である。大統領と首相の対立になっている。首相側が大統領を「利益誘導と国家機密の暴露」で捜査し、大統領側は首相がオリガルヒとつるんで汚職に手を染めていると攻撃していた。アメリカの民主党と共和党の関係に似ている。
朝日新聞はこの三回の選挙をこう書いている。もともと社会党とGERBの対立だったのだがここに新しいポピュリズム政党が入り込んだだというのがブルガリアの特徴のようである。ポピュリズム政党は「こんな人たちがいる(ITN)」という名前だそうだ。
- 4月の1回目の総選挙では、ボリソフ氏率いる中道右派政党が第1党となったが単独過半数に至らず、他党との連立政権づくりに失敗。
- 7月の2度目の総選挙ではポピュリズム政党が第1党となったものの、単独過半数に届かず、連立協議も不調に終わった。
- 2021年12月の選挙では社会党と組み「反汚職・反ボリソフ」運動を繰り広げた。
12月の選挙でようやく社会党など3党の連立政権ができた。キリル・ペトコフ新首相はボリソフ氏を念頭に置き「汚職を撲滅する」と抱負を述べていた。
次にブルガリアについて報道が出たのは2022年6月だった。争点になったのは対ロシア政策だった。今度は首相と社会党がウクライナ問題への関与について意見対立を起こしたのだ。
新興ポピュリズム(大衆迎合)政党「TISP」(ブルガリア語で「ITN」)が連立離脱を決めたため、ゲンチョフスカ外相とニコロフ・エネルギー相が13日に辞任したと書かれている。ITNを率いるのは芸能人のスラビ・トリフォノフさんという人なのだそうだ。
ラデフ大統領が最初に当選したのは2016年である。社会党の支持を受けた前空軍司令官だった。つまり長らくGERB議会と社会党のねじれ状態にあったことがわかる。同じく2016年の記事には「プーチン高笑い、トランプのアメリカを含む3カ国が親ロ派にスイッチ」がある。反ヨーロッパ・反エスタブリッシュの親ロシア派でロシアとの関係改善を主張していたそうだ。また、移民危機の影響なのか移民嫌いでも知られていたという。
ペトコフ首相はアメリカで教育を受けておりウクライナに武器を提供しようとして社会党との関係が悪化していた。この首相と社会党の関係悪化をチャンスだと考えたITNが「次は勝てるかもしれない」と連立を抜けたために総選挙に追い込まれたものと考えられる。
ラデフ大統領は連立政権をまとめようと必死だったが結局叶わず再選挙に追い込まれることになった。日本語での情報が少ないため現在どの程度ITNが勝てるかどうかなどの情報は得られなかった。