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2022年10月からの最低賃金が31円(3.3%)で決着

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2022年10月からの最低賃金の議論がようやく決着しそうだと毎日新聞が書いている。額は菅政権を上回る30円以上ということになりそうだという。毎日新聞は「前回は企業側が抵抗したためしこりを残したため慎重に検討を進めていた」と書いていた。結局政府側が31円アップで決着させた。審議は夜まで続いたのだそうだ。

土壇場までまとまらなかった理由について考えてみた。色々考えたのだがそれが報道されることもなさそうだ。多分、企業側の「演技」だったのではないかと思う。

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最低賃金は安倍政権下で3%程度上がっていた。新型コロナの混乱で0.1%という年が1年あったため菅政権は3.1%という数字で決着させた。これが反発を生みしこりを残したというのが大方の説明になっている。

だがしこりと言う割には最終決着はあっさりとしたものだった。政府の言い分がそのまま通ったのだ。提示額は折り合えない程度ではなくとはいえ「史上最高額」と言える3.3%という絶妙なあげ具合だった。ただし、7月中には決着させず夜まで「うん」とは言わなかった。そうなると時間をかけたことに意味合いを持たせようとしたのだろうと類推したくなる。

抵抗しているのは企業側だが具体的には中小企業を代表する日本商工会議所だったようだ。では中小企業は賃上げに反対しているのか。実はそうではない。

商工会議所が中小企業に調査したところ4割は「最低賃金を上げるべきである」と答えている。時事通信によると主な理由は「人手不足」と「従業員のやる気アップ」だったそうだ。ただ引き下げるべきと答えた企業や現状維持が好ましいと考えている企業も39.9%ある。つまり中小企業の間にもうまく行っている企業とそうでない企業の格差が生まれていることがうかがえる。業績が上向いていて最低賃金をあげてもいいと考える企業もあればそうでない企業もあるわけだ。

帝国データバンクは「ゾンビ企業」と言われる企業が再び増加していると指摘する。ゾンビ企業は債務超過に陥っているものの支援などで生きながらえている会社だが、帝国データバンクは政治的には「これ以上成長が望めず雇用の拡大に貢献できそうもない」企業を含むと説明している。つまり先行きに希望がなく単に生きながらえて事業をやっているような会社が含まれている。

先行きがない企業で働く人も増えている。

2021年9月に東京新聞が「最低賃金近くで働く人が10年で倍増 非正規や低賃金正社員にコロナ禍も追い打ち」という記事を出している記事は最低賃金の近傍で働いている人が増えたと書いている。正確には「最賃の全国平均の1.1倍以下で働く人の割合は2020年に14.2%となり、09年の7.5%から急伸した」そうだ。

この記事は最賃の1.1倍以下で働く人は卸売り・小売り(22.2%)や宿泊・飲食サービス(31.5%)などが多いと書かれておりサービス業が貧困化していることがわかる。この産業にとってみれば最低賃金値上げ=政府による強制的なベースアップということになる。商工会議所が抵抗してみせる理由がよくわかる。

ただし東京新聞の記事は短いためあまり議論に役に立ちそうな課題は抽出できない。ダイヤモンドオンラインに2022年7月に「最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは」という記事が出ている。この記事は若い男性正社員の中にも最低賃金近傍で働いている人が多いという点を問題視している。記事は世帯主年収が200万円未満の若い男性世帯主がどのような働き方をしているのかを調べている。結果「だいたい正社員の1/5が最低賃金近傍であろう」とのことだ。将来の日本を牽引する若者はかなり苦しい生活をしているようである。

「最賃近傍」で働いている若者が余剰時間を蓄積して自分で勉強してスキルを身につけることも難しいだろうなと思う。つまり若年労働者雇用の最賃依存は未来を削っているのと同じことだ。だが、特定の産業に限って言えばこれ以上の職場環境が提供できないというのもまた事実なのだろう。

かつての最低賃金はパートや学生アルバイトなどの補助的な労働賃金という意味合いしかなかった。このため最低賃金のニュースは「一部の人たちの問題」と捉えられがちである。だが実際には最賃近傍で働いている人たちが増えていて彼らにとってこれが彼らにとって実質的な賃上げであるということになる。

日本商工会議所は「政府の言うことなんだから聞いておこうか」という感覚だったのだろう。だがやすやすと政府の提案に乗るわけにもいかない。最低賃金の引き上げに反対してる企業も多いからである。このため会頭は表面上は渋い顔をして「政府はもっと企業支援をしてもらわなければ困る」と苦言を呈して見せた。政治的というには少し稚拙な気もするがそうでもしないと収まらないという組織的政治事情があるのかもしれない。言うことは言ったし夜まで粘って頑張ったと言える体裁を作ったわけだ。

日本らしいと言えばあまりにも日本らしい「決着のつけ方」だった。

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