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中国が「ペロシ議長来るなら来い」と警告のための実弾演習を準備

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もちろん具体的な戦争の危機が今起きているというわけではない。ホワイトハウスのカービー報道官は「今の所中国が台湾に攻めて来る兆候はない」と記者団に述べたそうだ。それはそうだろうとは思うのだが、それくらいのことを言わなければおさまらない程度には騒ぎになっている。

先日ペロシアメリカ下院議長が台湾訪問の意向を持っており公式日程が決まっていないということを書いた。バイデン大統領が「軍は乗り気ではないが最終的にどうなっているのかわからない」と不確定なことを記者に漏らしたことをきっかけに中国の反発がさらに高まった。

ついに共同通信が「中国は福建省で実弾訓練をやるようだ」と報道するまでになっている。ただし中国政府も軍もこれについて積極的な発信はしていない。単に漁船が立ち入り禁止になったというだけの報道がされている。日経新聞はもっと積極的に「訪台計画威嚇」と書いている。ただし、タイトルが大きいだけで記事の内容は共同通信とさほど変わりはない。TBSは台湾メディアも「警告の意味が強いのだろう」と受け止めていると報道している。

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台湾海峡問題は日本の安全保障にとっても影響が大きい。有事ということになれば日本が巻き込まれるのは既定路線といってよいのだがこれほどまで簡単に話がエスカレートするというのは驚きでもある。さらに付け加えるならば「全く具体的な脅威などない」にも関わらず話だけがどんどん大きくなっている。米中の首脳が「継続的な関係構築」に動いているという背景を考え合わせるとその異様さがさらに際立つ。BBCによれば習近平国家主席は「火遊びする者は身を焦がす」と強い調子でアメリカを牽制してみせた。

結局ペロシ氏のアジア歴訪の意味が語られることはなく「ペロシ氏が訪台を強行すれば米中が衝突するかもしれない」という点だけが強調されることになった。これがペロシ氏が意図した本来の目的だったとはとても思えない。

欧米の首脳たちが危険をおかしても民主主義国を応援したがるのはのはそれが票になるからだ。あえて危険な場所に入ることで自身の政治姿勢をアピールすることができるのは鉄道経由で続々とヨーロッパの首脳が訪問することを見れば明らかだろう。

ウクライナでは「ジョンソン首相をウクライナの首相に」という声があがり5,700人の署名が集まったそうだ。時事通信が伝えている。それだけウクライナでは人気があったのだろう。ウクライナ憲法ではこうした登用はできないそうだが、署名が25,000人分集めればゼレンスキー大統領は公式にこれに回答する義務が生じるのだという。

ただしこうしたパフォーマンスに頼るのは内政の状態が思わしくないことの裏返しでもある。ジョンソン首相は結局保守党議員から離反され首相の座を降りることになった。ジョンソン首相のパフォーマンスはイギリスでは効果がなかったのだ。

これはバイデン大統領と民主党にとってもおそらく当てはまる。だが、二元代表制という建前上は大統領は議会に対して「これをやってはいけない」とは言えないそうである。大統領に任せておいては民主党は中間選挙で勝てないかもしれないという焦りがあるのかもしれない。

世界戦略として中国を刺激してでも「民主主義擁護」を訴えることがアメリカの国益に叶うと考えているならば、中国の攻撃を覚悟してでも訪台を強行する意味はあるといえるのかもしれない。だがウクライナ問題を抱え国内のインフレ抑制に苦労しているアメリカにそこまでの余力があるとは思えない。もともとバイデン大統領の「意図的な失言」からエスカレートしてきた台湾海峡問題だがいよいよ現実の脅威になりつつある。少なくとも中国がかなり苛立っているのは間違いがなさそうだ。

CNNによれば民主党支持者の75%がバイデン大統領では大統領選挙に勝てないだろうと考え始めているそうだ。本来は民主党支持であるCNNがこのような報道を出さなければならないほどバイデン大統領の人気は低迷している。

また、民主党と共和党の過激な政権争いにうんざりした人たちも出てきている。穏健で常識的な多数派のために「フォワード」という新しい政党が結成されるそうだ。普通の国では既存政党に飽き足らない人たちがより過激なポピュリズム政党を作る。だが、アメリカではこれが逆になっている。本来国の統治に責任を持つはずの既存政党がお互いに争っているため、国内問題は解決せず、外国を刺激し安全保障環境が脅かされる。すると経済制裁が始まり国内経済がより打撃を受けるという悪循環だ。

ただし、第三政党がアメリカで躍進したことはない。共和党・民主党の穏健派の賛同が集まるかどうかに注目が集まる。

このようにおそらくは民主党の人気低迷を背景にしたペロシ議長の訪台計画は内外に波紋を生じさせている。

では当事者の台湾はどう思っているのか。CNNによると特に大きな騒ぎになっておらず当局も特に賛成・反対のコメントは出していないそうだ。積極的に発言すれば中国を刺激することになりアメリカに「来ないでくれ」とも言い難い。当事者の台湾はこうした騒ぎには慣れっこになっているということがわかる。た

結局、ペロシ氏が台湾には行かず「あの騒ぎはなんだったんだろう」というところに落ち着いてほしい。台湾で米中が対立するというのは我が国にとって好ましいことではない。コロナ禍やウクライナ問題など騒ぎが山積している。これ以上問題を増やして欲しくないと思うのだ。だが、行かなければ行かないで「中国の脅しに屈した」と言い出す人は出て来るんだろうなと思う。

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