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「人に還元」の岸田政権の目玉政策の最低賃金裁定は8月1日に持ち越しに

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今、最低賃金が決まらないという異例の事態になっている。最低賃金は厚生労働期間の諮問機関である中央最低賃金審議会で決められるのだが、過去数回の会議では決まらず「次回へ持ち越し」ということになっていた。さすがに今週のうちには何か動きがあるだろうと思っていたのだが金曜日になってもニュースが出てこない。実は次回の会議の開催の日程が決まっていないというのだ。時事通信は「前回、政治主導で決着したためにわだかまりが残っているのだろう」と分析している。結局、午後7時過ぎに「8月1日に会議をやります」ということになった。さすがに週を持ち越すのはまずいと感じたのだろう。とりあえず会議もひらけないという最悪の状態は回避された。

前回の最低賃金が決まったのは7月14日のことだった。菅総理の沽券にかかわる問題とされ政治的な決着が図られた。安倍政権下では3%賃上げだったがコロナ禍の影響で0%になっていた。これをコロナ前に戻し、前政権よりも少しでも上乗せしたいというのが菅政権の強い意向だったのである。結果3.1%で政治決着が図られた。

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中央最低賃金審議会には労使の他に「公益代表」という政府の代表がいる。菅政権時代は決まる前から政治の側が具体的な3%という数字を提示して雰囲気づくりをしていた。まず5月ごろにはすでに全国平均時給1,000円を目指すと総理が表明し「賃上げの空気」を作ろうとした。

このように総理が自ら最低賃金に関する発言を繰り返すのは岸田政権も一緒だが、朝日新聞の直前の記事を読むと菅政権の時代は半ば力技だったことがわかる。言葉は力強くても出てくる政策のトーンがどこか弱い岸田政権と言葉より実行という菅政権の違いがよくわかる。

だが、この菅総理のリーダーシップが菅総理の総裁再選に寄与することはなかった。コロナ対策で前に出たこともあり「菅政権は強引だが何もできていない」という評価が生まれ、再選出馬断念に追い込まれていったのは記憶に新しい。

最低賃金引きあげも「3%程度では暮らしが成り立たない」というような規模でありこれが労働者に感謝されることはなかった。確かに思い切った「一律28円」の引き上げだった。菅総理がこだわったのは「3.1%という前よりも少しでも高い率」であることだったからだ。このわずか0.1%が総理や厚生労働省にとっては大きかったのである。

こうして経営者にわだかまりを残しても達成した0.1%だったが、この後でインフレが起こり実質賃金は下がりはじめている。ロイターの関連記事を探してきたが実質賃金は下がり続けている。6月の実質賃金は8月の初旬に発表される予定だ。

時事通信によれば名目賃金は増えているのにエネルギー価格や食品価格が高騰しているため実質が下がるのは2022年4月の時点で2年5ヶ月ぶりだったそうである。

生活は苦しくなっているのだから賃金をあげればいいではないかと思えるのだが、そうはいかない事情がある。経営の方も「ゾンビ企業」と呼ばれる企業が増えている。帝国データバンクの推計によれば16.5万社がゾンビ企業に当たる。「債務不履行の状態が続いているか債務超過の状態にある企業」などがゾンビ企業に分類されるのだそうだ。ただし帝国データバンクは10年以上経っているが雇用が確保できない企業もこのゾンビ企業に加えている。コロナの経済対策のおかげでゾンビ企業が増えてしまったというのが帝国データバンクの見立てである。

また雇用調整助成金も雇用保険料の蓄積を使い切ったが結果的に社内失業者を増やしただけだった。使えるものは使ってしまったという感じなのだろう。

説明はしないがおそらくこうした背景を踏まえて、今回の第7波対策では感染者が100万人という事態になっても国は都道府県に対策を求め企業救済などは行わない予定だ。行動制限を実施しないので対策も講じないという組み立てになっている。だが自粛は行われるため飲食店や観光業などすでに経営が厳しくなっているところが出てきているものと予想される。

本来ならば、賃上げについてゆけない企業を普段から少しづつ潰してゆく必要がある。潰れる企業の数が一定に抑えられれば「新陳代謝が進んでいる」ということになる。ところが、場当たり的な対策でしのいできたために「国の支援が切れた時にバタバタと多くの企業が潰れる」という状態に陥っているようだ。

いずれにせよ、企業は今後「新型コロナ対応において企業への配慮が足りない」と不満を感じるようになるだろう。そんななか政府が強引に最低賃金の引き上げを政治裁定するようなことがあればおそらく企業経営者から地方組織への突き上げが始まるはずである。

地方組織への反発を意識すれば賃上げはできない。だが、「最低賃金引き上げ」をゼロ回答にはできない事情が総理大臣にはある。

岸田政権は「人への投資」とか「新所得倍増」などと重ねて強調してきた。施政方針演説でも「賃上げへ環境整備」と主張しており、2022年6月の時点でも読売新聞がわざわざ「【独自】「最低賃金1000円以上」25年度にも…政府方針、消費活性化図る」という記事を書いている。独自というのは読売新聞の政府広報か自発的な支援であることが多い。岸田総理としては賃金をあげる「岸田」という評価を定着させたいことだろう。

岸田総理はこれまでの主張を曲げて企業に配慮するかそれとも看板政策を維持するために企業との関係にしこりを残すかという難しい選択を迫られている。おそらく前政権・前々政権のように「支援金」で問題を解決できれば良いのだろうが、その選択肢はおそらく使えなくなっているものと思われる。8月1日の裁定がどのようなものになるのか、あるいは本当に裁定ができるのかなど引き続き注目したい。

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