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安倍元総理追悼演説延期のかんたんな経緯と安倍派をめぐる諸報道のまとめ

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安倍元総理が衝撃的な亡くなり方をしてしばらく経った。安倍元総理は後継者を決めずに亡くなったため清和会は次のリーダーを誰にするのかで一触即発の状態にある。このため岸田総理は国葬を設定し時間を作る道を選んだ。これを瞬間冷却という人がいるが国葬が終わるまでは服喪期間になるため次へ向けた動きが起きにくくなる。

だが、皮肉なことに諸儀式の主導権をめぐる争いは水面下で活発化している。その一端が安倍元総理追悼演説の延期だ。時事通信は「野党が反対しているから」と説明するが、毎日新聞は甘利さんの問題について触れた別の見方をしている。

うまく問題を収めたかに見えた岸田政権にとっては思わぬつまづきとなった。

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まず国葬の意味についてみてゆこう。元共同通信の後藤謙次さんはこれを「フリーズ(瞬間冷却)」と表現している。政治記者の経験の長い後藤さんらしい興味深い分析だ。党内を落ち着かせ安倍派の動向を管理しやすくなる思惑がありそうだ。

この「後藤説」を裏付けるのが人事スケジュールだ。時事通信社が詳細を書いている。8月上旬という声もあったようだが「日程上厳しい」とか「四十九日前だから」などというあまり合理的でない理由が並んでいる。10月20日に亡くなった吉田茂元総理の国葬は10月31日に行われているのだから四十九日前に葬儀をやってはいけないという慣習は日本にはない。

とにかく様々な理由を挙げてできるだけ人事が固まる時間も引き伸ばしたいというのが岸田政権の思惑なのだろう。そして人事が決まった後にもしばらく期間を設定したい。その結果、国葬儀は9月の末ということになった。当初は新型コロナ対応だろうと思っていたのだが、もしかするとコロナのことはそれほど重要だとは思っていなかったのかもしれない。

すぐに人事をやれば「人事から漏れた」人たちが騒ぎだしかねない。さらに「自分が安倍派を取りまとめ人事の窓口になりたい」と言い出す人が出てくると派閥内の混乱に収拾がつかなくなる可能性もある。このような状態ではすぐに人事に着手できないため、金子農水大臣と二之湯国家公安院長は民間人のまましばらく続投が検討されているそうだ。二之湯さんは旧統一協会問題も抱えているがそれでも人事が動かせないというのが今の岸田政権だ。

ところが、そもそも岸田政権の主流派は安倍派を存続させるつもりはないのではないかと思える。例えば、時事通信社は高市早苗さんと福田康之さんは党の人事からは外れそうだと書いている。どちらも安倍元総理に近い人だった。

安倍派独特の事情ものぞく。凶弾に倒れてから葬儀が行われるまで安倍家に寄り添った人たちが二人いる。それが高市早苗政調会長と福田康之総務会長だった。福田さんは清和会創業家のプリンスだが高市早苗さんは清和会の外に出ている。特に高市政調会長は「安倍昭恵さんが病院に着くまで生命維持装置をお願いした」と最期を取り仕切ったことをアピールした。いずれにせよ安倍派の「後継者候補」とみなされる人たちは蚊帳の外に置かれた。安倍家と安倍派の関係は実はそれほど良好ではなさそうなのだ。

こうして安倍派の幹部・後継者候補を儀式の外に置きつつ、安倍家を取り込んだ岸田政権と主流派のペースで話が進んでいるかに見えた。

ところがここで計算外のことが起こる。

今回、国会での追悼演説に甘利明さんが指名された。政権は「ご遺族の意向だった」と表明している。これを整理して説明するのが広報誌である読売新聞の仕事だ。読売新聞は次のようにまとめている。このように「公式に」説明しないと収まらならない程度には不自然な演説指名だった。

  • 甘利さんが追悼演説をすることになったのは遺族たっての希望である。遺族とは安倍昭恵さんのことだ。
  • 野党は首相や首相関係者が亡くなった時に追悼するのは野党第一党の党首が追悼するといっているが、それは中選挙区時代の名残である。
  • さらに立憲民主党は国葬(国葬儀)に反発しているため追悼にはふさわしくないと判断したのだろう。

だが、甘利明さんは自身のメルマガで「清和会にはカリスマ性のある次世代のリーダーがいない」と分析して見せた。甘利さんは自分の派閥を率いていたが麻生副総裁の派閥に合流した。つまり清和会とはライバル関係にあるグループの実力者である。さらに今回の筆致からもわかるようにどこか軽率なところがある。

ゲンダイはさらに生々しい観測を書いている。自民党政権に批判的な立場のゲンダイは「国会の私物化」と断じたうえで甘利さんの問題に触れ「菅元総理にはやらせたくなかったのだろう」とも付け加えている。つまり、安倍派に有力な後継者を出させず非主流派の菅さんにもスポットライトを当てたくなかったのだろうということになる。

甘利さんの筆致は清和会・安倍派を刺激しマスコミにも格好の観測材料を与えた。

現在、自民党には大きな派閥がいくつかある。主流派と呼ばれるのが岸田派・麻生派・麻生派の甘利グループである。さらに反主流派の菅派と二階派が復権を狙っている。菅派は派閥を作るかグループに留まるかがまだ定まらない。

現在空白地帯となった清和会(安倍派)の議員がどちらに多く流れるかによって岸田政権の前途は大きく変わってくるだろう。大きな選挙がないために清和会・安倍派の動向がそのまま明日の自民党の勢力図を変えてしまうのである。雪崩を打って菅グループに合流などということになれば岸田政権の権力基盤は大きく揺らぐことが予想される。まとまりのない安倍派に「菅義偉」という総理経験者の核が生まれるからだ。

後藤謙次さんはフリーズと言っているがそれはあくまでも表面上の話である。甘利さんのメルマガを見てもわかるように水面下ではマグマのような権力争いが進行している。そしてそれが隠しきれなくなってもいる。

政権は「追悼演説が延期になったのは野党のせいだ」と説明し時事通信はそれをそのまま書いた。一方で甘利さんの件を知っている毎日新聞はその内情をありのままに描いて見せた。あとは、国民がどちらを信じるかということになる。

ただ「野党が反対しているから」という理由にしてしまうと、岸田政権が野党に負けたことになってしまう。実はこれは岸田政権にとって都合の良いことではない。だがまさか「内紛で追悼演説が頓挫した」とは説明ができない。

ここまでが今回の経緯である。追悼演説を政治的に利用したかった岸田政権は「甘利さんの性格」を計算していなかった。甘利さんとしてもメルマガで支援者に何を言ってもそれが伝わることはないだろうと考えたのだろう。主導権を握りうまくやっているという余裕があったのかもしれない。

政治ウォッチ経験の豊富な人の中には今後の動きを予想する人が出てきている。その一つがダイヤモンドオンラインの「「統一教会と安倍派・清和研」の大問題、橋本派・経世会の没落を想起する理由」という記事だに描かれている。

この記事は小泉政権下で仮想敵だった経世会が日歯連問題で攻撃されたことを引き合いに「清和会も統一教会問題で攻撃されるのではないか」と書いている。現在テレビでは盛んに統一教会と自民党の問題を扱っている。「売れる話題だ」と判断されたからである。だが実は自民党の主流派の人たちにとってみれば安倍派抑制と縮小につながる都合が良い動きなのかもしれない。

そう考えると茂木幹事長の自民 茂木幹事長「旧統一教会と党は組織的な関係はない」の意味がわかってくる。茂木さんは、自民党ではなく「一派閥の問題だ」と言っている。つまり、この問題が安倍派や非主流派(無所属や菅元総理に近いグループ)のものである限り抑制する必要はない。今後しばらくは「誰がマスコミに取り上げられるか」に注意して見ておいたほうがいいだろう。

気になるのは今後の自民党の支持率である。コロナ対策・物価高対策そっちのけで派閥闘争と権力争いに明け暮れていると見られればおそらく自民党の支持率は下がるだろう。今回の甘利明さんのあまりにも軽率な行動は安倍派対主流派という構図を作り出し自民党崩壊の一歩になりかねない。

岸田政権には是非持ち直してもらいたいものだと思う。いうまでもなく、新型コロナの感染者が広がり続けており政権一丸となって対応してもらわなければならない重要なタイミングだからである。だが政権が実際に今何を考えているのかはあまり伝わってこない。

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