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7月のFOMCはサプライズなし バイデン政権はリセッション懸念の払拭に躍起

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FOMCの対応が発表された。事前の予想通り100bpの利上げはなく75bpにとどまった。つまりサプライズはなかったことになる。一方でBloombergは「FOMCの金利見通し、明確化は期待薄の様子-物価の見通し不透明で」という事前記事でパウエル議長が今後の展望を話すことはないのではないかと予想している。FRBの役割の一つだが経済状況が複雑化しており明確な方向性を提示することができないのではないかというのだ。

いずれにせよ行き過ぎた景気にブレーキを踏むというFRBの当初目標は達成されつつあるようだ。すると今後の焦点は経済対策に移ることになる。問題はバイデン政権がこの状況をどのように見ているかということなのだが、どうも期待が持てそうにない。

バイデン政権は金融市場に広がるテクニカルリセッションという言葉が一人歩きすることを恐れており「風評被害対策」に躍起になっている。

ここで問題になるのが「テクニカル・リセッション」という用語だ。バイデン米政権高官、「テクニカル・リセッション」観測に反論という記事を読むと現在バイデン政権が持っているマインド・セットがよくわかる。

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景気には波があるというのが経済学の基本的な考え方である。この時、経済が後退局面に入った状態をリセッションという。リセッションに入ったかどうかはしばらく経済動向を見ないとわからない。アメリカではリセッション判定をする国家機関NBERがリセッション認定をするとそれに合わせた経済政策が発表されるという手順になっているようだ。

ただ金融市場はそれを待っていられない。このため「GDPが二期連続で縮小した」などの技術的側面で自動的に判断するテクニカル・リセッションという便宜的な指標を伝えている。ロイターの「NYの視点:米4-6月期もマイナス成長でテクニカルリセッションの兆候、FRBの利上げは継続」という記事は、FOMCで提示される4-6月期の予想もマイナスなのであろうと言っている。

テクニカルには「些細な、瑣末な」という含みもあるがこの場合のテクニカルは本来の「技術的な」という意味である。だが「FRBさえも先行きの見通しが立てられない」という状態になると懸念は一人歩きする。政権は「テクニカル・リセッション」という用語が一人歩きし共和党の政権批判に利用されることを恐れているのだろう。

Bloombergの記事で、ディーズ国家経済会議(NEC)委員長は「市場に流通するテクニカルリセッションという言葉には意味がなく全米経済研究所(NBER)がリセッション認定して初めてリセッションになる」と説明している。イエレン財務長官も「テクニカルリセッション」と評価されたとしても本物のリセッションではないのだからNBERはリセッション認定をしないだろうと言っている。つまり、現在のGDP指標によってアメリカ連邦政府が具体的な対策を講じることはないと言っているのだ。

イエレン財務長官は「労働市場は好調だから大丈夫なのだ」と説明している。ただ悲観的な予測が並ぶ中好調な数字だけを示されると、かえってチェリーピッキングな印象を持ちさらに不安な気持ちにさせられる。イエレン財務長官が主観的判断に傾いているように見えてしまうのだ。

行政のトップであるバイデン大統領に求められていたのは「形式的にリセッション状態に入ったとしてもそれは統計上のことであり、打ち手はあるから大丈夫だ」という説明だったのだろう。仮にそのような説明をしていればBloombergに「Biden Team’s Take on ‘Technical Recession’: It’s Not Real」という見出しをつけられることはなかったのではないだろうか。原題の意味は「バイデンチームはテクニカルリセッションは本当のリセッションではないと注釈をつける」というような意味である。「注釈」にはあれこれ言い訳しているというような含みがありそうだ。行政府に求められるのは注釈ではなく見通しと行動だ。

いずれにせよ今回FRBは従来の見解を繰り返したものの先行きの見通しは示さなかった。ロイターから正確に引用すると「インフレリスクを引き続き注視する」と言っており、引き続き何かあった場合は対応すると言っている。つまり、インフレの終結が宣言されることはなく、とはいえさらなる強い措置を示唆することもなかった。

YouTubeでアメリカのリセッションについて検索するとアメリカのテレビの「リセッションとは何か」とか「リセッションの時にはどう行動するのが正しいのか」というプレゼンテーションが次から次へと流れてくる。中には信頼できそうもないメディアもあるが、信頼できそうなメディアのフッテージも流通する。

この中で興味深いものを見つけた。それがウォール・ストリートジャーナルのフッテージである。労働者の減少について説明している。「労働参加率が下がっているため労働力の不足が起きている」というのだ。

労働参加率が下がるのは高齢者がコロナによって早く仕事を引退してしまったからである。調べてみると日経新聞も「コロナで早期退職、ベビーブーマー300万人 米連銀試算」という試算を紹介している。つまり、実際にこういうことは起きているようである。。

つまり、イエレン財務長官が好景気の指標として出している労働市場の好調さこそが問題の根幹の一つである可能性がある。日本でも団塊の世代が一斉に退職し職場の知識の継承がなされないのではないかと懸念されたことがあった。人口動態に加えコロナという特殊事情が変化のスピードを加速させたということだろう。バイデン政権はリセッション懸念を払拭することに躍起になり本来取り組むべき問題を認識できていないかもしれない。

アメリカ経済は世界経済への影響が極めて強い。バイデン政権には落ち着いて経済対策に取り組んで欲しい。だがトランプ前大統領も出馬表明に向けてワシントンで場を温めはじめた状態にあるため、しばらくバイデン政権が腰を据えて経済対策に取り組むことはできないのかもしれない。するとこの不安定な状態はしばらく続くことになるだろう。問題は金融政策から経済政策に移ったといえるのかもしれない。

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