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国交省の方針転換 ー 国主導で赤字路線の整理が進められることに

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このところ国家破綻やコロナなど大きな主語・トピックが多かったので「小さな暮らしの問題」を扱ってみようとネタを探したところ、赤字ローカル路線の記事が見つかった。かなり入り組んだ話なのでタイトルをどうするかが悩ましいところだが、結局「国主導で整理が進む」というタイトルにすることにした。最近、国交省が「廃止協議不介入不介入」から「介入」に方針を180度転換した。現在答申を準備中のようだ。だが、都市部に住んでいる人は「そんなことは知らなかった」という人が多いはずだ。

国が今後の地方経営について明確なビジョンを示さないことが漠然とした不安を生み、それが鉄道への執着を生んでいるようだ。その不安の根幹は止まらない少子高齢化に行き着いてしまう。結局「主語の大きな」問題に戻ってしまった。

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日本の鉄道は富国強兵策の柱だった。地域に産業を振興するために国家主導で整備されたからだ。一旦民間資本が中心となった「大私鉄時代」になるが、明治末期の1906年に鉄道国有法が施行されて再編成が進んだ。

これが一転して民営化されたのが「中曽根時代」だ。中曽根通産大臣は第二臨調を立ち上げ清貧で有名だった土光敏光氏らに国鉄民営化を提案させた。表面上は民間主導の改革だったがそれを演出したのは当時の政府だった。最終的に中曽根康弘は総理大臣になりJR・JT・NTTが生まれた。その中でも国鉄には長期債務が25.5兆円もあり清算には11年以上かかったそうだ。さらに当時の国鉄は労働組合が強く社会党の強力な基盤だった。ライバル政党の基盤潰しという目的もあったのではないかと考えられる。

中曽根政権は「国鉄が民営化されても地方は切り捨てない」と約束した。基金を積み経営の赤字を補填させたのだ。JR九州のように不動産投資などを推し進めたところもあったが、北海道、中国、四国は徐々に赤字路線をもてあますようになる。これが同じ頃に民営化された電電公社と異なるところである。電電公社は西と東に別れただけなので都市部の収益で地方のインフラを維持することができている。

現在赤字ローカル路線問題が特に深刻なのが北海道と四国だ。JR北海道は極寒期のメンテナンスコストに悩まされている。2022年3月期は全路線が赤字だったそうだ。また北海道新幹線も赤字であるためにそもそも地方路線を支える幹線がない状況だ。不動産開発も進めるがこの期は目標には届かなかった。JR四国にはそもそも新幹線がない。必要経費が捻出できないため運賃をあげるとさらに利用者が減るという悪循環である。

だがJR西日本のように関西圏と山陽新幹線のみに経営を集約したい会社もある。彼らにとってお荷物とみなされているのが中国地方の赤字路線である。これに続くことが予想されるのが東北地方を抱えるJR東日本である。近々赤字路線の発表に踏み切ることになっているようだ。JR西日本は先行して公表したため地元から反発された。JR東日本は「国土交通省の検討を待つ」と言っている。

地方自治体は国の支援で鉄道を維持したい。ところが国土交通省側は一貫して「赤字路線の整理は国とJR各社の課題ですよ」と主張して来た。中国新聞がJR赤字路線「地元の了解なければ廃線はできない」 国交省・鉄道局長が見解という記事を出している。2001年に出された大臣指針がその基準になっているそうだ。中国新聞としては「地元自治体さえ頑張ってくれればJR西日本も鉄道を維持せざるを得ないのではないか」と安心感を持ったのではないだろうか。

ところが選挙が終わった7月19日ごろになってから国土交通省は指針を変更した。これが、JR東日本が言っていた「近々出ると聞いている」と言われていた答申だ。事前に準備をしていたが選挙を待っていたのではないかというタイミングである。

「鉄道ローカル線の将来に関する国土交通省有識者検討会」に提言させる形をとり1キロあたりの輸送密度が1000人未満などの基準を満たした路線は「特定線区再構築協議会」(仮称)を作り、国主導でBRTなどへの転換を目指すとという方向で調整を始めたのだ。

結局、国も「地方切り捨てやむなし」に動いていたことわかる。少子高齢化は止められそうもない。一応やることはやりましたという体裁は保ちつつ「でもやはり仕方なかった」という形を作りたいのだろう。ただし選挙期間中はこれが争点化されることは避けたい。地方で鉄道廃止に反対している人もこれを知らないまま自民党に入れたという人が多かったのではないだろうか。

ただし事情はかなり切実だ。背景情報を日経新聞がまとめている。新型コロナ禍ではJR九州以外の全ての社が赤字だったためこれ以上踏みとどまれないという理由があるようだ。

唯一黒字を確保したJR九州の事例が参考になるのではないかと思ったのだが、どうやら保有している不動産物件をの不動産投資信託(REIT)に売却したのが黒字の最大の理由のようだ。過去の蓄積で黒字転換を達成した形になる。JR九州は基金をうまく利用し不動産開発を進めておりこれで何とかしのいだ形である。他社がこれを真似するのは難しそうだ。

そのJR九州も余裕があるうちに鉄道の財政基盤を改善させたい。そのために取り組んでいるのがBRT化である。豪雨災害に見舞われていた日田彦山線はもうすぐBRTに転換される。

バスになると地元の病院や学校にも寄れるようになり駅の数も増やすことができる。地域密着型の交通システムが作られればバス転換も必ずしも悪いことばかりではないのかもしれないと思える。おそらく成功事例になれば近隣自治体もBRTへの不安を払拭することができるだろう。

ところがこのBRT化はなかなかうまく進まない。日田彦山線でもBRT計画が出たときには「地方の衰退」と受け止められたようだ。鉄道を残したいが豪雨災害の復旧にお金がかかるために泣く泣く鉄道を諦めたという自治体がある。この記事を読むと「このまま地方は衰退して消えてしまうのでは?」という不安感が鉄道へのこだわりを生んでいるように思える。

Quoraでも聞いて見たが「地図に残るのがよい」とか「BRTになったからといって存続できる保証はない」といったかなりネガティブなコメントが並んだ。かつて「東京とつながっている」という誇りの源だった鉄道が取り上げられ「どこにでも走っていてすぐに廃止できそうなバス」に変わってしまうというのがBRT化が進まない要因のようだ。結局少子高齢化で地方が溶けつつある中で「あれもなくなった、これもなくなった」という状態になっており「ついに鉄道もか」という感覚に陥るのだろう。

結局は国が地方インフラをどう保証するかという総合的なビジョンを示すことができない限りこうした不安感は払拭できないということになる。何でもかんでも結局は国頼みなのかとは思うのだが、これが日本の実情である。さらに選挙期間中はネガティブなことは言わず後になって「有識者」に意見させるという方法も疑心暗鬼を生む。

国土交通省の今回の答申が最終的にどんな形になるかはわからないのだが地方からは「切り捨て反対」という声が出てくるのかもしれない。地域住民にとってレールは単なる鉄の塊ではなく地域の誇りなのである。ただ少子高齢化と地方溶融という現実は変わらないわけで、おそらく地域鉄道は解体の方向に動き始めたと言えるのだろう。

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