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アルゼンチンの経済危機の簡単なまとめ

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新興国経済の情報を集めているとあの国もこの国もデフォルト候補(ディストレス債状態だ)という記事が集まってくる。本来は詳細に分析すべきなのだが最初から全ての情報を集めると混乱しそうだなと思った。例えばスリランカが国家破綻しそうだというニュースの時は全体像を掴むのがとても大変だった記憶がある。

このエントリーではアルゼンチンの情報を集めるが今回はそれほど網羅的なものではない。「予習的下調べ」といった感じの内容になっている。アルゼンチンは他の新興国と様相が違っていて過剰なインフラ投資の影がない。どちらかというと没落型先進国といったほうが説明がつきやすい。

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アルゼンチンは南米ではブラジルに次いで大きな国で人口は4500万人程度だ。もともと北米への食肉生産地として生活水準が高かった。その後食料基地としての役割を失い没落先進国になった。つまり、構造改革ができなかった先進国がその後どうなるのかを予想する上でとても参考になる。

住民にはヨーロッパ系が多く治安はそれほど悪くない。さらに先進国だった経験があるため国民の知識レベルも悪くない。識字率や教育レベルは比較的高いようだ。だが、政府の財政状態が不安定で度々デフォルトを起こしている。2001年と2014年に債務不履行状態に陥った。

ネストル・キルチネル大統領は伝統政党であるペロン党(正義党とも)の中では比較的左寄りの政治姿勢を持っていた。ペロン党とは国民的英雄であるペロン大統領が中心となって生まれた政党であるため、思想的には様々な人たちが集まっている。日本で言えば自民党のようなモザイク型の政党だがアメリカとの同盟関係は前提になっていないため「反米」の大統領が出ることがある。

その後で妻が大統領になったあといったん市場主義的な「共和国の提案」が主導する政府ができた。マウリシオ・マクリ大統領は経済改革に失敗し国民も改革を支援しなかった。このためマクリ大統領は再選ができなかった。

その後、政権はペロン党に揺り戻して「反米左派」と言われるアルベルト・フェルナンデス政権が生まれている。自由主義的改革はもう嫌だ、かつてのように安定した国に戻りたいという気持ちが強かったのだろう。フェルナンデス大統領はネストル・キルチネル(夫)とクリスチナ・キルチネル(妻)の政権の官房長官だった。現在の副大統領はクリスチナ・キルチネル(妻)である。

フェルナンデス大統領はアルゼンチンはIMFと交渉して返済を猶予してもらっている。またパリクラブ(先進国の債権者会議)とも交渉して債務整理をやってきた。

ところが近年アルゼンチンは高いインフレに悩まされるようになった。これはどこの新興国でも見られるようになった動きである。日経新聞は「4月の消費者物価指数は前年同月比で58%上昇した。1992年1月(76%)以来の高い上昇率となった。50%を上回るのは11カ月連続となった。」と表現する。アルゼンチン政府は利上げを繰り返してインフレ対応を行なっているが経済混乱は今もおさまっておらず「先月の消費者物価指数が前の年の同じ月に比べて60%以上上昇し」たため困窮した市民がデモを行っている。

改革にも失敗したがかつての栄光が戻ってくるわけでもない。こうして破綻はしないものの生活はじわじわと苦しくなり続けている。数字だけを見てもインフレ下の生活を想像するのは難しのだがとにかく安定して暮らしを立てるのは大変そうだ。貯金をしてもみるみるうちに価値が下がってゆくという大変な経済状態である。

だが、混乱しているのは国民経済だけではない。政権の内部で亀裂が生じているようだ。NHKの記事の中に「経済大臣が辞任に追い込まれた」という一節がある。市民に反発されたのだろうと思ったのだがどうも状況が違うようである。

グスマン経済大臣は債権整理に奔走したもののTwitterに長文の辞任文を書いて辞任を表明した。党内に影響力を持つクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領と折り合いが悪かったようだ。どうやらクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領はグスマン氏の交渉に不満があったようだ。代わりに経済大臣に指名されたのは副大統領に近いとされるシルビナ・バタキス氏だったそうだ。

この関係性はイタリアの首相と議会の関係に似ている。イタリアではEUとの支援交渉役だったドラギ首相が身内から離反された。支援する側のEUやIMFは厳しい改革を要求するのだが、それに耐えられない人たちから離反される可能性がある。結果として議会とポピュリズム政党が期待するように優位な条件が得られればいいのだがイタリアの場合は「自業自得」と呼ばれるような状態に陥りつつある。

どうやらアルゼンチンの政界はかなり縁故主義的な色彩が強く「変わりたくない」という気持ちも強いようである。こうした縁故主義的な国において「経済大臣」という地位で国民に改革を求めるのはなかなか大変なのだろうなということはわかる。さらにいえば現在の政権が過去の政権の前例を打破し思い切った構造改革を断行することもできそうにない。

アルゼンチンには中国の影はない。エジプトやスリランカのように「インフラをガンガン作って豊かな国になろう」というような幻想を持たないからだろう。どちらかというとかつての成功例に閉じこもったまま構造改革ができなかった国の末路というような印象がある。

いずれにせよ、アルゼンチンの場合足元のインフレは解消せず、支援者であるIMFとの関係が悪化し、2023年に予定されているという大統領選挙で政権が変わればさらに状況が混乱する可能性がある。つまり国家デフォルトに陥らないまでも経済がダラダラと混乱する可能性がある。没落型先進国の未来といった感じだ。

そんな中、国民が期待を寄せているのが仮想通貨なのだそうだ。仮想通貨も大幅に価値を下げておりエルサルバドルのように混乱している国もある。通貨防衛のため米ドルとの交換を制限したこともあり仮想通貨が逃避先になっているようである。ロイターのこの記事は「基本的にその方が失うものが少ないから」という利用者の投げやりな声を伝えている。

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