ざっくり解説 時々深掘り

最強級の感染力を持つ新しいコロナウイルス「ケンタウロス」が日本国内で確認される

カテゴリー:

新型コロナウイルスのニュースを見ていてよくわからない言葉がある。最初は武漢株などと割れていたがこれは差別的であるという理由で途中からギリシャ文字が使われるようになった。現在流行しているのはオミクロン株だ。ところが今度はBA.2とかBA.5などという名前が出てきた。例えば「BA.5に置き換わった」などと言われると、なんだオミクロン株がBA.5に置き換わったのかなどと誤認してニュースがよくわからなくなる。

さらに韓国で「ケンタウロス」と呼ばれる変種が登場し「最強級の感染力を持っている」などと報道されはじめた。日本では最近確認されたばかりなのでまだどういう名前で報道流通するのかはわからないが、あるいは「ケンタウロスの脅威」という言葉がニュースで聞かれることになるのかもしれない。

政府はこの辺りをきちんと整理して情報発信に努めるべきだろう。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






まずギリシャ文字から解説する。

もともとコロナウイルスの株は最初に発見された都市名がついていた。ところがアメリカ合衆国が中国を非難するために使ったことからWHOが都市名の利用を認めないことにした。朝日新聞によると英国、南アフリカ、ブラジル、インドの各地で見つかった変異株が、それぞれ「アルファ」「ベータ」「ガンマ」「デルタ」となったそうだ。

ところがオミクロン株といっても変異は複数ある。その中の一つがBA.2やBA.5である。つまりBA.2やBA.5はオミクロン株の一つだ。ニュースで「現在の新型コロナワクチンはオミクロン株には効かない」という表現が出てくるが、当然その中にはBA.2やBA.5が含まれる。当初複製に使ったウイルスとは形が違ってきているため結びつく力は弱くなるため感染予防効果が落ちるそうである。

朝日新聞が別の記事でまとめている。

  • オミクロン株は、昨年11月にボツワナと南アフリカで初めて報告された変異株で「BA.1」と呼ばれる系統の仲間
  • 2022年に入り、変異の起きた場所が少し異なるオミクロン株BA.2が世界的に主流に
  • その前月に、同じく南アフリカからBA.4が報告された
  • BA.5は、2022年2月に南アフリカ共和国から初めて報告され、国内では5月に空港の検疫で初めて見つかった

この朝日新聞の記事を読む、ある一つの株の流行だけで終わればピークが来てもそのうちに収まる。だが同時に二つの株が入ってくると山が二つ重なるため収束までの期間が長引くのだという。第6波が長引きかつ山が完全になくならないのは二つの株が同時に流行したからだと朝日新聞は書いている。

4月のNHKの記事を読むとXEという別の株について説明されている。普通変異種はどんどん枝分かれしてゆくのだが、人の体で合体することがある。これをXEというそうである。オミクロン株の近縁の中で交わっているようだ。

  • 「XE」は複数のウイルスが組み合わさってできたタイプ
    • ウイルスの表面にあり、人の細胞に感染する際の足がかりとなるスパイクたんぱく質を含むほとんどの部分がBA.2
    • ほかの部分がBA.1

今回の第七波を引き起こしているのがBA.5だ。感染力の高さで知られるが特に重症化するという報告はされていない。政府の対策が感染予防ではなくリスクを持った人たちの対策を優先しているのはこのためだ。

ところが、また別の株が入ってきている。それがBA.2.75である。インドで6月ごろに発見された。国立感染症研究所が解説記事を出しているが、これは素人にはよくわからない。現在インドで確認されたのみだが別のところにも広がっている可能性があると書かれている。

このBA.2.75にはケンタウロスという恐ろしげな別名がついている。オーストラリアのABCによるとこれはTwitterでつけられた名前だったのだが、恐ろしげでキャッチーだったため瞬く間に広がったようだ。ツイートの発信日は7月2日でABCはこの人はウイルス学者ではない単なるTwitterユーザーだったと説明している。ウイルスだけでなくその名前も「バイラル」で伝わったということだ。

これはウイルス学的な正式な名称でもなく「わかりやすいギリシャ文字の名前」でもない。更に言えばウイルスの専門家がつけた名前ではなかったため、日本の媒体でこの呼び名でBA.2.75を呼ぶことはなかった。最初にこれをに保護で伝えたのは韓国のメディアの日本語翻訳記事だった。ハンギョレの記事に「最強級の感染力…コロナ「ケンタウロス」の感染者を韓国で初確認」というタイトルがついており、次のようにまとまっていた。

  • BA.2.75は5月26日にインドで初めて発見された。
  • それ以降、現在までに米国、カナダ、ドイツ、オーストラリア、英国を含む10カ国で計119件の感染が確認されている。
  • 米アーカンソー州立大学の研究によるとこの3カ月間のインドにおけるBA.2.75の拡散速度はBA.5の3.24倍
  • BA.5は変異発生前の新型コロナウイルスに比べて感染力が5倍以上であることが知られる

つまり、そもそも感染力が強いとされるBA.5よりも感染力が強いというのだ。

日本語ではアサゲーの「「感染力60倍」がついに日本流入!第7波どころじゃない新変異株「ケンタウロス」がヤバすぎる」という記事が見つかる。感染力(正確には実効再生産数)の強さを強調しているが、ケンタウロスという名前がどこでつけられたのかは書かれていないようだ。

アサゲーの記事は感染力の高さにのみ注目しているのだが、ハンギョレは名前の由来について詳しく解説している。半獣半神のケンタウロスと呼ばれるのは突然変異が多いためワクチンや感染によって獲得された免疫を突破する能力が高いからなのだそうだ。一方で毒性についてはよくわかっていない。つまり、感染力が高い割には毒性は高くない可能性もあるし、逆の可能性もある。

ところがBA.2.75が日本に上陸する頃から「BA2.75とはなんだ?」ということがネットで噂になり始めた。最初に見つかったのは神戸、大阪だったのだが、すぐに東京でも確認されている。ただしこの時点では日本ではBA.2.75とのみ呼称されている。地上波ではTBSがケンタウロスと呼ばれる変種が出たようだということを伝えていた。

神戸の感染例は海外渡航歴がないところから市中感染が始まっているものとみられている。神戸で感染が確認されてからすぐに東京で見つかったところから広がるのは時間の問題であろうと考えられる。だが、報道を見るとわかるのだが名前が伝えられるだけでその株がどういう特質を持っているのかということは語られない。マスコミは政府が情報を整理してくれるのを待っているのである。

まとめると次のようなことが言える。

  • 今まで通りの感染者数の発表だけを見ていても実際のインパクトがわからなくなる可能性がある。感染力が爆発的に高まっているからだ。「ケンタウロス」が流行すると、今までの対応・対策では感染突破されてしまう可能性がある。
  • とはいえ毒性はよくわかっていない。感染者数の割には大したことはないかもしれないが、逆に「去年と同じように流行して消え去るだろう」という油断をしていると流行がなかなかおさまらず医療機関に人災と呼べるようなインパクトを引き起こす可能性がある。
  • BA.2やBA.5などというわかりにくい名前が飛び交っているためニュースを見ていてもよくわからない。例えばBA.2やBA.5はオミクロン株の一変種でありケンタウロスはBA.2.75についた別名だ。不安を払拭するためには、今のうちにニュースに出てくる専門用語などを整理しておくべきだろう。
  • 逆に「よくわからないからもういいや」と諦めてしまうのも危険だ。とにかくよくわかっていないのだから今後の情報に注目すべきだろう。
  • 政府は医療機関を保護し「自己責任によるコロナ対策」を求めているのだから、少なくとも整理された情報を提供するべきである。BA.5とBA.2.75(ケンタウロス)の流行が同時に起こればおそらくは流行期間が長引くことが予想され感染者数も増えるかもしれないからだ。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です