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ドラギ連立政権が崩壊し、次はファシスト党の流れも汲む政党も参加する右派政権へ

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イタリアでドラギ政権が崩壊した。ドラギ首相の掲げる政策に左派系の五つ星運動が乗らなかったことがきっかけになっているのだが早期選挙を求める右派も同調した。結局ドラギ首相は大統領に再び辞表を提出した。大統領は当面の間ドラギ首相に暫定内閣を率いるように要請したが9月か10月ごろに選挙があるのではないかというのが大方の予測である。Bloombergは9月25日という日付を書いている。

このニュースを追ってゆくとイタリアで右派連合が誕生する可能性があるという結論になるようだが、支持率が最も高いのは「イタリアの同胞」という政党でこの政党から首相が出る可能性もある。イタリアの同胞の源流の一つは民族主義が極めて強いファシスト党だ。

当座、イタリアの市場とユーロ圏の国債はかなり不安定な動きを見せるだろう。ロイターはイタリアは高い借り入れコストと低成長に直面しそうだと予測している。

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このニュースは単発的な記事が多く外から見ると「何だかよくわからない」という印象である。今回は次の資料を読んだのだが一つ一つ文章中で紹介すると混乱しそうなためまず参考文献リストを提示しておく。中でも驚くべきなのは2022/7/21の急展開ぶりだ。すでに状況が整っており、破局に向けて突き進んでゆく様子がわかる。つまり政権交代は時間の問題だったわけだ。



どこから始めればいいのかはよくわからないが、今回は五つ星運動がウクライナ情勢を巡り分裂したところまで遡った。五つ星運動は「左派ポピュリズム」ということになっているのだが実際はネット型のポピュリスト政党だ。つまりネットで集めた政策をそのまま実現しますよというのが売りになっている。ところが連立政権に参加したことで自分たちの政策が通らなくなってきており有権者に離反されたようだ。

表面上はウクライナ情勢をめぐる対応に違いがあったことになっているが、おそらく背景にあったのは五つ星運動の焦りだろう。この時期に地方選挙で躍進したのが「イタリアの同盟」を含む右派だった。イタリアの同盟の源流の一つはファシスト党だ。つまり、左派が退潮し排外主義的な右派ポピュリズムが台頭しているという図式である。

今回のニュースを調べてもドラギ首相の経済政策の内容は全く伝わってこない。ロイターのコラムによると、ドラギ首相は具体策を提示したわけではなく、改革の必要性を訴えただけだったようだ。ところが総選挙を前に浮き足立っている各政党はドラギ首相に追随しなかった。現在イタリアは「国内総生産(GDP)対比150%前後の公的債務」を抱えているそうだが、これを抑制するとEU参加各国に説得するのは難しそうなのだという。

今回ボイコットした政党のボイコット理由は異なっている。五つ星運動はドラギ首相のいうことをおとなしく聞いていたのでは政党が存続できないと考えている。ところが右派政党側は今選挙をやればもっと勝てるという状態にある。またドラギ首相には自身の政党を作るつもりはないようだ。

市長たちはドラギ首相の続投を求めており署名運動を展開していた。ここから間接的に右派政権には期待していないのだろうということがわかる。おそらくこれはマッタレラ大統領も同じことだろう。

マッタレラ大統領には二つの選択肢があった。今までの枠組みで非政治家を中心にしたテクノクラート(つまり政治家ではない)の首相を立てるという選択肢と総選挙を行うという選択肢である。結局、テクノクラートの首相を新しく探してくるという選択をしなかったところからおそらく総選挙をやるのだろうという予測になっている。

現在躍進が予想されているのが保守の連合である。ロイターが調査結果を紹介しているように右派が2008年以来初の圧勝になる可能性が高いそうだ。この保守の連合を構成するのが同盟(サルビーニ氏が率いる)、フォルツァイタリア(ベルルスコーニ氏が率いる)、イタリアの同胞(メローニ氏が率いる)だ。この中ではイタリアの同胞への支持率が最も高い。このため、ジョルジャ・メローニ党首が首相になる可能性がある。

「イタリアの同胞」が全てファシスト党の流れを汲んでいるわけではない。中道右派・右派からファシスト党の流れをくむ民族主義者も参加しているのだという。イタリアの同胞について書いているFinancial Timesは「ネオファシストの流れを汲む」と表現している。2018年総選挙の時にの支持率は4.8%だったそうだが現在は22%だ。これはフォルツァイタリア、同盟を合わせた支持率よりも高いのだという。

BBCによるとイタリアの同胞は連立政権には参加していないのだという。このため盛んに総選挙の早期実施を求めてきた。仮にこれが高い支持の理由だとするとイタリアの選挙はかなり荒れるだろうと予想できる。有権者が「自分たちのためになる」もっと過激な救済策を望んでいることになるからである。

Financial Timesはメローニ氏は極端な反EUではないと書いている。近年EUは新型コロナの復興基金を作りイタリアもその保護対象になっているからである。逆に言えばEUからの援助を引き出すために期待されたドラギ首相は右派から見ると「もう用済み」ということになるのかもしれない。

その約束の背景には緊縮財政があったわけだが「引き出せるものさえ引き出せれば後はどうにでもなる」ということなのかもしれない。ただしロイターはそうは思っていないようである。

ECBのラガルド総裁は、利上げに際し弱い加盟国の借り入れコストを抑制するための新たな債券買い入れ計画に、イタリアを含めることが難しくなる。改革姿勢の政府を欠いたイタリアは最終的に、6720億ユーロ(約94兆7500億円)のコロナ復興基金からの支出を受ける資格を失う恐れがある。

ロイターはイタリアは低成長と借り入れコストの増大に直面するだろうが「自業自得」だとまとめている。

サルビーニ・ベルルスコーニ・メローニ各党首はそれぞれ強烈なキャラクターで知られているため新しい政権ができたとしてもそれが安定するかどうかはよくわからない。特にサルビーニ氏とメローニ氏の関係は必ずしも良好ではないため政権ができた瞬間に党内で主導権争いが起こる可能性も高い。ロイターは年内の予算編成は望めないだろうとも書いている。

イタリア経済だけでなくヨーロッパ経済の先行き不透明感はかなり増したといえそうだ。

ロイターは下院の定数は400であり上院の定数は200と書かれている。下院の現在の定数は640だが「イタリア版身を切る改革」の影響で次の選挙では議席を失う議員が大量に出てくることになる。さらにこの厳しい選挙を勝ち抜いて右派政権が誕生したとしてもその後の経済的な見通しは明るくなさそうだ。

Bloombergは選挙は9月25日に前倒しされるのではないかと書いている。

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