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ロシアとイランの「嫌われ者連合」がトルコを交えて三者会談

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プーチン大統領がテヘランでトルコ・イランの指導者と会合を持った。アスタナフォーマット・アスタナプロセスというシリア情勢を話し合う枠組みを利用して国際社会に対して結束をアピールしたのだ。NHKもこの会合について詳しい記事を書いている。なんとなく日独伊三国同盟のような印象を持つ。つまり負けている側の同盟であり長続きはしなさそうである。そもそもトルコが本当に「あっち側」に言ってしまうのかを含めて枠組みの持続可能性について考えて見ることにした

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ロシアとイランが結びつき、経済制裁は昔のようには作用しないくなるだろう

第一にアメリカを中心とする経済制裁は昔のようには作用しないだろうということはわかる。ロシアとイランはどちらもエネルギー産出国である。ロシアは小麦の生産も盛んなため自給自足が可能な経済だ。つまり、西側が経済圏を切り離しても持続的に発展することは可能なのだ。

この二つの国は古くからライバル関係にある。このためこの二カ国が積極的な協力関係を取り結ぶことはあまりなかった。これを変えたのがアメリカの制裁である。

イランは古くからアメリカ合衆国との関係が悪く経済制裁を受けていた。大統領選挙の争点は対米強行路線を継続するかあるいは緩和するかという点にあったが、対米強硬派が8年ぶりに勝利した。読売新聞はこの新しい政権に批判的な論調の社説を書いている。白票が多かったことから国民は疲れているのだろうと批判しているのだが、これは香港の中国支配に対する批判に似ている。

今回この「嫌われ者クラブ」にロシアが加わった。イランとロシアは防衛面での協力も強めており、「孤立させて封じ込める」という従来の手法が取りにくくなっている。制裁には効果がないからやめるべきだと考える人が出てくるのはおそらくこのためだろう。

イランの核開発が進んでしまう恐れも

バイデン大統領は今回のイスラエル・アラブ諸国歴訪の中でイランが核兵器を開発すれば武力攻撃も辞さないとの決意を新たにした。ところがイランはロシア製の防衛システムを導入している。同盟関係にはないので相互防衛の義務などはないようだが武器の供与を通じてイランの核開発を助けているという関係である。

イランは核兵器開発は進捗していると表明している。まだまだ実用のレベルには到達していないのだが核兵器が実現するのも時間の問題なのかもしれない。

現在、日本の防衛戦略は「核兵器を大量に持っているアメリカについていれば大丈夫だ」という認識が基本になっている。だが世界の核兵器非保有国はこれが長続きしないだろうことを予想しているようで、核兵器の非合法化に向けて歩みだした。現実的には北朝鮮も核兵器開発に成功しイランもまたそのステップを前進させている。つまり大国が核兵器を独占的に管理する時代は終わりを迎えつつある。

アメリカがそれを止めるための有効な手立てはない。バイデン大統領は「イランが核兵器開発をすれば軍事力も行使する」と言っているが、少なくとも北朝鮮に対してアメリカがそのような対処をすることはなかった。

トルコの躍進と危険性

今回の危機を最もうまく活用したのはトルコだろう。トルコは対ロシア政策のためにNATOに組み込まれたという過去がある。一方で、ヨーロッパ(EU)からは阻害されている。このためロシアとNHKが「全方位外交」と表現する是々非々の関係を築いている。

今回はNATOの北欧2カ国の加盟に反対しており「足並みを乱している」のだが、同時にウクライナからの食糧輸出などでロシアと話し合いを行う必要があり重要な窓口になっている。結局トルコは「実質的に貿易は許可するが最終合意は結ばない」という独特のスタンスでの決着を試みている。関係性を保つことでいつでも事態に介入できるようにしているのだろう。

これはNATOの北欧加盟問題でも取られている手法だ。プーチン大統領もトルコが完全にNATO陣営に行ってしまうのを防ぐために「前進があった」と応じて見せなければならなかった。AFPが掲載した写真のプーチン大統領の笑顔は張り付いているがエルドアン大統領はカメラを見据えた満足げな表情を浮かべていた。おそらくエルドアン大統領はNATOに対しても同じようなことをやるのではないかと思った。つまりNATOの国内の承認プロセスをできるだけ遅らせればいいのだ。

エルドアン大統領は足元にインフレ不安を抱えている。野党からの批判も増しているようなのでこのままエルドアン政権が継続するかは微妙な情勢だ。このエルドアン大統領が国内支持回復のために熱心に取り組んでいるのがクルド人対策である。今回もイラクを攻撃しイラクの観光客9名が犠牲になった。

今回はイランとロシアがNATO加盟国であるトルコを巻き込む形で国際協調をアピールして見せた。ところが仮にエルドアン大統領が暴走を始めるとそれに巻き込まれる形で西側との対立が先鋭化する可能性がある。逆にトルコで野党政権が誕生すればこの三国の枠組みの見直しとヨーロッパへの接近という可能性がある。つまり、今回の協力関係が持続するかの鍵は実はトルコ国民が握っているのだろうと思う。

仲良しクラブではない独特の関係性

トルコとロシアはシリア情勢をめぐっては敵対関係にある。とはいえ関係を断続させることはない。お互いに信頼もしないがかといって完全に断続してしまうことはないという独特の関係だ。毎日新聞はロシアとイランがトルコを自陣営に取り込みたいのだと書いているのだがロシアにとっての自陣営とは旧ソ連圏・旧ロシア帝国支配下の各国である。トルコは自陣営ではない。

いずれにせよ彼らはヨーロッパがやっているようにお互いに協力すれば大きな発言権を得られるというところまでは気がついた。バイデン大統領を見ればわかるようにこれは長年「西側」が成功させてきたアプローチだ。このまま経済協力の枠組みを作ることができれば持続的な同盟関係を作ることができるのかもしれないと思う。

ところがこの三ヶ国は独特の弱みも抱えている。イランはアラブ圏に広がるスンニ派と対抗するために地域のシーア派を動かして攻撃を加えている。中には支援していた勢力が制御不能になった地域もある。ロシアはウクライナに侵攻したが主権国家へのあからさまな挑戦でありこれが正当化される可能性は限りなく低い。またトルコもクルド人の問題を抱える。

このように身内と敵を二分する感性のもとでビジネスを継続的に発展させることは難しいだろう。特にロシアに報復制裁された国際企業が戻ってくることはもうないはずだ。

そう考えると西側の経済圏に太刀打ちできるような独立した経済圏が作られる可能性はあまり高くなさそうだ。西側はエネルギー調達で困難に直面しているが今が踏ん張りどきと言えるのかもしれない。

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