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CNNが「バイデン大統領は崖っぷちだがトランプ氏相手なら勝てるかもしれない」と次期大統領選挙を分析

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CNNは民主党寄りのメディアとして知られる。そのCNNがバイデン大統領は中間選挙に勝てずそのまま瀕死の状態になってしまうかもしれないという予測を出している。皮肉なことにそのCNNが望みを託している人物がいる。それがトランプ前大統領だ。「トランプ氏はうんざりだという人がバイデン大統領に投票してくれるかもしれないと」言っているのである。このエントリーでは、CNNのスティーブン・コリンソン記者の記事を読む。

予測というよりは絶望と希望が入り混じった複雑な心境を吐露したような内容に思える。

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ただし、この記事を読んでもコリンソン記者がトランプ氏の立候補を望んでいるとは思えない。彼らが本当に望むのは「自分たちを満足させてくれる新しい世代の候補者」なのだろう。記事は、トランプ大統領(4年)とバイデン大統領(これまでの2年とこれからの2年)を合わせて高齢の大統領が権力にしがみついているせいで国が分裂していると考えているようだ。

これはイギリスの現在の状況と比べると皮肉な対比である。オバマ大統領という若いリーダーのもとで希望に燃えていたアメリカは過去のものになった。イギリスでは女性や非白人系の若いリーダーが次期首相戦でそれぞれ論陣を張っているが、アメリカでは頑固な高齢者二人が権力にしがみついている。

この高齢の二人の権力欲には凄まじいものがあり「引きずり下ろすのは難しそうだ」と記事は分析している。バイデン大統領は自尊心が極めて高くトランプ大統領は闘争に燃えるタイプだ。下院特別委員会ではトランプ大統領と議会襲撃に関する調査が進んでいるがこれさえもトランプ氏にとっては「お楽しみ」の一つのようだ。こうした、権力闘争の権化のような人たちに身内から戦いを挑めばそれは裏目にでる可能性が高い。

例えばバイデン大統領が自発的にレースを降りなかった場合、民主党は内部で混乱する可能性がある。「バイデン対その他」という対立軸ができてしまうからだ。共和党に勝つためには民主党が一丸となって新しいリーダーの元で結束するシナリオが必要で、そのためにはバイデン大統領は民主党候補者たちにとっても邪魔な存在になりつつある。

中間選挙でバイデン大統領が負ければ「世代交代を求める声は増すだろう」と言っている。CNNがそういうということはおそらくそういう論陣を張るのだろう。

一方で、CNNが本気でトランプ候補を望んでいるとは思えない。現在も議会襲撃事件についての調査が続いているのだが、CNNではトランプ大統領はその台風の目として描かれている。だが、民主党が反バイデンで分裂すればそれは共和党の利益になってしまうという声が民主党党内の主流なのだという。

CNNの結論は絶望的なように感じられた。

バイデン大統領は声を上げない静かな穏健派の人たちの期待によって押し上げられた大統領だがこの2年全く成果を上げることができていない。唯一の望みはトランプ氏が共和党側の候補者になるというシナリオだ。こうなれば少なくとも反トランプの民主党員は結束してバイデン大統領を支えるのではないか。

CNNの別の記事によるとトランプ氏は「いつ出馬表明をするか」ということが焦点になっており「出ないかもしれない」という選択肢はもうないそうだ。とにかく目の前に敵がいると燃えるタイプなので若い世代の候補者が太刀打ちできるような相手ではないのかもしれない。出馬表明をしていない段階から「泡沫候補は今のうちに出馬を辞退しろ」と警告しているそうだ。有力候補者として話題の中心にいられることそのものがトランプ氏の望みであり、容易にこれに打ち勝てそうな人はなかなか出ないのではないかと思う。リアリティショーのタレントとしてトランプ氏に勝てる人はいないということだ。

こうしたアメリカ政治の混乱は世界経済にも大きな影響を与えている。現在金融市場が注目するのはFOMCの次の利上げの率を当てるゲームだ。1ポイント(100bp)利上げがない方に賭けたトレーダーは巨額の利益を得たそうだが、これはギャンブルであって厳密には投資ではない。トレーダーの利益は1440万ドル(約19億8800万円)だったとのことである。

また、ドルが強い環境が定着すると新興国から資金が流出する。日本を除くアジア株は20%下落した。ここからさらに中国(中国は新興国とみなされているようだ)を除くアジアからは「今年はこれまでに710億ドル(約9兆8400億円)と、既に2021年の2倍の流出額だ」とBloombergは書いている。

ここにスリランカのような通貨安による外貨準備流出も加わるためアメリカが風邪をひいたらアジアは肺炎で死亡ということになりかねない。

さらに、いったんドル高が収益を上げるのに便利だとなるとその傾向は自律的に維持されるというようなこともあるかもしれない。トレンドに抗うよりもそれに乗って利益を上げたい、あるいは資産防衛をしたいというのが投資家心理だからだ。つまり、ボルカーショックが終わってもドル高が止まらなかったという事態が再現される可能性もあるのかもしれない。

FRBパウエル議長の「ボルカーショック以来」と言われる金融政策は明らかにバイデン政権の経済政策の失敗に原因がある。だが、新興国がバタバタと倒れドル高が維持された時に「どうしてくれる」とアメリカに訴えても「中間選挙で負けたので何もできない」か「そもそも政権が変わってしまったため責任が取れない」ということになるのかもしれない。

そう考えると「高齢者二人が権力にしがみついているアメリカはかわいそうだなあ」とばかり言っていられない。と同時に経済的には世界の中心であるアメリカの影響力の大きさも思い知らされる。日本人に大統領選挙の投票権はないがアメリカの政治事情は日本にも極めて大きな影響を与える。日本はただその結論を受け入れるしかない。

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