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イギリスの次期首相選びの争点は大胆な減税の有無だが現在は現実派のスナク氏が一歩リード

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ジョンソン首相が退任を決め次期の首相選びが始まっている。現在の次期首相候補はインド系のスナク氏なのだが「インフレ対策」を優先し「減税は今は考えない」という現実派だ。減税を優先しない姿勢についての批判は出ているが第一回目第二回目の投票で一歩リードしているようだ。

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リシ・スナク氏はジョンソン首相のもとで財務大臣を経験した。パーティーゲートではジョンソン首相の誕生日に出席し罰金を支払っている。また夫人にも脱税疑惑があり「キャリアはここまでかもしれない」などと言われていたそうだ。ジョンソン首相の説明責任に異議を唱えて財務大臣を辞任したことが転機になった。結果的にスナク氏に追随する人が相次いだことでジョンソン首相の辞任に貢献した形になると同時に「泥舟を逃げ出すこと」に成功した。

スナク氏について興味深いのは彼が唯一の「減税至上主義論者」ではない点にある。この点が特異なため当然「反スナク陣営」が形成されることが予想される。

イギリスの次期党首選びには当初11名の候補者が出たのだがほとんどが減税派だった。スナク氏はBBCが「一方スーナク前財務相は、財政が改善するまでは減税の見通しはないとの立場を示している」と書く通り唯一の例外だ。

攻撃材料になるのはスナク財務大臣時代に実施した増税政策だ。スナク氏も「減税しない」とは言っていないのだが、まずはインフレ対策を重点的にやり「私は党首選に勝つために減税するのではなく、減税するために勝つ」とイギリスらしい持って回った表現で優先順位をつけた。

現在第二位のトラス外相は減税推進派だが「財源が不明確だ」としてスナク氏に批判されている。また、ザハウィ現財務大臣も、あらゆる選択肢を検討すると意欲を表明していた。ザハウィ氏はあらゆる選択肢は排除しないとして法人税減税などの可能性も排除しないという立場だった。だが結果的にザハウィ氏が首相選びの決選投票に残ることはなかった。もちろんザハウィ財務大臣に期待してジョンソン首相の続投を求める声も出なかった。

普通に国民投票をやればおそらく「減税派」が勝つのではないかと思う。だが、まずか国会議員同士で議論をして候補者を二人に絞り込み保守党の党員が最終的な新党首を選ぶという選挙なので必ずしもポピュリスト的な人気がある人が選ばれるわけではない。イギリス人が本質的に慎重であるということがわかる。また、ジョンソン首相の政治姿勢にうんざりしている人たちが「最も変わって見える」若いスナク氏に期待しているようすもうかがえる。

選挙の顔・党の顔として清新な表紙は求めるもののあまり政策の大胆な変更を好まないという点は日本に似ているのかもしれない。日本では首相公選制を訴える人もいるが、責任政党制では「消費税を今すぐ廃止する」というような極端な提案が出てくることはない。ただし「党の顔が変わったな」というイメージの刷新は極めて重要である。菅元総理の時には「もともと官房長官だったのであまり代わり映えがしないなあ」といううんざり感もあった。本質ではないはずだが重要な点だ。

ただし保守党があまり大きな変化を打ち出さずに済むのは保守党がかろうじて政権を守っているからなのだろう。前回の選挙は2019年だったがボリス・ジョンソン氏がブレグジットを掲げて総選挙に勝ったという経緯がある。前任者のメイ首相はブレグジットについて「保守党をまとめられない」として辞任している。徒党を組むタイプではなく党内で難しい判断を迫られ孤立していったそうだ。

仮に保守党が今にも負けるかもしれないという状態なら「とにかく減税を訴えて有権者の支持を得なければならない」となっている可能性はある。

この状態になっているのがイタリアだ。イタリアでは伝統政党が崩壊しており政権を支える政党が庶民が望むような減税を政府に要求する。ただし彼らはその財源を見つけることはできない。イタリアは財政規律が厳しいEUと話をしなければならないのだが五つ星運動にはその能力はない。そこで担ぎ出されたのがドラギ首相だがドラギ首相と議会は現在対立関係にあり大統領が調停に腐心している。

ブレグジットではかなり大胆な意思決定をしたイギリスだが、かろうじて保守党が政権を維持しているため普段の政策決定においては財政健全化を念頭においたかなり慎重な意思決定がされていることがわかる。

ただし「現実派」がスナク氏しかいないことも確かだ。この後に多くの候補が脱落しトラス外相に乗るようなことが起こればあるいは「減税派」が勝つのかもしれない。議論はしばらく続き、最終的に新しい首相が決まるのは9月の初旬になりそうだ。

スナク氏はウクライナ情勢についてはあまり言及していないそうだ。この点がウクライナについて積極的に情報発信してきたジョンソン首相やトラス外相とは異なっている。イギリスが世界の中の強いイギリスを目指すのか、あるいは自分たちの暮らしを優先するのかという点にも注目が集まる。また、ウクライナ擁護派からイギリスが脱落してしまうと、積極派はアメリカだけということになるのだが、アメリカはアメリカで中間選挙を控えている。

スナク氏がウクライナ情勢や東アジアにおける中国の存在などについてどのような意見を持っているのかはあまり伝わってこない。イギリスで新しい首相が誰になるかはおそらく我が国の安全保障政策にも少なからぬ影響を与えるものと思われる。

ちなみに現在2位のモーダント氏はビルマ猫を4匹飼っているそうだ。首相官邸にはすでにラリーという猫がおりネズミ捕りの重責を担っている。仮にモーダント氏が首相になればラリーはこの猫たちと同居を迫られる可能性がある。AFPはこれを「ラリーが政局の巻き添えに」として記事にしている。

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