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バイデン大統領がイランへの武力攻撃の可能性を示唆、ただし最終手段として……

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ロイターが「バイデン米大統領は、イランの核兵器保有を阻止するための「最後の手段」として武力を行使する考えを示した。」と伝えている。「ああまたか」と感じた。もちろん明日戦争が始まるというわけではないのだが外交にはよくない影響が出るのかもしれない。

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「明日戦争になるわけではない」とは言っても根拠がわからなければ不安になるだけだと思うので、順を追って説明する。

  1. 中間選挙で行き詰まるバイデン大統領は中間選挙で勝たなければならない。そのため、イスラエルとの良好な関係をアピールし国内のユダヤ系の支持を集めようとしている。
  2. イスラエルは連立政権が崩壊し選挙を控えている。このためアメリカの強い後ろ盾を国内にアピールしたい。
  3. ただしイスラエル和平の枠組みはすでにトランプ前大統領が作っておりバイデン大統領には役割が残っていない。バイデン大統領がトランプ大統領の作った枠組みに沿って行動することはCNNも報道せざるを得なかった。
  4. そこで両国は「イランの核保有は絶対に許さない」という宣言に「エルサレム宣言」という名前をつけて発表した。
  5. ところがイスラエル政府は「言葉や外交だけでは無意味だ」と憂慮している。さらなる保証を求めたのだ。しかし大統領は公式にこの懸念に答えることはできない。
  6. そこでテレビ局のインタビューに答える形で「最終的に武力を使いますよ、あくまでも最終手段ですけど」と発言し、メディアに切り取られたのである。

バイデン大統領は台湾海峡問題でも同じような発言をしている。あとで追求された時「大統領の個人的思いである」とホワイトハウス高官に打ち消させることができるからである。最初のうちは「大統領の本心が見えないことが抑止力になるのではないか」とも考えられていたのだが、最近では「ああ例のあの手法なのか」とみなされかねない。

今回の武力行使発言をイランが真に受けるかどうかはわからない。だが「最初から武力行使を念頭にしているのだったら交渉しない」という言い訳に利用されることは十分に考えられる。経済制裁被害者クラブのようなものもでき始めており「バイデン大統領とアメリカこそが状況をエスカレートさせている」と主張したい国々にとっては格好の「証拠」になってしまうだろう。

さらに、バイデン大統領が武力行使をほのめかしつつ実際の場面で躊躇することになれば「やはりバイデン大統領は強気に出られない」というサインに受け取られてしまうだろう。NATO加盟国が直接攻撃されない限りアメリカは踏み込まないという「過去の最終手段発言」は具体的なレッドラインの設定とみなされた。これが、プーチン大統領がウクライナを攻撃する際の判断材料になったことを考えると武力行使に対する言及は慎重でなければならないだろう。

最後の懸念はイスラエルの国内事情に与える影響だ。イスラエル側も今回の「保証」を通じて「バイデン大統領は国内のユダヤ系に配慮してこの地域に強いコミットメントを約束せざるを得ないのだろう」と感じただろう。これが一種のモラルハザードを生んでいる。

仮に保険が十分でない状況ならば、自分たちが一枚岩になって外敵に立ち向かわなければイスラエルは大変なことになるかもしれないと考えたはずである。だが保険がしっかりしているせいで安心して国内対立を続け敵対国を刺激することができてしまうのだ。

国内の政治基盤強化をおろそかにしたままイランを刺激するだけ刺激した後でアメリカに「なんとかしてくれ」と泣きついてもアメリカが実効性のあるサポートをしてくれる保証はない。これは軍事的には助けてもらえず武器だけを与えられたウクライナが追い込まれた状態に似ている。当事国にとっても何もいいことはないが、アメリカもこうした口約束を通じて各地に厄介ごとを抱えることになる。つまり双方にとってデメリットが大きいのだ。

総合的に考えると「バイデン大統領は慎重にメディア対応すべきだった」とは思うのだが、おそらく性格上そういう人であり性格を変えることもできないのだろう。バイデン大統領の任期はまだ半分以上残っていることを考えるとアメリカの外交政策の基本的な条件はあまり変わらないと考えた方が良さそうである。つまり、分断は加速される方向に向かうのではないかと思う。

バイデン大統領の中東歴訪はまだまだ続く。この先も公式の発言とは別に非公式発言が注目されるのかもしれない。

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