2022年6月のCPI(消費者物価指数)が発表された。多くが前月と同じ程度の物価上昇を予測しているため「予測が外れた時のための準備をしておくべきだ」とは指摘されていたのだが「まさか前月よりひどくなるとは」という逆サプライズになった。前月発表は8.6%だったのだが9.1%まで上昇してしまったのだ。これを受けて「75bpの利上げですら甘いのではないか」とする声もで始めた。そんななかバイデン大統領はイスラエル・中東歴訪に出かけてしまい「統計など過去の数字」と冷ややかだった。
Bloombergの伝えるところによると、CPIの伸びは前月比1.3%の上昇だった。2005年以来の大幅な伸びだったそうだ。要因になっているのは、ガソリン・食料・住宅費・航空機チケットと多岐にわたっている。根本原因がはっきりしないため100bpという高い利上げが予測されるのだがこれは副作用覚悟で強い解熱剤を投入するようなものである。今回のリアクションは一時的なものかもしれないのだが、市場には「こんな状態がいつまで続くのだろうか」という先行き不透明感が広がる。
いずれにせよ、先物市場は100bpを織り込み始めた。仮に7月に100bp利上げがあったとしてもそれで終わる保証はなく9月にも75bpの引き上げが行われれば経済への影響はかなり大きなものになりそうだ。ただし実際にFRBがどのような判断をするのかということはまだわかっていない。これまでの経緯を見ていると事前の反応が過剰になる可能性が高い。
金融街の評価はまちまちだ。どちらかというと嵐の最中に良い材料を探そうとしているという様子がうかがえる。このためBloombergがつけたタイトルは「「非常に悪い」、予想上回る米CPIにウォール街は動揺」である。つまり、まだまだこの状態が9月まで続くかもしれない、出口が見えないことに対しての苛立ちが目立ち始めた。
ロイターの記事からもパニックぶりがうかがえる。状況が悪いため強くブレーキを踏んで状況をなんとかすべきだという人もいれば、供給をめぐる状況が改善していない以上利上げしか手立てがないと諦め顔のコメントも見られる。とにかく原因がよくわかっておらず「タガが外れたから急激な物価上昇が多方面にわたっている」という状態になっているようだ。
仮に「あと1ヶ月て一度我慢してください」ということであれば市場菅家者をなっとくっせることはできるのだろう。だが実際にはそうではない。ロイターから拾ったコメントの一つに「変化を待つことは常に困難で、誰もが翌月がピークになると予想する。しかし、実際には予想よりもずっと先になるかも知れない。それがこの数字が示していることだ。」というものがあった。高熱でうなされている時に「なぜ熱が出たのか」を考えても仕方がない。解熱剤で熱が下がって眠りにつけるのを期待して待つしかない。だが熱はいつまでたっても下がらない。副作用覚悟でさらに強い解熱剤を入れるのかというような状態になっている。
このように金融政策というものはかなり乱暴なものにしかなり得ない。このため政府はきめ細かな対応を講じてこのインフレを対処しなければならないはずだ。だがバイデン大統領の声明は「都合の悪いことは見たくない」というようなものだった。
確かに、バイデン大統領が原油元売りに怒りの手紙を書いたこともありガソリン価格は下がっている。ガソリンスタンドでの価格は6月半ば以降で0.40ドル(40セント)も下がっているとバイデン大統領は主張する。だがそのあとの発言が乱暴だった。統計など過去の数字と切って捨ててしまったのである。正確なロイターのヘッドラインは「米6月CPI、「受け入れ難いほど高水準」だが過去の数値=大統領」である。
現在バイデン大統領はイスラエル・中東への歴訪に出かけてしまった。イスラエルでは国内のユダヤ系を意識して「アメリカとイスラエルは歴史的に良好な関係を維持してきた」と強調している。今度は「もしイランが合意を守らないならアメリカは武力攻撃しますよ」と約束してしまった。
こうしたアメリカの事情は当然世界経済にも影響を与え始めている。日本円も139円近辺まで下落しているのだが、ユーロも「パリティ」と呼ばれる1ドル=1ユーロという状態になっている。日本やヨーロッパはそれでもなんとか耐えてゆくことができるかもしれないが、新興国にとって過度なドル高はかなりの負担になることだろう。スリランカに次いで経済破綻する国が出てきてもおかしくないというようなところまでドル高と投資資金のアメリカへの引き上げが進むのかもしれない。