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中国河南省の銀行で預金が引き出せなくなり抗議した預金者が当局から強制排除される

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かねてから気になっていたニュースがある。中国の複数の銀行から預金が引き出せなくなっていたという問題だ。政府は銀行を捜査しつつ抗議する預金者を拘束したりして事態収拾を図ろうとしていたのだが徐々に収拾不能な状態に陥ったそうだ。ついには明らかには省政府と思われる白シャツ隊などが出てが抗議する預金者を排除する騒ぎになった。ちょっとしたいざこざだと思っていたのだが「これはちょっと調べてみないと」程度の規模に拡大した。

調べて見ると河南省鄭州市という都市での出来事だった。抗議運動では負傷者まで出たようだがしばらくして河南省政府は「特例として凍結預金を肩代わりする」ことにしたようだ。

一体何があったのかをまとめ、今後の影響についても考察する。

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騒ぎが起こったのは中国河南省の鄭州市だ。鄭州市は河南省の省都で人口規模は1000万人を超える。河南省の人口も1億人程度なのだそうだ。つまり省とは言っても人口規模で見れば日本とほぼ変わらない規模の行政体である。経済規模はオランダ程度ということで決して小さな行政体ではない。

2022年の5月18日のロイターと5月26日のBloombergがあらましを書いている。鄭州市で銀行預金の返還を求める数百人が街頭で抗議活動を行った。日本の地方銀行や信用金庫に当たる村鎮銀行と呼ばれる4銀行には共通の出資先があった。その出資先がオンラインプラットフォームで違法な資金集めを行い、村鎮銀行はその窓口を提供していたようだ。つまり預金者は知らされずに「銀行なら安心」と思い込み補償のない口座にお金を吸い取られていたのだ。

次にこれが話題になったのは抗議した預金者が当局に連行・監禁されたというテレビ朝日のニュースである。この辺りから事情が怪しくなってくる。明らかな詐欺なのだから投資銀行が捜査されるのはわかる、だが抗議した預金者も「治安を乱した」という理由で罰せられた。

2022年6月18日に河南新財富集団投資控股の関係者が逮捕された。重大な犯罪に関わっているという容疑だった。中国にも日本の預金保険機構のような仕組みはある。だが今回の口座が対象になるかについて当局は明言しなかったと書かれている。この時の記事では対象者は100万人で引き出せなくなった金額が100億元(約1900億円)にのぼるとされている。結構な規模の詐欺である。

しかし事態は収まることはなかった。7月11日になって複数のメディアが1000人規模の抗議集会があり当局が強制排除を試みたと伝えた。ロイターは預金は最大2000億円に上るとしている。時事通信は排除したのは「白シャツ集団だった」としている。国家や地方政府が預金者を排除しているとはみなされたくなかったのだろう。

香港紙やSNSによると人々は河南省の外からも来ているようだ。省の外から入って来ようとする人を省ぐるみで排除しようともしたのだがこの試みは失敗している。つまりこのころから「どうも行政も加担しているらしい」ということがわかり始めた。結局、河南省政府は「極めて例外的ではあるが今回は凍結口座の被害を政府が肩代わりする」と発表せざるを得なくなった。

ではなぜこんなことが起きたのだろうか。現代ビジネスが仕組みを書いている。銀行は非正規の窓口を作って「政府の規制を受けない投資スキーム」に顧客を誘導する。金利は9%から10%と銀行の正規商品と比べると高金利に設定されており一見魅力的だ。つまり銀行ぐるみでまがい物の窓口を作りそこに資金を流していたのである。当局が預金保険機構の仕組みが利用できるかを言及できなかった理由はそこにあるのだろう。

現代ビジネスは創業者(記事はフィクサーと書いている)の呂奕という人が地方政府とのつながりを持っていたと書いている。地方政府も「土地開発錬金術」に絡んでいたというのだ。

この地方政府と呂奕氏の癒着ぶりを示すエピソードがある。それがコロナアプリである。河南省政府はゼロコロナを目指して人流を管理している。これを利用して預金者を把握した上で預金者が越境しようとすると「外出禁止」になるように操作していた。健康コードを不正に操作したため省の境を越えようとするとアプリが反応するようなずさんな計画だった。

当然こんなことをすれば不審に思った抗議者たちがSNSで情報を拡散することはわかっているはずだ。そもそもデジタルで不正操作をすれば容易に証拠が残ってしまう。操作された人の人数は1300人だったそうで「これくらいなら大丈夫なのではないか」と考えたのかもしれない。関与した河南省政府幹部は5名だった。結局外から入ってくる抗議者を阻止することはできず騒ぎは拡大し「返金」に追い込まれた。政府に訴えても相手にされず抗議運動をやってようやくお金を取り戻すことができたのだ。

中国の資本主義は共産党が支配する擬似資本主義である。それだけに厳格に管理されていると思われるわけだが、おそらく実情はそうではないということなのだろう。ロイターはこの一件についてコラム:中国河南省、国内経済の「ほころび」を一度に体現とまとめている。人口は日本よりやや少ない程度だが経済規模もオランダ並みなのだそうだ。だが水害と熱波に苦しんでおり、最近では州政府も関わっていたと思われる金融不安も起きた。河南省の人たちは不安を募らせている。

ロイターが心配しているのは塩漬けになった不良債権である。つまり土地バブルが起きた日本と同じ構図になっているのだ。これまで個人的には「中国は日本と違って管理資本主義なのだから政府がなんとかするのだろう」と思っていたのだが、今回のドタバタを見るとことによっては日本より悲惨な状態に陥るかもしれない。中国の経済成長は明らかに減速しているが習近平体制は高い目標を設定している。中央指導部の理想に地方がついてゆけなくなっていることがわかる。そればかりではなく金融機関が実際に何をやっているのかが管理しきれなくなっている。

「中国国内が混乱するだけならそれはそれでいいのではないか」とも思えるのだが、そうはいかない。中国はアフリカ諸国に多額の貸付を行なっているのだが中国政府からの貸付は民間の1/3しかないのだという。つまり3/4は民間債務ということになる。実際には公開されていない契約も多く全容は明らかになっていない。つまり中国政府には債権を整理する能力はないことになる。強い権限を持つ中国共産党の中央執行部が「アフリカからの取り立てを待ってやれ」と号令をかけることは可能なのだろうが、全容がわからないとバランスを崩した金融機関が一斉に破綻しかねないということになる。

ちょっとした国内の詐欺ですらこれだけの大騒ぎになるとすればとても対外債務の再編などできないだろう。イエレン財務大臣は「低所得国の債務再編に中国が協力しておらず「非常に苛立たしい」と発言」したそうだが、これは中国政府に管理能力があるという前提の話である。本当に今の中国政府にそのような能力があるのかどうかは誰にもわからないということになる。

では「中国も困ったものだ」で済むのかという話になるのだがもちろんそうはならない。スリランカ経済は破綻し大統領が逃げ出すという騒ぎが起きている。大統領はドバイに逃げようとしたそうだが入管に拒否されて海路で逃げることを検討しているのだそうだ。ドバイを逃避先に選んだことから大統領は中東にそれなりの蓄財があるのかもしれない。他にもスリランカに続きそうな国があることを考えるとこれは大きな国際的な動揺に結びつく可能性もあるということが言えそうだ。

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