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スリランカに続くのはどこか。いくつかの新興国でデフォルト危機

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Bloombergが「新興市場債、30兆円強がデフォルトの恐れ-スリランカ後も続く可能性」と言う記事を出している。途上国全体で2,500億ドルがディストレスト債に分類されているという。Bloombergはいくつかの国を名指しして「危険はかなり高まっている」と指摘している。名指しされた国はエルサルバドル・ガーナ・エジプト・チュニジア・パキスタンだ。

日経新聞も同じような記事を出しているのだが、こちらは12カ国にリスクがあると書いている。日経新聞はなぜ新興国がこのような状態に陥ったのかということを解説している。背景にあるのは無理な貸付をした後で優先返済を迫る中国の存在である。

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Bloombergが名指しした国のうち、エルサルバドルは暗号資産が国の通貨になっており「混乱する可能性があるんだろうなあ」と感じる。またパキススタンも首相の座を追われたカーン首相が院外から「選挙をやり直すように」訴えている。こちらも混乱が予想される。

だが、そのほかの三つの国については事情がわからないので改めて調べてみた。表面的な原因は民主主義の失敗である。議会制民主主義で合意に至ることができなくなった国は大きな権威で無理やり国をまとめ上げることになる。すると権力の私物化が起こり経済が停滞するのである。これだけを見ると「独裁はいけない」というような気がする。細かく見てゆこう。

民主化が失敗したチュニジア

チュニジアはアラブの春と呼ばれる革命で民主化が進んだが、議会がまとまらなかったために経済は混乱したままだ。チュニジアの小麦生産は、長年の干ばつと、2011年の革命後10年間に10回も政権交代するという政治的不安定に苦しんでいるなどと書かれておりその苦境ぶりがうかがえる。

結局事態を収拾したのは大統領だった。サイード氏は伝統的な政治家ではなく小児科医で大学教授という経歴の持ち主である。まとまりに欠ける政治家たちに大きな憤りを感じたとしても不思議ではない。このためサイード氏自身には「清廉潔白である」というイメージがあるそうだ。

サイード大統領は2021年7月に議会を封鎖し「クーデターだ」と非難された。2022年4月にもう一度議会封鎖があったようだがこのためサイード大統領は一定の支持を受けているようだ。

サイード大統領は独自の改憲案を提示し再び独裁化の道を歩み始めている。選挙監視団の申し出もあったのだが拒否しているのだそうだ。今後憲法改正の国民投票が7月25日にあり順調に行けば新しい憲法のもとで12月に総選挙が行われることになる。チュニジアが混乱に陥れば国民の反乱が予想される。サイード大統領は軍と治安部隊を抑えているためかつてのアラブの春のようなことはなさそうなのだと言う。

チュニジアの民主化は一人の青年が焼身自殺したところから始まっている。だがその後の混乱は「民主主義は問題を解決してくれなかった」という諦めを生んだ。きっかけになった露天の果物商だったブアジジさん(当時26才)はすっかり嫌われ者になっており家族はカナダに移住したそうである。

チュニジア政府は多額の債務を抱えておりIMFは国営企業の野心的な改革を求めていた。IMFは国営企業にではなく貧困層に直接給付をするように求めている。だが、労働組合が抵抗大統領もIMFに配慮を求めているそうだ。つまり国内事情を抱えるサイード氏は自分たちを支えてくれる支持母体に強く改革を求めることができないという弱みも抱えているということになる。さらに財政破綻の原因もよくわかる。政府に直接ぶら下がっている人があまりにも多すぎる大きな政府なのだ。

おそらくサイード氏のもとで抜本的な改革が行われる見込みは薄くIMFの救済も滞ることが予想される。議会が政府改革を要求することもなく大統領も政府のリストラができないというのがチュニジアの現在地のようだ。

軍が政権を掌握したエジプト

エジプトもアラブの春が破綻して軍政に戻った国の一つである。こちらは民政に復帰したが大統領になったのはクーデターを主導したシシ元帥だった。シシ元帥は軍評議会から2014年に大統領選出馬の承認を得た。こうした非民主的なバックグラウンドのためシシ大統領とアメリカの関係は良くない。となると代わりに接近するのは中国である。

軍産複合体が政府からのバラマキを受けるというのが一般的なあり方であるが、軍とシシ大統領の関係についてはあまり詳しいことはわからない。現在、シシ大統領は「首都移転」というビッグプロジェクトを掲げている。手がけるのはもちろん中国企業である。産経新聞は総工費450億ドル(約5兆1000億円)という壮大な事業だと書いている。

ところが中国に接近した国はほぼ例外なく後悔することになる。中国の援助は国の経済成長には寄与しない。にも関わらず中国への債務が増えてゆく取引になっている。このためエジプトは2022年5月に通貨を14%切り下げた。IMFに支援を要請するための下地づくりであろうと日経新聞は見ている。支援のための前提条件になっていたそうだ。日経新聞はサウジアラビアにも支援を求めていると書いている。

エジプトはロシアとウクライナに輸入小麦の8割を頼っている。このためインドに支援を求めていた。また燃料高も続いているため外貨準備に不安が残る。

だがシシ大統領が中国に依存して進める首都移転計画が中止になったという話は出てきていない。IMFやサウジアラビアの援助も期待しつつ中国に依存して自分たちを支えてくれる人たちに分配したいという思惑が透けて見える。ついでに首都移転を成し遂げた偉大な大統領として歴史に名前を刻みたい。

この国の末路も押して知るべしという気がする。

一見順調そうに見えるガーナにも中国の影がさす

チュニジアとエジプトについてはいくつかの記事が見つかったのだが、ガーナについては日本語で全く情報がない。経済規模が大きくない上にあまり注目されていないのだろう。

ガーナは地下資源とカカオ豆に依存する典型的な発展途上国型の経済だ。だが、経済成長率だけを見るとかなりの急成長を遂げている。コロナ前の成長率は7%であり減速したとはいえその成長率予測は5%もある。西アフリカの置ける安定化の先導役と言う評価すらあるそうだ。

ただしこのガーナにも中国の影がさす。2013年には違法採掘者がガーナで金を採掘しているとして一斉摘発があった。また、2020年にはガーナの財務省が中国に向けて「債務削減に協力するように」要請している。この時の主体はアフリカ諸国でありガーナ一国ではないのだがこの困窮している国の中に中国が含まれていることは間違いがないだろう。

おそらく、中国は相手国の経済が順調に成長することを前提に債務計画を立てている。コロナ禍やウクライナの戦争のような経済不調があっても構わずに債務返済を求めてくるのだろう。このため新興国の中には首が回らなくなるところが出てくる。ところがIMFは構造改革を求めてくるため安易にIMFにも頼りたくない。さらにアメリカの金融政策がタカ派に転じると資金が新興国から流出し経済危機を招くのだろう。

ではなぜ中国が関わると国家経済は破綻に向けて歩み出すのか?

さて、ここまで見てきて「中国が関わるとかなりまずいことが起こるようだ」ということはなんとなくわかった。また非民主主義の国では政府に期待する人たちをつなぎとめておくためになんらかのバラマキや生活保障が必要になるということも理解できた。国によってその構成要素は様々なのだが最後になぜ中国が関わると国家経済が怪しくなるのかということについて触れておきたい。

20世紀は支援の世紀だったのだが21世紀に入り経済的なパートナーへと位置付けが変わった。パートナーというと聞こえはいいのだが要するに「お金の匂いがしなければ助けてあげない」ということである。そこに入り込んできたのが中国だった。もともと権威主義的な中国は独裁政権に対する拒絶反応を持たない。とにかく投資した金が戻ってきさえすればいいわけである。

ところが中国は別の意味でとても厳しい債権者である。要するに何があろうが貸した金は計画通りに返してもらおうとする。独裁国家の経済的見通しは甘く設定されているため約束を守れない国が出てくる。そもそも約束が守られる国が中国の融資に手を出すことはない。

冒頭の日経新聞の記事は構造的な問題に触れている。かつて新興国への貸付はパリクラブと呼ばれる債務再編のスキームがあった。借り手が破綻しては元も子もないため日欧米が自分たちが持っている債務を全て公開し連携して返済調整をしていた。ところがここに中国が入ってきたことで状況が混乱する。先進国が返済を猶予したとしてもその分を中国が取り立ててゆくというのだ。

秘密条項がついている国もあり「契約の4分の3はパリクラブが主導する債務整理を拒否できる条項を盛り込んでいる」そうだ。つまり先進国が返済を猶予をしても中国が容赦無く取り立ててゆけるということになる。

先進国はパリクラブを通して温情的な貸付を通じて新興国を甘やかしてきた。だが先進国が新興国を支えきれなくなると多くの国が中国に頼ることになった。中国は「貸した金はきっちり返してもらおう」という態度のため、各国政府は外貨を取り崩してでも中国への返済を優先させるこ。こうしてパリクラブへの返済は滞り、国会財政が破綻するところまでててきたということになる。

最終的にこうした独裁国家や破綻した民主主義国家が泣きつくのはIMFだが、IMFは国民に「放漫財政への猛省」を要求する。かつての韓国のように意識転換に成功した国もあるのだが、スリランカのように政府が崩壊してしまうとそもそも交渉相手がいないという状態に陥る。

スリランカでは大統領が退任し議会が次の大統領選びを始めた。スリランカ中央銀行の総裁は「それまでIMFとは交渉ができない」とあきらめ顔だ。

ただし国が崩壊した後の危険性は各国によって異なる。例えばスリランカは局所的な内戦状態に逆戻りするだけで済むかもしれない。関わるとしてもインドが出てくるくらいの話ではないかと思う。だが、エジプトで政局が混乱し近隣各国が介入したらどうなるのだろうか?と考えるとただ事では済まないように思える。近隣には常にきな臭い空気が立ち込めておりイスラエルを通じてアメリカ合衆国も関与している。

日経新聞によるとそのほかにも危ない国があるようだ。場合によってはかなり危険な状況に陥る地域が出てくるのかもしれない。

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Comments

“スリランカに続くのはどこか。いくつかの新興国でデフォルト危機” への2件のフィードバック

  1. 債権者としての先進国は温情的で中国は非情な取り立てをする、というのは間違っているわけではないのですが一面であり本質ではないです。
    中国が非情な取り立てをするというのは、その能力が有る、つまり軍を持った国家だから。たとえばウォール街の民間ファンドが新興国に貸付をしているケースでは、新興国が支払いを渋った場合強引な取り立てをする手段がないわけです。それは結果として温情的に見えるかもしれませんが、別に支払いに音声をもって接しているわけではないですよね?
    ※調べればわかりますが新興国の債務の多くは民間からなので、上記のようなケースが多発します。
    さらに言えば、非情な支払いが必要になっているというのは中国にとっても不本意なケースです。中国が罠を仕掛けて新興国を縛っている、というような見方もありますが、巨額な債務なわけですから返済中も縛っているわけで、支払いが滞っても中国に利益はありません。
    では、先進国の、たとえばADB(アジア開発銀行)の貸付と、AIIB(中国)の貸付のどこに本質的な差があるのか? と問えば、その差は「育成能力」です。
    新興国が経済的に脆弱なのは、たしかに資本がなくて大規模な開発が出来ないからと言う側面もありますが、政治が不安定で教育が十分ではなく、つまりは国家運営も経済育成も上手ではないからなわけです。国民や官僚や経営者の育成は一朝一夕には出来ないから、そこに巨額の貸付をしたところで、それは賄賂になったりバラマキになったりするだけでうまくいく可能性は少ない。
    ADBなどの先進国(はっきり言えば日米)の貸付は、返済までのシナリオや人材育成込みで動くので非情な取り立てというlose-loseな結果にならずに済み、貸付経験の少ない中国は計画策定や他国の育成に失敗している。結果として中国債務の罠という状況が発生しているわけです。

    1. 中国の政府の融資が民間の1/3であるということは読みました。ざっくりと1/4だけが政府からの融資ということになるんでしょうか?

      河南省の取り付け騒ぎについて書いたのですが、民間融資が制御不能な状態に陥りかけているのかもしれないなと感じました。つまり中国政府が債務を整理しようとしても実際にはそんなことができない状態になっているということなのかもしれません。こうした状態では中央政府が債務を再編するのはかなり難しいんでしょうね。民間がすでに危うい状態にあるのに外国に貸した金の取り立ては待ってやれと号令をかけても、民間金融機関のバランスが崩れてしまうだけだからです。

      さらに加えて地方政府が民間金融機関に関わっているとしたらさらに大きな問題に発展しそうです。

      コメントありがとうございました。