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7月24日を境にアベノミクスと黒田総裁の金融政策についての見直しが粛々と進む

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安倍元総理が亡くなってから1日が経った。Twitterでは依然として動揺が広がっているのだが選挙戦は従来通りに行われた。

一方で金融・経済的にはまた別のイベントが待っている。粛々と始まっていた動きなのだが偶然にも大きな事件と重なってしまった形になる。7月24日に安倍政権で任命された「上潮派」の日銀政策委員が退任しいよいよアベノミクスの出口を模索する動きが始まる。

あまり選択肢がなかった参議院選挙よりもこちらの方が我々の生活に与えるインパクトは大きいのかもしれない。

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表向きは「前政権・前々政権」の継承を掲げる岸田政権だが実際には脱却の動きが出ている。例えば防衛省関連では予算倍増を前提とした防衛予算の組み替えを行うべきとする人たちと「必要なものを積み上げるべき」とする人たちがいる。岸田総理は安倍元総理に近い島田次官の留任を認めず鈴木敦夫さんを次の次官に任命した。

日銀でも同じような動きが起きている。経済に関心が高い人たちはすでにご存知の人事なのだろうとは思うが改めてご紹介して起きたい。

Bloombergの2022年3月24日の記事「高田・田村氏の日銀審議委員起用に同意、7月就任へ-衆院」は日本銀行政策委員に高田創さんと田村直樹さんが就任すると伝えている。新しい任期は7月24日に始まる。リフレ派のエコノミスト片岡剛士氏の置き換えであるため「リフレ政策の転換」とみなされている。残りのリフレ派は3名でそのうちの一人である若田部昌澄さんの任期は2023年3月までなのだそうだ。

若田部さんがこのまま総裁として残るか別の方になるのかが注目される。いよいよ、後継の日銀総裁探しが始まるわけだが当然安倍元総理は岸田総理に対して「リフレ派の総裁を任命するように」と働きかけるつもりだったはずである。

一方で、安倍元首相が推していた黒田総裁を途中退任させてでも雨宮副総裁を総裁にすべきだと言っていた人もいる。それがミスター円と呼ばれた榊原英資氏である。Bloombergには「日銀エースの雨宮氏が後任、黒田総裁は2期途中で退任-榊原元財務官」という記事がある。

黒田総裁は「財務省出身」であり雨宮さんは日銀生え抜きだ。榊原さんは日銀生え抜きの雨宮さんこそが総裁にふさわしいと主張していた。黒田さんは財務省出身だがこのような人は「中継ぎ」である傾向が強いのだと榊原さんは説明していた。むしろ雨宮さんを副総裁にして経験を積ませた上で総裁にするのが良かろうというのだ。

仮に榊原さんが個人的に勝手に言っているのならそれまでの話なのだが、あるグループを代表しているのだと考えると話は変わってくる。

それにしてもなぜ当時榊原さんの「予言」は外れたのだろうか。

この頃はちょうど「戦後史上最大の好景気」などと言われていた時期である。榊原さんはの計画は「中継ぎの黒田さんがゲームを立て直したあと満を持してエースを投入する」という計画だったように思える。

ところがこの計画は実現しなかった。それは安倍政権が宣伝していた戦後最長の景気拡大が幻に終わってしまったからである。この件について当時のことを覚えている人も多いだろうが、西日本新聞が詳細なレポートをまとめている。

安倍政権の主張するところによると2012年の12月からの景気拡大は戦後最長だとされていた。一方で野党は「アベノミクスはうまくいっていない」とか「統計に問題があるのでは?」などと主張していた記憶がある。GDPの算定基準が変わったことが問題視されていたのだ。これも西日本新聞の記事が検索トップで出てくる。

最終的に「腰折れ」を判断したのは有識者会議だった。当時の西村康稔経済再生担当相は「総合的に見て景気拡大の判断は間違っていない」と強調している。政府が失速を認めたくなかった気持ちはよくわかる。

結局、檜舞台が整う前に景気は失速してしまった。さらに、平均成長率は1%台であり政権を刺激しないことで知られる日経新聞ですら「戦後2番目の景気拡大、その実情は?」の中で不満を表明している。日経新聞は政権批判は避けつつデジタル投資が抑制されていることと成長率が外国に比べて見劣りをしていると指摘した。単に数字が上がっているだけで実態は停滞だったのではないかというのだ。国民の間にも景気が良くなったという実感はなかった。

榊原さんの観測がどの程度政府の空気を反映しているのかはわからないのだが、いずれにせよこの時にアベノミクス(リフレ派・上げ潮派)を軌道修正して徐々に通常運転に戻そうとする試みは失敗したものとみられる。結局、政府は黒田依存から抜けられなくなり現在に至る。

もちろん、アベノミクスと黒田氏の政策が全て悪かったなどと主張するつもりはない。ブルームバーグの「黒田日銀総裁と異次元緩和推進、円高是正と株高実現-安倍氏死去」は過度な円高を是正し株価の上昇に成功したと黒田日銀総裁の政策に一定の評価を与えている。

毀誉褒貶の激しいアベノミクスだがこれほどまで大胆なことをやらなければ日本はもっとひどい状態になっていたのではないかとする人もいる。その代表的な一人がクリントン政権時代に財務大臣を務めた経験のあるサマーズ氏である。

FRB議長にも名前が上がったそうだが民主党からも反対があり就任は見送られたそうだ。ロイター通信は「過去の金融緩和政策への支持」や「女性蔑視発言」が警戒されたと書いている。つまり元々大胆な金融緩和政策信者でありクロダノミクスを自身の経済理論の正当性を証明する材料として使いたいのかもしれない。アイディアはいい。だがやり方がまずいというわけだ。

サマーズ氏は「世界がまたリセッション入りしたならアベノミクスの研究が進む」と主張している。今回のBloombergの記事を読んでも擁護論の内容は分からない。だが、サマーズ氏から見れば「もっと上手く日本を経済成長の軌道に乗せられたはずなのに成果が出ていないまま再び経済停滞に入ってしまえば積極財政策が受け入れられなくなる」という気持ちがあるのかもしれない。

本来なら「何が良かったのか」「何がいけなかったのか」を総括して次に進むべきなのかもしれないのだが、日本の政策議論はサマーズ氏の期待するようにはならないだろう。日本では前任者が否定されることはなく粛々と路線変更が行われるのが常だからだ。今回の参議院選挙も表向きは「安倍元首相の政策には一定の評価があった」としつつ水面下での人事を通じて次第に別の路線に移っている。

その動きはすでに始まっていたのだが今後加速してゆくことになるのだろう。何となく水に流して終わらせるのが日本式なのである。誰も傷つけないという利点もあるが、経験が次に活きないという欠点もある。

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