ざっくり解説 時々深掘り

安倍氏の件についてついに宗教団体の名前を特定した媒体が出てくる

タイトルには少し苦労した。フィードによっては後で修正が効かない場合があるのだが、下手に団体名を書いてしまうと変なハレーションが起こりかねないからだ。

すでにご存知の方も多いと思うのだが、現代ビジネスが統一教会の名前を特定し「独自記事」を出している。配信時間は23時ごろだったのですでに6時間ほどが経過した。

かねてから噂されていた安倍元総理と統一教会の名前が投票日に結びつくという異例の事態になった。現代ビジネスの記事は【独自】安倍元首相を撃った山上徹也が供述した、宗教団体「統一教会」というタイトルになっている。

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すでに当ブログの昨日の記事にもコメントをいただいているのだが改めて経緯を整理しておきたい。

  1. 安倍元総理が撃たれた。「かなり危険だ」という一報が入り騒然とした。
  2. 当初マスコミの中には「ある宗教団体だ」という捜査員の情報を伝えていたところがあった。
  3. テレビではキャスターたちが黒いネクタイをつけ「準備」をしつつ「心肺停止のまま救命措置が続いている」と伝え続けた。5時ごろに亡くなったことがわかった。
  4. 公式発表では「宗教」が取り除かれて「ある団体」という話になった。NHKはこれを丸めて「容疑者の勘違いだったようだ」という印象がつくような伝え方をした。なんとなくマスコミの中に空気が作られてそれに従う形で一旦収束してゆく。
  5. ところが英語版のロイターは同じ会見について「警察はその団体が実在するか特定できていないと加えた」と書いた。どうやらこのサークルの空気を共有していない記者はいたようだ。
  6. マスコミである空気が醸成される一方でTwitterなどでは特定の宗教団体の名前が取りざたされ始める。また、大手新聞社による取材合戦が始まり「やはり宗教団体だった」とか「母親が寄付をして一家がめちゃくちゃになったと供述している」という話が出てきた。ただし宗教団体の名前は特定されないままだった。
  7. 警察はいよいよ「宗教団体である」ことを隠しきれなくなり再び「ある団体」から「ある宗教団体」に表現を戻した。さらに母親が多額の寄付をしていたという情報が「新たに」わかったと修正された。すでに朝日新聞読売新聞の記者が掴んでいた情報だったのだから「新たに」ではなかったのだろう。
  8. 現代ビジネスが「独自」として宗教団体は統一教会だという記事を出した。この報道をバックアプする媒体はまだ出ていない。

フランスではすでに報道が始まっていた

ロイターの記者が本当に違和感を感じたのかはわからないのだが、実はフランスではすでに統一教会との関連が報道されていたそうだ。il aurait+動詞で完了形が作られる。続いてvoulu(vouloir の過去分詞)が来ると「元々〜したかった」という意味になる。海上自衛隊はフランスでは軍隊とみなされており、統一教会はla secte Moon(文氏のセクト)と言われるようだ。なお、英語のメディアでムン・セクトについて言及しているものはなく、この情報の確度も今後検証されるべきだろう。

LE FIGAROの記事は現地記者からの伝聞という形になっている。selon les médias locauxとなっているので「地元メディアによると」という意味になる。結果的に地元メディアがこれを伝えることはなかったのだから現場ではすでに特定の名前が飛び交っていたものの「東京」が抑えたのかもしれない。だが、現在は海外メディアがすぐ読める上にSNSで拡散する。さらに自動翻訳で大体の筋がわかってしまうのだ。

結果的には何もなく本当に良かった

まず、懸念から書いておく。仮にこの統一教会という話が本当でなかったとすれば虚偽の情報を元に状況が混乱する可能性があった。

だが、問題はこれが本当であったらという点にあるのかもしれない。かなり大きな団体なのだから被害者が一人であるとは考えにくいのだ。容疑者は一人で手製拳銃を複数作ったという印象で伝えられているのだが「本当に組織がなかったのか?」ということになる。

今回の襲撃を受けて要人たちの警護は固まった。新潟市で行われた岸田総理の演説では入念なボディチェックが行われていたようだ。だがやはり大勢の人たちを集めて集会が行われたのは事実である。安倍元総理の襲撃事件でも聴衆に被害が出ないのは単なる幸運な偶然だったようなので実はかなり危険なことをやっていたのかもしれないと思う。結果的には何事もなかったので本当に良かったと感じた。

一部では「無敵の人は防げない」という話が出てきている。いくら警護を万全にしようとも突っ込んでくる人がいればおそらく防げなかっただろう。演説をしている要人は守ってもらえたと思うのだが、そうでない人が巻き込まれた可能性も捨てきれないのである。

警察や政府関係者がここまでの影響を配慮していたかは不明だ。

警察とマスコミは何を守ろうとしたのか

現代ビジネスは別の記事を出している。それがある「違和感」だ。キャスターたちが事前に黒いネクタイを着用していたことから不測の事態に備えていたことは確かだろう。現代ビジネスはこれを「各局揃って喪服」と表現する。この喪服を見て「ああ助からないのだな」と察した人は多かったのではないだろうか。

すでに宗教団体であることはわかっていたのだから記者たちが当然官邸に裏どりをしていたことは確かだろう。逆に騒ぎが大きくなることを恐れた官邸側から「報道協力のお願い」があったと考えるのが自然である。つまり「対応を考えるから発表をしばらく待ってくれ」だった可能性がある。

これを「隠していた」というつもりはない。影響が制御不能になることを恐れたことは十分に考えられる。また選挙運動は続行中だったのだから、これが特定の政党に対する攻撃材料に使われる可能性もあっただろう。

ただ、ロイターのような外信は「お願い」の蚊帳の外だったのかもしれない。日本の媒体が「なんとなく事情を察する」なかで外信だけが「何か不自然だな」と感じていたということは考えられる。さらに、記者クラブに加盟していない現代ビジネスのようなところはこうした「お願い」に協力する必要はない。あまり派手に外してしまうと媒体の信頼はなくなるのだろうが「独自」で名前を売りたいと考えるだろう。つまりお願いの輪は破られる運命にある。さらに後になって海外の媒体から「実は本当はこうだったんだそうだ」という情報が入ってくる。たとえフランス語が読めなくてもSNSにフランス語を知っている人がいれば伝聞の形で伝わりソースも確認できてしまうのである。

現代ビジネスもさすがに「選挙キャンペーン」に利用されかねないということは配慮したのだろう。選挙運動が全て終わった深夜の「独自」解禁になった。

善意に解釈すると「社会に動揺を与えないため」に報道を抑制しリアクティブな反応を抑えようとしたのかもしれない。警察も政権も大手マスコミも「ショッキングな出来事が起きたが、日常を壊すまでの出来事ではなかった」という印象を与えようとしたのだろう。それが良いことなのかそれとも余計な配慮だったのかは受け取る人によって評価が異なるのかもしれない。少なくとも「日常を続けようとする力」がとても強い社会なのだということがわかる。

ただ繰り返しになるのだが、こうした「正常性スクラム」は徐々に成り立ちにくくなっている。SNSで瞬時に情報が拡散されてしまうからだ。一旦外に情報が漏れだすと誰も責任が取れなくなる。

情報を隠そうとすればするほど広がる陰謀論

今回の朝日新聞や読売新聞の記事を読むと山上徹也容疑者が「思い込み」を募らせていった理由が書かれている。安倍元総理と宗教団体の関係は公然の秘密だったのだが大手マスコミがそれを伝えることはなくネットでは陰謀論扱いされてきた。その中で孤立した山上容疑者が恨みを募らせてゆき凶行に及んだと考えることができる。

仮にこれがきちんと公表されていれば、少なくとも「陰謀論扱い」で孤立することはなかったはずである。仮に近すぎる関係があればそれは社会からの批判という形で修正されていたはずだ。悪い影響を最低限に食い止めようとして「善意で」情報コントロールしたとしても、結果的にそれが誰かの思い込みを募らせることがあるということは今一度自覚をしたほうがいいと思う。

今回のような不幸は取り返しがつかない。警察は警備体制を見直して責任を取ると言っているのだが亡くなった命を元に戻すことができる人など誰もいないのだ。

本当に組織的な背景はなかったのか

今回、複数の密造銃が出てきたことで「過激派の拠点のようだな」と感じた人も多かったのではないかと思う。平成・令和の人は知らないかもしれないのだが、かつては実際に「アジト」と呼ばれる過激派の拠点があった。仮になんらかのネットワークがあったとすれば全くノーマークだったことになる。

新興宗教・左派組織は公安の監視対象になることが多いのだが新興宗教の被害者や被害者と分派の結びつきなどはマークされてこなかったということなのかもしれない。おそらく警察はすでになんらかの捜査はしているのだろうが、それがどのような形で公開されるのかということは今の時点ではわからない。

選挙結果が落ち着くまで「対応」はなかなか難しそうだ。我々がまだ知らない情報が月曜日以降にも出てくるのかもしれない。いずれにせよ今日1日は特定政党や候補者の名前を出してなんらかの働きかけをすることは禁止されている。だから少なくとも今日は目立った話は出てこないのだろうと思う。

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