ざっくり解説 時々深掘り

イタリア・ポー川流域の渇水問題とヨーロッパの原子力発電所再稼働問題

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

BBCが短くイタリアのポー川流域が渇水で非常事態宣言が出されたというニュースを伝えている。ポー川はイタリアの北部を西から東に向けて流れている。エミリア・ロマーニャ、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア、ロンバルディア、ピエモンテ、ヴェネトの5州に緊急資金として3650万ユーロ(約52億円)が支給されるそうだ。ただ調べてみると渇水と乾燥化は南ヨーロッパ共通の課題になっている。フランスでは渇水が常態化しておりそもそも国際ニュースにならない。気候変動問題はアルプスの南に位置する国で大きな問題となっておりそのほかのヨーロッパとの間に認識の温度差が見られる。その温度差が最も顕著に現れるのが原子力発電所の再稼働問題である。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ポー川の源流はフランスとイタリアの国境にあるアルプスだ。一つの源流があるわけではなく複数の川からの水を集めて東側に向かっている。冬に降った雪が暖かくなると溶け出してポー川に流れ込むというような気候なのだろう。つまり春や夏に雨が少なかったから水が足りなくなるという日本型の渇水とは状況が異なっている。

アルプスからの水が流れてこなくなるとポー川の流域が渇水となりイタリア北部の農業が被害を受ける。その被害はイタリア全体の農業生産の3割にあたる。さらにポー川の傾斜は緩やかなため上流からの水が流れてこないと地中海側から水が押し寄せてくる。海からの水は塩分を含んでいるためポー平野の農地が影響を受けるのだという。

イタリアの米作がどのようなものかを調べて見た。2014年の記事が見つかった。アルプスの麓にあるベルチェリ州では高級で香りが高いリゾットを作れる高級ブランド米が作られている。水が豊富でなければコメを作ることはできない。この土地でコメが作られるようになったきっかけはレオナルド・ダビンチが設計した灌漑設備なのだという。つまり、昔からのイタリア北部の農業を支えてきた気候が大きく損なわれているということがわかる。

イタリアの稲作の歴史は12世紀にさかのぼる。カトリック教会に属するシトー修道会の修道士によってフランスから伝えられた。ただ、イタリアで本格的に稲作が始まったのは、イタリア・ルネサンス期に、レオナルド・ダビンチ(Leonardo da Vinci)が設計したかんがい設備が導入されてからだという。

イタリアのコメ輸出が急増、小規模農家が作る高級米が人気

ベルチェリ州のような上流にある州は今回の救済対象にはなっていないようだが、ドラギ首相はこの渇水を「地球温暖化の影響」としている。ヨーロッパの認識が気候変動にあると考えていることは間違いがなさそうだ。

こうした渇水はフランスにも広がっている。2022年5月と6月の記事が二つ見つかった。

フランスでは近年渇水が問題になっている。まずはスペインに近い南部地域から始まったが最近ではロワール川を超えて渇水が広がる。一部地域では乾燥化も進み家の壁がひび割れ倒壊の危険が出ているほどだ。この渇水の対策として貯水池が作られているがある地域に水を貯めると下流に水が流れなくなるという問題があって物議を醸している。

フランスが温暖化対策として力を入れているのが原子力発電への取り組みだ。フランス電力が既存発電所の原子炉入れ替えに難色を示しているため「再度国有化してでも原子炉を交換させる」と表明した。

一方、イタリアではエネルギー政策の話が出てこない。イタリアはすでに原子力発電所を廃止しておりエネルギーの多くを隣国から買っているのだそうだ。一時は「価格が安いのなら」という理由で原子力発電所を再稼働させようという話があったようなのだが2011年の福島ショックにより議論は立ち消えになった。

一方でアルプスの北側の国々はこれほど強い危機感は持っていない。チェルノブイリと福島という2つの重大事故の記憶が残り原発再稼働には懐疑的である。

ロシアのウクライナ侵攻でロシア産のガスが滞るようになったドイツは原発か石炭かという究極の選択を迫られている。左派政権ができたばかりのドイツはエネルギー政策で最も揺れている国と言って良いだろう。ロシアのウクライナ侵攻に伴い一時期「原子力発電所の維持をするのではないか」などと言われていたのだが、3月に入ると「やはり稼働延長はしない」ということになった。つまりこのまま国内の原子力発電所を止める予定になっているようだ。その後のまとまったエネルギー政策の議論はニュースとして上がってきていない。

EUでは原子力と天然ガスを持続可能な発電方法に組みいれることで民間投資を取り込もうとしようとしている。議会に諮ったところ賛成は328票だったが、反対も278票に上り、棄権は33票だった。原子力発電所は一度事故が起これば影響が近隣国に及ぶ。このためオーストリアは原発の再エネへの組み込みに反対しており提訴も辞さないと表明している。

いずれにせよスペイン、フランス、イタリアといった国々は現実の問題として地球温暖化による渇水と農業被害という喫緊の課題を抱える。ドイツではこの問題はむしろ政治問題と考えられておりオーストリアのように強硬な国もある。このためこの問題に対してのヨーロッパの姿勢は割れており意見をまとめるのは難しいのかもしれない。

つまりこの渇水の問題は単に農作物が被害を受けるという以上のインパクトを持っているのである。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です